明け方の時間、白む空の下……。
森の木々がそよ風に揺れ、小鳥が囀り始める静かな森の中───
「ひっ……ひぅう……ッ!」
静かな筈の森の中。母の願い虚しく、魔王少女 樋山アクルは早速窮地に立たされていた。
「ぎゃっ」
「ギャーアクルたーん! しっかりー!」
巨大な猪に突進されて、アクルの小さな体がぶっ飛ぶ。トラックにでも跳ねられたかの様だ。
地面を跳ねながら転がるアクルだが、なんとか身を起こして鐔の無い大剣、『クラウ・ソラス』を構えた。薄暗い森の中、アクルの周囲を包む優しく冷たい銀の光が、辺りを照らす。
突っ込んで来る、『パイア』と呼ばれる普通よりやたらでかい猪に向けて、アクルも玉砕覚悟で突っ込む。
「やぁぁあッ!!!」 と突っ込んで、「ぎゃっ!」と飛んでくアクル。
小さな身体は岩に叩き付けられて、背骨がへし折れ破裂した内臓が口から吐き出される。
「あっ……ぐっ…がっ……!?」
「無茶苦茶な真似するから……」
よろよろと身を起こすアクルは、霞んだ目を凝らしながらパイアを見る。
猪はアクルの方を向くが、ぶるぶると震えてそのまま大きな音を立て倒れた。
「はふぅ……」
それを見て、アクルもへなへなと地面に尻餅をつく。肩で息をしながら生を実感。勝った。良かった。
「あれだな、まぁ玉砕覚悟が功を成したな! あれだろ? 突進力が高いから、こっちも突進しながらクラウ・ソラス突き刺せば刺さると思ったんだろ?」
軽く頷きながら……アクルは倒れたイノシンを眺める。
パイアーの眉間に突き刺さる銀光の大剣。それは、少しの間をおいてから燐光を放ちかき消えた。
大剣が消えるのと同時に真っ赤な血が噴水のように噴き出して、アクルは少しビクリと肩を揺らす。
「…………」
ようやく落ち着いて来たアクルは、ゆっくりとパイアに近付きその亡骸を見て苦い顔をする。
生き物を殺す感覚というのは、慣れないものだった。
……あと、こう、口の中が、ネチャネチャする。
「……………」
両手を合わせて簡単にお祈りをしてみて、アクルは少し明るくなった空を見ていた。
今日は、曇りだ。また雨が降るだろう。
「お母さん……」
ポツリと呟く。なんとなく今、急に思い出した。
常にしかめっ面だけど、大好きな大好きなお母さんの顔。
……お母さん、ちゃんとご飯食べてるかなぁ。
……本当は、逢いたい。けどきっと、もう逢えないだろうと思う。
それに……お母さんの幸せを奪ったアイツラの血を引く自分は、きっともう会ってはいけない。
でも、ならばせめてと、アクルは祈った。母親の幸せを───。
イラストはゆゆず様より。