薄幸の堕天使   作:怒雲

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 ───ガタンガタン、ガタンガタン、と馬車が揺れる。それはそれは、豪華な馬車だった。

 一目で貴族か何かが乗っている事が解る様なその馬車には、やはり貴族の女性が乗っている。


 従者が二人と、まだ少女と言うべき女性が一人。赤い長髪と、美しいが勝ち気な印象をあたえるつり目が特徴的な少女は、馬車の中で二人の従者と向き合う様に座りながら、退屈そうに小窓から流れる森の景色を眺めていた。



そんな退屈そうにしていた赤っぽい瞳が、道を歩く一人を捉える。

黒い三つ編みを揺らす、少女の姿。


「……止まりなさい」


 馬をひいている従者に一声。よく通る凛とした……そして、やはり勝ち気な印象をあたえる声と共に、馬車は速度を落として行く……。








八区の小さな猛犬

 

 

 

 

 

 

 魔王少女 樋山 アクルは街道をとぼとぼ歩いていた。

 

 白いワイシャツの様な衣服と膝下までの黒い七分丈のズボン。

 

その上から、フードの着いた黒い外套を羽織、背中には彼女のトレードマークである黒い三つ編みの髪が揺れている。

 

 

「……はぁ」

 

 

 今日も、溜め息。街道は、人と出会うかもしれないなぁ……とか思って森を歩いていたら、獣に襲われた。

 

 襲って来る相手は、人間や魔族だけではないのだ。

 

 

「まぁ、こういう道なら獣と出会す可能性は低くなるさ。人間の臭いが結構染みてるからか知らねーけど、獣も寄りにくいしな」

 

 

 魔王の言葉に、成る程とアクルは歩く。

 

 

「……あや?」

 

 

 ガタンガタン、ガタンガタン、と音が聞こえて振り返ると、遠くから物凄い速度で走って来る立派な馬車が見えた。

 

 

「……馬?」

 

 

 アクルは道の隅に移動しながら、車をひく一頭の馬を見る。

 

 

 遠くて少し解りにくいが、その馬はなにやら鱗に覆われているようである。色も、なにやら蜥蜴っぽい。緑っぽい色だ。

 

 

「おお、竜馬だなありゃあ」

 

「……りょうま?」

 

「おう、坂本さんじゃあないから、額斬っても、わしゃあ脳をやられた、とか言わないぞ」

 

 

はぁ、とアクルは生返事をする。内心、それなりに好きな歴史上の人物をディスられた為に実はちょっとだけ。本当にちょびっとだがイラッとしているのは内緒である。

 

 

「あ、あれですかね。麒麟でしたっけ? ビールに描いてるの見た事あります。

 お母さん、よく飲んでたですし」

 

 

「んー、麒麟とはちょい違うかな。あれは角はえてるもん。

 ちなみに竜馬は爬虫類の一種なんだぜー」

 

「ドラゴンじゃあないんですか?竜馬ですし」

 

「ドラゴンじゃあないな。ドラゴン種ほど強くないし」

 

 

 そんな会話をしていると、馬車がどんどん近付いて来る。

 ……速度を落としながら。

 

 

なんか、こう、明らかに止まる準備をしているように見える。

 

 

「あ、あれ……? なんか、遅くなってませんか……?」

 

 

「……なっとるね。よーしアクルたん、逃げる準備。すぐ逃げたらやましい奴と確信されるから、ちょい待ち。相手の勘違いやもしれん」

 

 

 やや悠長な魔王の意見を聞き入れ、アクルはぼんやりと近付いて来る馬車を眺める。

 

 

 果たして馬車は、アクルの目前で止まった。

 

 

 

「こんにちは。一人旅かしら?」

 

 馬車の扉が開き、まだ少女というべき女性が顔を出した。

 

 赤い、美しい髪と顔立ち。ただ、つり目で勝ち気な雰囲気が少々アクルに苦手意識を植え込む。

 

「えっ、あっ、はい。ひ、一人旅です」

 

 

 白い、フリルの着いたドレスを身に纏う、絵に描いた様なお嬢様に対し、アクルは戸惑いながら答えると……あら、とお嬢様は少し首を傾げる。

 

 遠目に見て、小さいとは思っていたが、予想より小さい。

 

 

 

 

 

 ……学園の者かしら。髪色的に、七区人か五区人っぽいですわね。

 

 

「どちらまで行かれるおつもり?」

 

「あ、えとえと、十二区の方まれれす」

 

 

 ニッコリと微笑むお嬢様に、アクルは狼狽した調子返事をする。その為に噛んでしまった。

 

 

「まぁ、十二区の方まで? 随分と遠いですわね……十二区のなんて街までですの?」

 

 

「あ、それはその……」

 

「怪しまれるかもしれんが、忘れたとでも言うしかないぜよ。我も人間の街の名前とか知らんし……」

 

「ま、街の名前はちょっと……わ、忘れちゃいましてぇ……」

 

 

 ふむ? とお嬢様はまた小首を傾げ、思案する。

 

 

 ……五区人っぽいですわね。亡命かしら。

 

 はてさて、どうしたものか。こういうのはあまりよろしくはありませんが……。

 

 

「よろしければ、乗って行くといいですわ。近くまでは送って差し上げますわよ?」

 

 

 困ってそうですし、見捨てるのも酷というものですわね。

 

そう考えて、お嬢様は微笑みを浮かべた。

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