薄幸の堕天使   作:怒雲

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ひとつの出会いとさよならの話。

雨のよく降るこの地とも、お別れ。


夕焼けとお別れ

 

 

 

目の前で。現実で。生きていた『誰か』の首が飛んだ。

 

その光景に、見開いたままにアクルは固まる。

 

 

 

 

 

「………─────ッ」

 

 何とも言えない、気分だった。吐き気がする。身体から、温度が引くような……こういうのが、血の気が引くというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好きな人物では無い。むしろ、嫌いな部類だろう。酷い目にあわされたのだから。

 

 

 ……それでも、だ。それでも『知っている者が殺される』光景は、身の毛がよだつ。

 

「いやぁ……普通に強いッス。あのお嬢」

 

 

 感心したように魔王が言う。

 

「……んー。やっぱ、キツいよな? ああいう光景……アクルたんの世界だと、テレビとか?あーいうのでしか見ないやろしねぇ……」

 

 ちょっと聞きにくそうに尋ねる魔王に、震え、両肩を細く小さな頼りない手で抱きながら、アクルは頷き呟き声で尋ねた。

 

「魔王さんは……」

「ん?」

「魔王さんは、どうなんですか? 同じ、魔族なんでしょう……?」

 

 んー、と魔王は少し黙る。言葉を選んでいるのかもしれない。

 

それから少しの沈黙の後、魔王は語り出した。

 

「知り合いが死ぬの、よくある事だったからなー。

 昨日、一緒に酒呑んだ奴が首はねられたり、昨日一緒に笑いあった奴が、臓物ぶちまけてたりとかさ。

 

 ……多分、麻痺してんだろうな。もしくは、壊れてんのかも」

 

「…………っ」

 

 

 ────何も。何も、言えなかった。アクルはただ黙って聞くしかなかった。

 

 

「まぁ、アレだ。なんっつーか……んー、これはちょいと残酷な提案かな? ま、いいか。独り言とでも思ってくんろー」

 

 

 そこで、少し黙る。そして決意したように魔王は言った。

 

「今のアクルたんのその気持ち、忘れないで欲しいな。

 結構、不幸な人生歩んでるかもしれないけど、それでも平和な世界で生きれたからこそ持ってるその気持ちをさ」

 

 

「……………」

 

 アクルは、何も言えない。震える事しか出来ない。

 

「怖がらせてしまいましたわね。でも、もう大丈夫ですわ」

 

 ハッ、とアクルは声のした方向を向くと、そこには先程までと同じ調子のプリキュオン。

 

 アクルに少し、気を遣った素振りを見せながら、従者と共に馬車に乗り込む。

 

 

「……」

 

 

 チラリと森の方を見ると、安置されている闘鶏の亡骸。

 

 ……見なければ良かったと後悔しつつも、アクルはプリキュオンに尋ねる。

 

「あの、良かったんでしょうか……?」

 

「ん?」

 

 

 馬車が走り出し、ガタンガタン、ガタンガタンと音を立てる。

 

 アクルは、握りこぶしを膝で作りながらおずおずと。

 

「死体……あのままで……」

 

 

 ああ、と一言呟き、そうですわねとプリキュオンは窓に視線を泳がせる。

 

「……良かったのですわ、あのままで。

 あの男も敵に弔われるのも癪に障るでしょうしね」

 

 それに、とプリキュオンは呟く。

 

「埋めても野犬に掘り起こされますわ。

 ……良いのですのよ、あれで。森で散った肉体は、森に還すべきですもの」

 

 

 暗に、プリキュオンは自分が同じ様に死んだのならばそうするべきだと言っている。

 

魂がそこにないのなら、肉体なんて、関係ない。無理に回収する必要も、弔う必要も、ない。

 

「大丈夫。魂はきっと、自分の集落に帰るでしょう。仲間がしっかりと、空に放ちますわ。

 だから、あのままで」

 

「…………」

 

 解らなかった。見て来たものが、きっと違い過ぎる。

 

 

 それでも、復唱した。なんどもなんども、その言の葉を。でも……。

 

 

 

 

 

 

 

 …………貴方の事は嫌いだったけど。せめて安らかに。成仏して下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、森を抜け草原がアクルの目に映る。もう日が暮れる時間だった。

 

 

「さて、ここまでですわね」

 

 草原に出来た、剥き出しになった地面の街道を進んでいた馬車が、別れ道で止まった。

 

 

「その道を真っ直ぐ行けば十二区に辿り着きますわ。

 ……でも、お一人で大丈夫?」

 

「なんなら、お供しましょうか? 先程見た通り、この人には護衛なんていりませんからね」

 

 護衛の一人がそう言ったが、アクルは首を横に振る。迷惑をかけたくないし、一緒にいると魔王だとバレるかもしれない。

 

……優しくしてくれた人に、嫌な目で見られたくない。

 

 

 

 

 

 

「……ねぇお前。十二区に、そんなに大事な用がありますの?」

 

 プリキュオンは、穏和に微笑みながら、アクルに問い掛ける。

 

「なんなら、私の従者になりません?」

 

 

「───────あ」

 

 

 その申し出に、アクルは少し顔を上げ、困った顔をしうつ向いて、横に力無く振った。

 

「その、ごめんなさい。

 ……一緒には、いけないです。」

 

 そう、とプリキュオンは呟く。何か、背負っているのかもしれませんわね。

 

「じゃあ、お気をつけて。もし気が向いたら、何時でもハドリアース家を訪ねなさいな。

 良い待遇を用意しておきますわ」

 

 

 ではごきげんようと、プリキュオンを乗せた馬車は去って行く。

 

 アクルは手を振った。馬車の影が溶けて、やがて消えるまで。

 

 

 なんだか、切ないなぁ。あたしが、人間のままなら……。

 ……でも。でもね?

 

 

「それじゃあ、行きましょうか魔王さん」

 

「おけーい! おけおけーい!」

 

 

 クスクスとアクルは笑った。今は、このままでも。

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