そこは、十二区のとある建物の一室である。
随分と簡素なもので、ベッドとテーブルにタンスくらいしかなく、然程広くも無い。一人暮らしをする分には丁度いいといったくらいで、誉れ高き『十二聖護士』の部屋と言っても、信じて貰えないだろう。
なんか、そこらに空の酒瓶とか転がってるし。
そんな汚部屋の持ち主である十二聖護士……『ピスケラ・アルレーシャ』は軽くアクビをしていた。
濃い金色の長い髪と、青い瞳。そして抜群のスタイルと、魅力的な容姿をしているものの……気ままでズボラな上に、恋愛沙汰に大して感心が無い為にそれらの魅力をもてあましてしまっている。
ちなみに服装は、胸に茶色い布を巻いただけ、腰にはスリットのある同じく茶色いロングスカートと、これまた簡素なもんである。
「相変わらずねぇ……」
そんなピスケラの目の前には、青いロン毛の青年が一人。
「一応、十二聖護士様なんだから、ちゃんとしないと示しがつかないわよ?」
……口調が女性的だが、彼はれっきとした男だ。胸元まで開けワイシャツを見れば、彼が男と一目で解るだろう。
黒い長ズボンを身に付け、茶色いコートを小脇に抱えながら、彼は部屋に漂う酒の臭いに苦笑を浮かべている。
「いいんだよ。誰も入れないからね」
ピスケラはそう言って、また大きなアクビ。
それに対し、私が今まさに入ってるんだけどねとまた苦笑。
「帰って来ても寝るだけだし、こんなもんでいいさね」
そんな事を言って、ヘラヘラ笑う彼女を見ながら、青年……リザドはやれやれと頭(かぶり)を振った。
「それはそうと、お疲れみたいね?」
クスクスとリザドは笑う。いわゆるオカマ口調というか、オネェ口調であるが……不思議と気持ち悪さの様なものをピスケラは感じない。
彼とはそれなりに付き合いが長く慣れているからなのか、単純に品が有り小綺麗な容姿のせいかは解らないが。
「まぁね。任務が中々面倒臭かったのさ。おかげで会議にゃ間に合わなかったよ」
まぁ、どうせアタイは話しを聞くだけだからいなくても問題無いだろうけどねぇ。
そう言って、仮にも男性の前でアグラをかきながら、また大きなアクビ。
「んで、持って来たんだろ? 会議の結果」
さっさとよこせとばかりに手をヒラヒラさせるピスケラに、ええ、と上品に微笑みながらリザドは封筒を取り出しピスケラに手渡した。
「ん、これかい。アンタも見てくかい?」
「気にはなるけど、密書よそれ? 流石に、私はそれ見たらマズイわよ」
苦笑まじりにそう言うリザドに、お堅いねぇとピスケラはカラカラと笑った。
「それじゃあ、私はここらで。まだやる事があるのよ、他に」
バイバイと手を振り退室するリザドを見送って、ピスケラは封筒をあける。
「なになに……?」
封筒を開封し、ピスケラはそこに書かれた密書を読む。
まず、魔王が復活したという事。何故か人間の様な雰囲気があるという事。更に何故か同じ魔族に襲われていたという事をまず理解する。
「ふむふむ……」
タリアスからの密書だね。
黒く長いみつあみ髪の幼い少女であり、なんか、ようするに弱そうな顔をしていると理解する。
ただ、魔王であり危険な事には違いない。他の者にはまだこの件は伏せておくべきだとも書かれている。
悠長じゃあないか? とも思ったが、確かにまだ復活したてとはいえ魔王だ。十二聖護士クラスでなくては歯が立たないだろう。とピスケラは思う。
「アタイら十二聖護士以外で太刀打ち出来そうなのは……」
人王の護衛長、キグナス・アルビレオさんとか、ドラジエヌ将軍とかオリオン将軍とかかねぇ。
そんな事を考えながら最後まで読むと、この密書は読み終えたら処分しろとの事であった。
ピスケラは、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り込む。
……空中を舞う丸められた密書。ピスケラの周囲から、シャボン玉の様な水球がひとつ姿を表す。
その一部が、まるで触手の様に伸びて……直後、空気を切る音が部屋に響いた。
水球が消える頃に、細切れになった密書がゴミ箱に落ちていく。
「……しかし、魔王……ねぇ」
うちに来たならアタイが片付けてやるかと、ピスケラはベッドに入って……すぐに寝息をたてるのであった。