雨降る地から抜ければ暑い景色。
海が近く、水源豊富なこの場所は十二区と呼ばれる場所。
美味しい魚介類や綺麗な水。住みやすい土地。
「うぅ……」
魔王少女、樋山 アクルは街を囲む防壁の周りをうろうろしていた。
「早く街に入ろうず!」
「だ、だってぇ……」
門は西門と東門の二つ、大きな川が南から北に流れている。当たり前だが、門番がいる。検問しているのだ。
この国……というかこの世界の人間では無いアクルに対し、どこから来たのかとかあれこれ聞かれては困るというものである。
そこから不審に思われ捕まったりして魔王とバレたらと考えると……。
ついでに言うと、基本コミュ症で陰キャなアクルには知らない人に……しかも武装してる人に話し掛けるのはハードルがでかいのである。
「はぁ……」
どうしよう、とアクルは思うが魔王は呑気なもんだ。
「なぁに、魔王の情報は多分出回って無いからへーきへーき!」
「で、でも……もし、ですよ魔王さん? もしもこの街に、『ワイルド・ガンマンさん』と『ブラック・マッスルさん』がいたら……」
「……えっ、だれ……そいつら?しらんそん……」
軽く困惑するが、まぁこの前に見たあの十二聖護士二人の事だろうと魔王は思う。
確か『アエアリス』と『タウルス』だと互いに呼んでいたはずだ。
「アンタのネーミングセンス、我は嫌いじゃあないぞアクルたん……コッポォ!」
そして魔王は奇妙で気味が悪く気持ち悪い笑い声をあげる。キショッ!
「ちなみに、十二支の奴はなんて言うんだ?」
「え? ああ、『イケメン・バード』さんの事ですね。」
「ぶっふぉっ!」
しかし気色悪い笑い声である……。というか笑い過ぎだ。
特徴を良く捉えた、素晴らしいアダ名である。
「あ、いざって時はあそこから潜れないですかね?」
物凄く大きな川が、門の下を通っている。アクルは、あそこなら泳いでいけるかもと期待するが。
「鉄柵があるな。あと、多分内側に兵士が見張ってる。ここから無理矢理入れば問答無用で敵と見なされるな。うん」
魔王の指摘に、アクルは項垂れるのだった。
「それはそうと、次の門で最後だぞ。いい加減、不審者扱いされちまうんだぜ」
「うぅ……」
防壁の周りを歩き、川にかけられた橋を渡りながら、いよいよ門が見えそうなその時であった。
「……お姉さん、どうかしたのかい?」
幼い少年の声が聞こえて振り返ると、そこにはモコモコ衣装の少年が微笑みながら立っていた。
モコモコした白い、ニット帽的な物を頭に被り、服装も、雪国から来ました的な白い衣装。
髪も白く、ふわふわした感じのまさにまさしく美少年。人形の様に整った顔と真っ白な肌と青い瞳。
「あ、あのっ。えっと……」
しどろもどろするアクルに対し、まるで少女の様な少年はニッコリと微笑む。
「この街に用があるんでしょう? 私もなんだ、一緒にどうかな?」
なんだこいつはと魔王は思う。ナンパか? つーか何だこの妙な怪しさ。
「あ、あ……」
優しく手を掴まれ、エスコートされ着いてくアクル。
「ああ、そうだ。お姉さんなんて名前? 私はそうだね……『メリー』って呼んでよ。あ、ちゃんと男だよ?」
「あ、えと、アクルです。お、女です……」
メリー少年は一瞬キョトンとして、クスクス笑った。見れば解るよ。
門の前まで来ると、ちょっと待っててねとメリー少年は兵士に向けて歩き出す。
そして何やら、親しげに話しながら何かを見せたかと思えば、微笑みながらアクルの方に振り返り手招き。
おそるおそる歩くアクルの手を再び優しく取って、歩き出す。
エスコートされるがままにアクルは着いていくと、あっさりと中に入る事が出来た。
門の中から見える様々な建物。木で作られた無数の家々を、アクルは興味津々に見渡す。
道行く人々の格好は、随分と薄着である。女性は胸と腰に、タオルでも巻いてるだけというのがアクルの印象だ。
男性はズボン的なのは身に付けているが、上は半裸というのも珍しく無い。
「……なんっていうか、外国って感じですね」
八区と様子が違い過ぎるとアクルは思う。まぁ確かに、この街に来るまでかなり距離があった。
一週間くらいは歩いたり、走ったりしたのだ。魔王パワーのお陰で、随分速く走れたし、体力ももったが普通の足ならどれくらいかかっただろうか。
ちなみにムリフェンという、助けてくれた女性からもらった、干し肉等の食料は途中で尽きてしまったが、猪などの獣を狩ったり木の実などでなんとかなった。
アクルに火を起こす力はなかったのが、大剣、『クラウ・ソラス』で切った肉を、高圧の電流を纏うハンマー、『ミョルニール』を使って焼く事が出来たのだ。
ちなみに血抜きやらなんやらは、魔王が教えてくれた。
魔王は、戦力としても心強く、料理まで出来る雷神のハンマー最高! と、何か自慢気だった。
「それじゃあ、私は行くよ。ばいばい、お姉さん?」
長生きしてねと一言残して、少年メリーは雑踏に消えて行く。
「んー……宿とかってとれますかね?」
「あらやだ怖い。宿を盗るだなんて、アクルたんったら狂暴魔王だわ」
「えっ……おかしいです。魔王さんが言ってる事、おかしいです」
アクルはふらふらと歩きながら、とりあえず街の真ん中。川の流れる方に向かう。
「ん。何かあんの?」
「こんな大きな川、初めて見ました。街中なら安全ですし、もっとよく見たいです」
いざって時は野宿でいいやな思考のアクル。森の中やらで一週間くらい野宿していたせいか、野生化しとるかもしれんねと魔王は思う。
「あれだ。アクルたん、女の子じゃん?貧相だけど」
「……なんですか?」
貧相というワードに、仕方ないとは思う。思うが、こう、気分が良くなるわけがない。
ちょっとムッとするアクルと、マイペースな魔王。
「いや、臭いとか気になんねーの?風呂入りたいだろ?」
ああ、とアクルは納得したように頷く。
「向こういた時も、お母さんからガス代の無駄だからって、あんまりお風呂入れなかったですからねー。
まぁ、あんまり臭う様になったら、入れと叩かれるんですけど」
「お、おぅ……そうか……」
さらっと明かされる虐待話しに、魔王は対応に困る。
一方アクルは、母を思い出しやんわりとした微笑み。
そんな目にあわされていても、アクルはお母さんが大好きなのだった。