薄幸の堕天使   作:怒雲

42 / 164
燃える街の中で

 

 

 

「……えっ。えーと……?」

 

「やったぜ。」

 

 まさに、嵐の様にピスケラは去っていった。

 

残されたアクル来年は困惑し、魔王が喜ぶ。

 

「いやぁ、アクルたん! 何気に運が良いな! よーし、ここはさっさと……逃げるんだよォ!!!」

 

「え……で、でも、ピスケラさん逃げるなって……」

 

 

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

 アクルの発言に、思わず魔王は絶句する。

 

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!

 ありゃどう考えても逃げていいよって意味だって! アンタの命乞いが通じたんだよ!恥ずかしいくらい解りやすかったぞ! 後でアイツ赤面もんだぞ!

 あの女の顔を立てる意味でも、今すぐここから逃げるんDA!」

 

 

「……そう、ですね……」

 

 

 アクルは震えた声で呟いて、起き上がろうとして……失敗して、尻餅をつく。

 怖かった、のだ。そしてまだ恐いのだ。

 

 

 痛かった事、優しい人に本気で殺意を向けられた事、それからそれから……。

「逃げ、なきゃ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、何処に逃げるのかと自分が尋ねた。

 無い。そんな場所、無い。じゃあ、どうしよう。どうしよう。

 

きっと、また、こういう事がある。

 

 どうせ、長くは生きれない。生き長らえる事なんて諦めた方がいい。

 死ぬのはいいけど、痛いのはイヤ!思考ぐるぐるクルクルと回り出す。

 

 

両肩を抱いて、ぶるぶると震えた。

 

 

 

 

 ピタリと止まる、あの女の子の事。モクモク上がる煙りと赤い街。燃えている。

 

 

「ん? おーい、どしたんアクルたん? 早くエスケープしようずー」

 

 

 魔王に問われて、アクルは首を横に振り、立ち上がった。

 

 

「あたし……行きます」

 

 そう言って、ゆっくりとその足は燃え上がる街に。

 

 

「…………ファッ!? な、なんで!?」

 

 

 魔王は、それはそれは驚いたそうな。アクルたんは行動が今一読めねぇ。

 

 

「いやいや、何を言ってんだよアクルたん!死ぬぞマジで!

 聖護士に任せりゃあモーマンタイだぜ、早く逃げるんだよォ!」

 

「……駄目、ですよ」

 

 

 アクルは小さく呟く。

 

「……ここで、逃げても何時かは……証明、しなくっちゃ」

 

 

 目を少し閉じて、息を吸い込んで、吐き出す。

 

「……あたしは、危険じゃあないって。そうしないと、何時か、またこういう目にあいますし……それに」

 

 

 そこで一度区切り、少しだけ、笑った。

 

 

「……あの女の子の事も、気になりますし」

 

ちょっとだけ知り合った、お母さんが大好きだった、お母さんの思い出と生きる女の子を思い出しながら……アクルは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ、思ったより酷いねぇ、こりゃ」

 

 

 すでに防壁の外に避難している人々を見て少し安堵しつつ、ピスケラ・アルレーシャは跳んだ。それはそれは、高く。

 

 

 数十メートルの高さを軽々と飛び越えて、燃える街の中に。

 

 

「よっ……と!」

 

 手のひらに水球が現れ、それを上空に飛ばす。すると、水球は巨大化し、空で弾けて、雨の様に街中に降り注ぐ。

 

 

「……やれやれ、思ったより回復してないもんだ」

 

 

 魔王との戦いの前に、少々、骨が折れる任務があり……そこで結構な量の魔力を消耗してしまっている。

 

 

 さて、どうするか。魔力全部使い切るかね?

 

 

 

「やぁ、ピスケラ聖護士」

 

 

 不意に声をかけられ振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。

 

 少女のような、人形のように整った顔の少年。

 

 

「なんだいメリー。来てたのかい?」

 

 

「うん。来てたんだよ」

 

 

 炎に照らされながら……少し意外そうにしているピスケラに対し、ニッコリとメリーは微笑んだ。

 

 

 

「相変わらず暑っくるしい格好だねぇ、ここは十二区だよ?」

 

 

 ついでに燃え盛る街中である。

 

「あっはっは、まぁいいじゃないそんな事は。

 ……街の人達の避難なら、私が大体終わらせておいたよ」

 

「そうかい、ありがとさん。後はアタイがやっとくから、アンタも避難しな。」

 

「ああ。そうさせて貰うとするよ。頑張っておくれ、ピスケラ聖護士」

 

 

 背を向けて去って行くピスケラを、片手をヒラヒラさせながら見送って……ふむ、とメリーは周囲を見渡す。

 

 

「やれやれ……我ながら少々、派手にやりすぎたかな?」

 

 

 まぁいいかと一言、メリーは一歩踏み出し歩き出す。

 

 

 死人は出ないだろうし……復興が厳しいレベルになったら、少し危険だが手を貸すとするかな。まぁ、私の責任だしね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。