「……えっ。えーと……?」
「やったぜ。」
まさに、嵐の様にピスケラは去っていった。
残されたアクル来年は困惑し、魔王が喜ぶ。
「いやぁ、アクルたん! 何気に運が良いな! よーし、ここはさっさと……逃げるんだよォ!!!」
「え……で、でも、ピスケラさん逃げるなって……」
「なん……だと……!?」
アクルの発言に、思わず魔王は絶句する。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
ありゃどう考えても逃げていいよって意味だって! アンタの命乞いが通じたんだよ!恥ずかしいくらい解りやすかったぞ! 後でアイツ赤面もんだぞ!
あの女の顔を立てる意味でも、今すぐここから逃げるんDA!」
「……そう、ですね……」
アクルは震えた声で呟いて、起き上がろうとして……失敗して、尻餅をつく。
怖かった、のだ。そしてまだ恐いのだ。
痛かった事、優しい人に本気で殺意を向けられた事、それからそれから……。
「逃げ、なきゃ……。」
で、何処に逃げるのかと自分が尋ねた。
無い。そんな場所、無い。じゃあ、どうしよう。どうしよう。
きっと、また、こういう事がある。
どうせ、長くは生きれない。生き長らえる事なんて諦めた方がいい。
死ぬのはいいけど、痛いのはイヤ!思考ぐるぐるクルクルと回り出す。
両肩を抱いて、ぶるぶると震えた。
ピタリと止まる、あの女の子の事。モクモク上がる煙りと赤い街。燃えている。
「ん? おーい、どしたんアクルたん? 早くエスケープしようずー」
魔王に問われて、アクルは首を横に振り、立ち上がった。
「あたし……行きます」
そう言って、ゆっくりとその足は燃え上がる街に。
「…………ファッ!? な、なんで!?」
魔王は、それはそれは驚いたそうな。アクルたんは行動が今一読めねぇ。
「いやいや、何を言ってんだよアクルたん!死ぬぞマジで!
聖護士に任せりゃあモーマンタイだぜ、早く逃げるんだよォ!」
「……駄目、ですよ」
アクルは小さく呟く。
「……ここで、逃げても何時かは……証明、しなくっちゃ」
目を少し閉じて、息を吸い込んで、吐き出す。
「……あたしは、危険じゃあないって。そうしないと、何時か、またこういう目にあいますし……それに」
そこで一度区切り、少しだけ、笑った。
「……あの女の子の事も、気になりますし」
ちょっとだけ知り合った、お母さんが大好きだった、お母さんの思い出と生きる女の子を思い出しながら……アクルは駆け出した。
「……チッ、思ったより酷いねぇ、こりゃ」
すでに防壁の外に避難している人々を見て少し安堵しつつ、ピスケラ・アルレーシャは跳んだ。それはそれは、高く。
数十メートルの高さを軽々と飛び越えて、燃える街の中に。
「よっ……と!」
手のひらに水球が現れ、それを上空に飛ばす。すると、水球は巨大化し、空で弾けて、雨の様に街中に降り注ぐ。
「……やれやれ、思ったより回復してないもんだ」
魔王との戦いの前に、少々、骨が折れる任務があり……そこで結構な量の魔力を消耗してしまっている。
さて、どうするか。魔力全部使い切るかね?
「やぁ、ピスケラ聖護士」
不意に声をかけられ振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。
少女のような、人形のように整った顔の少年。
「なんだいメリー。来てたのかい?」
「うん。来てたんだよ」
炎に照らされながら……少し意外そうにしているピスケラに対し、ニッコリとメリーは微笑んだ。
「相変わらず暑っくるしい格好だねぇ、ここは十二区だよ?」
ついでに燃え盛る街中である。
「あっはっは、まぁいいじゃないそんな事は。
……街の人達の避難なら、私が大体終わらせておいたよ」
「そうかい、ありがとさん。後はアタイがやっとくから、アンタも避難しな。」
「ああ。そうさせて貰うとするよ。頑張っておくれ、ピスケラ聖護士」
背を向けて去って行くピスケラを、片手をヒラヒラさせながら見送って……ふむ、とメリーは周囲を見渡す。
「やれやれ……我ながら少々、派手にやりすぎたかな?」
まぁいいかと一言、メリーは一歩踏み出し歩き出す。
死人は出ないだろうし……復興が厳しいレベルになったら、少し危険だが手を貸すとするかな。まぁ、私の責任だしね。