「そんなに、怖いものでしょうか?」
特に、ピスケラくらい強ければ怖いものなんて無さそうなものである。
十二聖護士とやらに恐いもの等あるのだろうか?
「そりゃあ、怖いに決まってるさ。相手は自分を殺す気なんだぜ?痛い事するつもり満々なんだぜ?怖くない方がおかしいんだよ」
笑い話しでもするかのようなテンポで、魔王は語る。
「恐怖を押さえ付けるんじゃあ無い。見据えて、受け入れ、尚も立ち向かう。それを『勇気』って言うんだ。
今、正に生と死の境目だってのに恐怖心を抱かないのは勇気があるって事じゃあない。壊れてるだけか、たんなる死にたがりか……まぁ、なんにせよそりゃあただの『蛮勇』ってやつだ」
「ばんゆう……ですか」
そだよんと魔王は言って、続ける。
「あの闘鶏(バイチキ)とかいう奴……多分、今正に自分を殺そうという奴を相手に恐れて無かった。だから、多分死んだんだ。
我の知り合いにも、戦地に赴くってのにまるで恐怖心ってのを抱かない奴らもいたっけねぇ。
ま、みんな死んだよ。だから、恐怖ってのは大事なんだ。
…………はっはっは、なんか真面目な話しになっちまったな!」
ケラケラと笑う魔王に、そうですね、とアクルも笑った。
「ま、結構厳しい状況だけど……笑うといいお!現実逃避かもしれないけど、空元気でもちったあ気分も良くなる。事態もきっと良くなるさ!チチンプイプイ!」
「……そうですね。えっと、あはははは。あ、本当になんだか楽しくなってきました。あはははは」
別に声まで出さなくてもいいけどなとか思いつつ、魔王はピスケラの話しを思い出す。
一応、彼女はアクルを人間と見てくれる事にしたらしい。それと、信頼出来る者に相談してみるとかなんとか。
期待はするなよとか言ってたが、期待してしまうのは仕方ないだろう。アクルはあんまり期待していないみたいだが。
もしかしたら、ここから……
「Sparking!!!」
「ビックリしたぁ……」
いきなり謎の奇声をあげたアクルに魔王がビックリする。
「どしたんアクルたん。そういう訳わかめな発言するのは我の役割だぜ?」
どうやらこの魔王、自覚はあったらしい。
「あっはっはっはっは! なんだか楽しいですよ魔王さん愉しくなってきました! 胸がパチパチしてきましたよぉ~! あははははァ!!」
そんな事を言いながら、目をぐるぐる回し、ついでに体もクルクル回しながら駆け出すアクルに、魔王が困惑する。
「こ、これは一体……?
────ハッ!? ま、まさか!?」
いや、まさか……だがそれしか考えられない。
熊に追い回された後、食事をとろうとした際に、魔王はこう提案したのだ。
「保存食を消費すんのも勿体無いし、そこらにあるのでも食おうぜ!」 と。
その際に、キノコが群生してたので、魔王はそれをすすめたのだ。
「馬鹿な……!? あのキノコは色も地味だったし、虫も食べてたし、縦に綺麗に割れたから毒キノコの類いじゃあ無かったはず……!」
……戦場でもっとも恐ろしいのは、優秀な敵ではなく無能な味方とはよく言ったものである。
ちなみに全部迷信だ。天然キノコは食べてはいけないのである。
先程まで偉そうに恐怖心を忘れるなとか言っといてこれである。
「お、落ち着け……! 落ち着くんだアクルたん……!」
「あはははは!アクルはもう走り出した風でーす!止まりません!あーっはっはっはっは!」
「く、くぅ~訳が解らねぇ……!アクルたんの言ってる事が全然理解出来ねぇ……!」
アクルはめちゃくちゃに笑いながら、ぐるぐる回りながら走っている。魔王パワーのおかげで凄い速度だ。
「ニッポンの……ニッポンの夜明けぜよー!
勝てば官軍デース!わっしょいわっしょい!うひ!わっしょいパラダイス!
どすこーい!どすこーい!どすこいファンタジスタ!!」
「ちょっ、アクルたん止まって停まって留まって! 崖!そっちは崖だから!落ち着けってのは、落ちて着地しろとかそんな意味じゃないから!」
「どっせいどっせい! メケーモ! メケーモ! バシャ……あひょあぇぇあぁあぁぃぁあぁあぁぁ~~───」
「ギャー!アクルたーん!」
奇声を発しながら崖を転がり落ちて行くアクル。
それでもラリっている為か、すこぶる楽しそうであった……。