薄幸の堕天使   作:怒雲

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聖護士二人

 

 

 

 

 森の中に、その村はあった。木で出来た簡素な防壁に囲まれた村。

 

ここは六区のとある村。小さな農村である。

 

 

 

 

 

 十二区の十二聖護士、ピスケラ・アルレーシャはそこにいた。かなりの距離があるのだが、人間辞めてる彼女にかかれば半日の距離なのだ。

 

 

六区……不思議とあまり凶悪な猛獣もおらず、地理的に魔族に攻め込まれる事もあまりない。

 

その為か、他の区と比べれば防壁等の類は簡素であり、そこで暮らす人々も穏やかというか、おっとりした人が多いのだそうな。

 

 

 

 

 

「さて、アイツいるかねぇ?」

 

 

 あっさり通してくれた、中年の門番に軽く頭を下げて村を歩き……少し古ぼけた、大きな教会の様な建物の前でピスケラは足を止める。確か、ここだって聞いてる。

 

 

 

その大きな扉を開いた。

 

 ギギギと、歯軋りの様な音を立てながら中を覗くと、見えたのは小さな子供達と。

 

 

「……………ピスケラ?」

 

 

 長い金髪碧眼の美しいシスター……この六区の十二聖護士、『ヴァルア・デメテェル』の姿だ。

 

 

「おお、いてくれたかいヴァルア」

 

 

 気持ちの良い笑みを浮かべるピスケラに、ヴァルアが不思議そうに歩み寄る。

 

 

「どうしたのですか?連絡も無くやって来るなんて……」

 

 

「ああー……そうさね。連絡もなく悪い。ちとその……相談したい事があってねぇ。なるべく、プライベート? でさ」

 

「相談、ですか…………?」

 

 

 ヴァルアは少しだけ首を傾げる。美しい金の髪がパラパラと揺れた。

 

 その仕草だけでも、美しい絵の様である。同じ女性のピスケラから見ても、彼女は美しい。

 

 

「………………」

 

 ヴァルアは少し考える。ピスケラとは多少は話すが、なんというか、特別親しい間柄かというとそれ程でも無い。

 

 

 十二聖護士は、基本的には自分の区から動く事はそう無いので、なんというか……自分に相談しにやって来たというのが、ただただ意外なのである。

 

 少しの思案の後、彼女はやんわりと美しく微笑んだ。

 

 聖母の様な美しさと、ただの町娘の様な親しげな印象を与える、不思議な笑みである。

 

 

「どうぞ、此方に」

 

 

 そう言って身を翻し、近くにやって来た、亜麻色ショートカットの少しクセのある髪をしたシスターの少女に碧眼を向ける。

 

 

「アドロメア。少し、頼みますね?私は、大事な話しがありますので」

 

 

 アドロメアと呼ばれた少女は、子供っぽい、好奇心溢れる様な表情をピスケラに向けた後、再びヴァルアに向けて人懐っこい笑みを浮かべる。

 

 

「オッケー。こっちは任せてよ、ヴァルア姉さん」

 

 

 義理の妹がそう言って笑い、ヴァルアもまた微笑んでから歩き出す。

 

 

 促され、ピスケラもまた歩き出した。

 

 

 

 やがて、向かいあうように椅子がふたつ置かれた、小さな部屋に案内される。二人が入るにしても、少し狭い。

 

 

「本来なら、ここが閉まるんですけど……閉めますか?」

 

 

 真ん中を、区切る様にシャッターの様な木の板が、天井から下ろせる仕組みになっているらしい。

 

 

「ん? それじゃ顔が見えないじゃあないか。話しにくいよ。」

 

「ふふ……そうかもしれませんね」

 

 

 クスクスと親しげに笑ってそう言って……ヴァルアは向かいの椅子に座って何かを呟く。

 

 ピスケラは理解した。この部屋で、何かしらの『術具』が作動したのを。

 

 

「これで、この懺悔室から外に私達の声が届く事はありません。ですから、安心して下さい」

 

 

 私も口が堅いですからと微笑み、そうかい、とピスケラは少し困った様に頭をかく。

 

 

「あー……アタイは面倒なのは嫌いさね、単刀直入に言うよ。魔王に会ったんだ」

 

「まぁ……………」

 

 ヴァルアは驚いた様に、少しタレ目気味の眼を見開く。

 

 

「……失礼しました、続けて下さい」

 

 

 少しバツが悪そうなピスケラに対し、やんわりと微笑みながら促す。

 

「ああ……んーと」

 

 

 困った様にピスケラは頭を掻く。なんだか、母親に促される子供になった気分だった。

 

 ……もっとも、本当の母親の記憶は、遠い昔で朧気なのだが。

 

 

 

「それでまぁ、なんて言うか……見逃しちまってねぇ」

 

「…………その魔王には、人間の様な雰囲気があると聞いていますが……それが関係していますか?」

 

 

 ヴァルアの唇から紡がれる、とても穏やかな声色に安心を覚えながら、そうさね、とピスケラは呟く。

 

 

「確かに、普通の女の子って感じの奴だったよ。『魔王の力』は恐ろしいもんだったが、本当に普通の子って感じだったんだ。

 

 ……だから見逃しちまったが、アタイは正しかったかなってね……」

 

 

 いやまぁ、普通に処罰もんなのは解ってるけどさ。そう言って、少し目を伏せるピスケラに対し、変わらずやんわりとした微笑みを浮かべながらヴァルアは言う。

 

「それが、この世界の為に正しかったかどうかはまだ解りません。きっと、結果しか語ってはくれないでしょう。

 ……でも、その魔王の女の子をピスケラさんは殺せなかった。その子を人間と見たのでしょう?」

 

「ん……まぁ、そうだねぇ」

 

「ならきっと、間違ってはいませんよ。仮に正しくなくとも、間違ってはいませんから、顔を上げて下さい」

 

………仮に、自分が同じ状況ならどうしただろうかとヴァルアは思う。

 

十二聖護士としての力は、人々に危害を加える魔族や猛獣に対する為の力だ。力なき人に奮う為のものではない。

 

ましてや、更にピスケラから聞く所によると、とても良い子であると分かる。

 

 

 

…………その子がこの区に。この村に、万が一訪れた時の事を、考えておいた方がいいでしょうね。

 

 

 変わらず穏やかなその口調に、少しバツが悪そうにピスケラは頭をかく。

 

 

「そうかねぇ……」

 

「ええ。きっと」

 

 

 クスクスとヴァルアは笑う。まるで、悪い事をした後の子供の様な反応だと、ピスケラを見て思った。

 

 

 それからいろいろ話しをした。ピスケラには、捕えるという考えもあったのだが……。

 

「ほら、ライブルの奴が絶対にこの件に絡んで来るだろ?」

 

 

 七区の十二聖護士、ライブル。彼女の事がピスケラは物凄く苦手である。とても頭が堅い印象があるのだ。

 

 

 聖護士をやりながら、裁判官も兼任する彼女は、法を尊重する。『悪法もまた法である』を地で行く人間だ。

 

 魔族は敵であり、魔王なら尚更、裁くだろう。

 

 

 そうなると、確実にアクルは死ぬ。認めたくは無いが、ライブルは自分よりだいぶ強い。ピスケラから見ても化け物みたいな存在である。

 

 

 自分に手も足も出ないあの少女では、間違いなく殺されてしまう。

 

 

「……ライブルは悪い人ではありませんよ?」

 

 ヴァルアは少し苦笑気味に言うが、確かにライブルなら殺してしまうかもしれないとも思う。

 

「でも、彼女は本当はとても優しい方ですよ?」

 

 

 とはいえ、友人であるヴァルアは、ライブルのフォローをするべくそう言うが。

 

 

「アタイはアイツが苦手さね」

 

 

 まるで子供の様な言い分に、ヴァルアはまた苦笑するしかないのであった。

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