「あっ、そーだそーだっ。ちょっと待っててなっ」
そう言って、パタパタと退室して行くエリダヌスを見送り、なんとなく気まずい気分になるアクル。基本的に、男性は苦手なのである。
対するユークリッドは、特に気にした様子なく寛いでいる。
「あ、そうだ。なぁアクルちゃん。君いくつ?」
唐突に声をかけられて、ちょっとびっくりするアクル。
ユークリッドとしては、気まずそうにしてるアクルに対して気を使って話題を振っているのである。
「あ、えと、年齢ですか?あっとえっと、十五です」
「……マジで?エリーの奴より歳上なのか?」
意外そうに目を丸くしつつ、小せぇなとユークリッドは思う。アクルは、エリーってエリダヌスさんの事かなと思っている。
「待たせたなっ!ん? どうしたっ?」
何やら、簡単に塩を振っただけの、カットステーキみたいな料理を小皿にいれてエリダヌスが戻って来て、ユークリッドを見る。
「おうエリー。こいつ、お前より歳上ってよ」
「マジかっ! 私よりチビな歳上はエリス聖護士以来だぞっ!」
驚いた様にそう言って、エリダヌスはステーキをアクルに差し出す。
「まぁ、食べるといいぞっ!」
はぁ、と一言……よく焼けたステーキを見る。なんというか、ちょっとだけ独特なにおい?
「あ、ありがとうございます……えっと、エリダヌスさんはいくつなんですか?」
自分より年下だというが、どれくらいだろうか。
「私は十四だなっ。ちなみにソレはさっき私達を襲って来た羆の肉だぞっ!」
「えっ…………」
アクルは思い出す。あのバカでかい熊をこの二人が片付けたらしい。見た感じ無傷である。
「えと……えとえと、お二人がやっつけたんですか?」
それを聞いて、ユークリッドがニヤニヤと笑う。
「おうよ。ま、これでも『聖護士養成』の三年生だからな。オレもこいつも」
「まぁ、羆をやつけたのは私だがなっ! ユークリッドは見ていただけだぞっ!」
「いや、囮とかいろいろやっただろ!」
何やら言い合う二人をよそに、アクルは青ざめた顔で呟く。
「聖護士……養成所…………?」
恐ろしい響きである。まったくもって、物凄く嫌な響きだ。
ちなみにアクルの脳内では、ベルトコンベアから出荷されるピスケラやらワイルド・ガンマン(アエアリス)やらブラック・マッスル(タウルス)の姿を思い浮かべている。
うん、アクルよ。それは工場だ。
「七区にある施設だなー。我もさすがに詳しく知ってる訳じゃあねぇけど」
のほほんとする魔王とは裏腹に戦慄するアクル。
冗談では無かった。ピスケラ達みたいなのがその場所で量産養殖されているのである。冗談では無い。
目の前にいる二人も未来の十二聖護士という事なのだ。いずれこの二人がピスケラ並の強さになって、自分を殺しに来るかもしれないのだ。
「ん? どした、食わねぇの??」
「毒キノコ食うくらい餓えてんなら食っとくといいぞっ!
そいつは草食性の奴だったみたいだから美味いしなっ!」
二人はそんなアクルに気付いていないのか、あっけらかんとしているのがまた恐怖であった。
この二人にとって、巨熊を片付ける事なんて日常のワンシーンに過ぎないのだ。
「あっ……あ、はい、いただきます……」
そう言って、熊肉ステーキを頬張るアクル。なんというか、まぁ美味しいとは思う。硬めだが、歯応えのある絶妙な感じは、まさに肉!という感じ。塩加減が、ちょっと悪いけど。しょっぱい。
後、少し獣臭い気がするけど、普通に美味しく食べれる物だ。
ただ……なんというか、目の前の二人が恐ろしくて食事に集中出来ない。
「最期の晩餐には丁度良かっただろ?」
とか言い出さないか不安だったが、特にそんな様子も無かった。
「んで、アクルちゃんはどちらまで?」
「あっ……えと、港まで」
「そっかー。んじゃあ、今から行くなら急いだ方がいいぞっ! そろそろ日が暮れるからなっ。まぁ、ここに泊まるのも手だがなっ!」
アクルは考えるまでも無く立ち上がった。バレたらどうなるか解ったもんじゃない。
急いでると言うと、二人は特に引き留める事無く地図を広げて、道筋を大まかに教えてくれた。
見た目が弱そうなアクルだが、一人で旅してるような奴だし大丈夫だろと二人は考えている。見た目の話をするならエリダヌスも弱そうだし。
山小屋を出ると、熊の亡骸。解体されたからか、右半分くらいは骨になっているが、左半分は無かった。魔王によると、強力な魔法かなんかで吹き飛ばされたらしい。
ゴクリと喉を鳴らし、アクルは背後の小屋を見る。聞こえるのは、二人の談笑する声。
アクルは、その声を背に受けながらそそくさと港を目指すのであった……。