深い山奥の大きな古城の一室……そこに、まるで山賊のように簡素な衣類を身に纏う、二足歩行の虎とも言うべき男がいた。
魔星十二支が一人。名を従虎(ジュウコ)という。
その少し離れた位置には同じ様な服装の猿顔の男。魔星十二支の一人、擬猿(ギエン)という名だ。
二人は何やら真剣な眼差しで、話し合いをしていた。
「む……?擬猿に従虎よ。どうかしたのかえ?」
そこに、その場に似つかわしく無い程に美しい女性が現れた。
長い黒髪と、綺麗な顔立ち。そして、薄紅色の羽衣を身に纏う姿は、まるで天女のようである。
だが、人間で無い事も一目で解る。頭には、鹿の角に似た龍の角、そして耳は魚のヒレの様であった。
「うきゃきゃ、これはこれは水辰(すいたつ)殿。なぁに、今はこの従虎殿と大事な話し合いをしておりましてなァ」
大事な話し合い、と水辰は復唱し、少し難しい顔をして口元に手を当てる。
「やはり、足取り掴めぬ魔王の事かえ?」
「ああ、そいつは違うな。魔王はどうせ人里うろついてんだろし、俺達がこんな所で話し合っても解りゃしねぇよ」
従虎の言葉に、ふむ、と水辰は小首を傾げる。
「ならば、なにかえ?ふむ、他に問題と言えば…………」
「ヒャハハッ! そうだな……丁度いいしお前にも意見を聞いとくか」
従虎が豪快に笑いながらも真剣な眼差しを水辰に向けて、擬猿もそうですなと頷くのを見て、水辰は固唾を呑む。
「お前、団子はみたらし派?あんこ派?」
「は…………?」
そして飛び出して来た言葉を聞いて、言っている意味が解らずに水辰は固まった。
………なんぞ? ………だんご???
「ちなみに、俺様はみたらし派な?」
「うきゃきゃ、従虎殿はダメですなァ……あんこ以外にありえませんぞ?
そもそも、ぜんざいを見なされ。いかに小豆が優れているかがお解り頂けるでしょう?」
「ヒャハハ、解っちゃいねぇなぁ……もうあんこはあんこで完成されてるんだよ。もういらねぇんだ。いいか? みたらしはな……」
そんな話しで熱中する大の大人達。
ぽかーんと口を開きその光景を眺めて……頭痛と目眩がするかのように、水辰は頭を押さえる。
「嗚呼……十二支筆頭ともあろう者達が、なんと下らぬ……とても他の者には見せられぬわ……」
「うきゃきゃ、水辰殿は真面目ですなァ」
「んで、オメーはどっち派なんだよ」
ケラケラと笑う大人二人。そんな姿に、はぁ、とタメ息を吐き出し両手を腰に当てる水辰さん十八歳。
「妾はきな粉派じゃ。そんな事より、もっと話し合うべき事があろうに……」
「あーん?」
「うきゃきゃ、きなこですかァ……」
そんなやりとりをしていると、大きな羽音が外から聞こえた。
少しして、足音が響き部屋の扉が開いて、もう一人の人物がそこに現れる。
美麗な顔立ちと鳥の翼を持つ青年、魔星十二支の一人にして以前アクルを襲った男、天鵬(てんほう)である。
「擬猿、従虎。貘予のばあ様からの……おや、水辰。来ていらしたのですか?」
にこやかに微笑む天鵬に、うむ、と水辰はうなずく。
「んで、貘予のバアさんはなんだって?」
従虎の問い掛けに、ええ、と天鵬は呟く。
「魔王様の魂は、今は人里で言うところの十二区の港から、五区に向かうそうです」
ふむ、と擬猿と従虎は軽く笑い顔を見合わせる。
「読み通りですなァ?」
「おう。とりあえず、『牙』の連中を何人かは向かわせてあるぜ?『朧』も先導させてる。……十二支はちと動かせそうにねぇがな」
「うきゃきゃ、既に手は打ってありましたか。流石ですなァ」
そう言って笑い合う二人を見ながら、ふむ、天鵬は一歩前に出て。
「ならば、この天鵬も向かいましょうか?」
「いえいえ……流石に十二支クラスが動けば感付かれますよ。あの日は、条件が良かったから良かったですがなァ?」
「ヒャハハ、聖護士が動くと面倒だしな。誰かさん、退くべき時に退かねぇ前科があるしよォ」
「ぐっ……ならば、仕方ありませんね……」
そう言われると弱く、天鵬は悔し気に引き下がった。
「しかし、水辰殿はきな粉ですかァ……ダメダメですな」
「ああ、全然駄目だな。」
「ぬぅ……」
何故にきな粉を否定されねばならぬのだと水辰は思う。作者だってきなこ派のはずじゃ。
「…………ですが」
天鵬は少し険し気な表情で呟く。
「喰鼠(くうそ)にもこの話しが伝わったようで……」
「むっ……」
それを聞いて擬猿は目の色を変えて、軽く腕を組み片手を顎に当てた。
やれやれ、おとなしくして頂きたいのですがなァ。