薄幸の堕天使   作:怒雲

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海賊

 

 

 

 

「はふぅ……」

 

 

 メリーと別れ、お腹がいっぱいになったアクルは船の一室にいた。

 

 ピスケラから、旅立つ前に貰ったチケットのおかげで、対した審査を受ける事無く船に乗れた上に、広くは無いがベッド付きの個室まで借りれたのである。しかも風呂までついている。

 

 

「聖護士様々だぜっ!」

 

 

 大喜びする魔王。まぁ、その聖護士様に文字通り死ぬ程ボコられたのだが。

 

 

「あぁ~……」

 

 

 黒い外套を脱いで、白いワイシャツ風の上着と、青っぽい七分丈のズボン姿になり、アクルはベッドに倒れ込んでもぞもぞする。

 

 

「もうあたし、ベッドから出たく無いです」

 

「引きこもり宣言……だと……」

 

 

 五区に着くまで後二日くらい。アクル的には、目的地にたどり着かなければいいのにと思う。

 

 

「暇だなぁ」

 

 

 ぼやく魔王。船の中というのは、やる事がない。

 

「暇でいいです。平和がいいです。このまま何も起きずにのんびりと───」

 

 

 そこまで言った辺りで、大きな爆撃音が鳴り響き、アクルはビクンと起き上がる。

 

大きな目をパチクリさせながら、何度もまばたきさせた。

 

 

「えっえっ、何が始まるんです?」

 

「第三次世界大戦じゃあねぇ事は確かだがなぁ」

 

 

 アクルは、とてとて歩いて扉の前まで行き、ピタリと耳をくっつける。

 

 

 何やら騒ぐ声が聞こえるが、なんと言っているのかは聞き取り難い。

 

 

 唯一、『海賊』というワードだけは聞く事が出来た。

 

 

 

「……海賊って聞こえます。」

 

「奇遇だな、我もそう聞こえたぜよ」

 

海賊。そういうのもあるのか。

 

 アクルは盛大に溜め息を吐き出して、項垂れる。

 

山を歩いている時には幸いにも出会さなかったが、山賊だとか盗賊だとかもいるのかもしれない。

 

 

 

 

 

「海賊って……この世界だとよく現れたりするんでしょうか?」

 

「さ、さぁ……どうだろな……?魔族では、ほぼほぼ聞かないけど人間だとどうなんやろ……」

 

 

 とりあえず、アクルたんの運が悪いだけな気もするなと、魔王は思う。

 

いや、山賊とかそういうのに会わなかっただけ運が良いのか?聖護士にも見逃してもらったしな……。

 

 

 

 

 

 

 しばらくがっくしとしていたアクルだったが……少し考える仕草の後、顔を上げた。

 

 

「……加勢したりしたら、なんといいますか……とりあえず、あたしは悪い奴じゃあ無いって証明出来ますかね」

 

 

「せやね。確かに、目撃者も多いし良い噂が広がるやも? よーす、やったれアクルたん! ピンチはチャンスだZ!」

 

 

「…………違いますよ、魔王さん」

 

「おう?」

 

「ピンチはピンチです。」

 

「お、おぅ……。」

 

 

 そこには実に酷い温度差があった。

 

 

 

 

 

 おそるおそる、部屋から出てみると……兵士達が甲板の方に向かっているのが見えた。

 

 

 兵士だけでなく、旅人らしき姿もちらほら見える。

 

 

「ひっひっふー。ひっひっふー」

 

「えっ、アクルたんなにその呼吸方。すごく妊婦さんっぽいんだけど。

 どうせなら波紋の呼吸とか水の呼吸とかそういうかっこいいのやろうぜ」

 

 

 魔王の言ってる事が良く分からないのでとりあえずスルーして、奇妙な深呼吸を終えたアクルは甲板を目指してそろりそろりと歩き出す。

 

 

 鋼と鋼がぶつかる音と、怒声や悲鳴が聞こえてくる出入口から、ひょっこりと顔を出してみると……そこには激しい大乱戦。

 

 

 今のところ頓着状態といった感じだろうか。海賊の方が数が多いらしく、苦戦を強いられているようにも見える。

 

 

「あっ……」

 

 

 戦っている者達の中に、知っている人物が一人。メリー少年である。

 

 

 ナイフを片手に、素人のアクルが見ても解るくらい圧倒的な実力を見せていた。

 

 

……なんというか、あの人によってすぐにでも戦況が覆りそうな勢いだ。

 

 

 

 

「……あの人、やっぱり十二聖護士なんじゃあ……?」

 

「……可能性は、あるな。」

 

 

 思わず魔王も呟いて、加勢の必要はないかなとか思っていると……見るからに、海賊達の船長と思わしき男がこっちに向かって来るのが見えた。

 

 

「ひっ。」

 

 

 

 思わず息を呑むアクル。なんでこっちに来るんだろうか思う。キャプテンらしき男は、自分を阻止しようとする兵士にタックルをぶちかましている。

 

「船主かなんかを人質にとるつもりなんじゃね?知らんけど。よーし、アクルたん、阻止するんだ!」

 

 

「そ、そんな事言われましても……」

 

 

 とはいえ、ここまで来て戦わない訳にもいかない気もする。だが、あまり人前で戦いたくは無いので、アクルは通路まで引っ込む。

 

 

 やがて、凄く船長っぽい男が入って来た。茶髪で、赤っぽいキャプテンハットを頭に被り、右目に眼帯、左手はフックである。凄くキャプテンだ。

 

 

「ん……? おいおいお嬢ちゃん、そんなところで何やってんだい?」

 

 

 無精髭を撫でながら、ニヤリと笑うフック船長に対し、アクルはあわわ、とたじろぐ。

 

 

「あ……えっと、ここから先は立ち入り禁止なのですっ!」

 

 

 そう言って、アクルは黒い手袋を着けた右手を伸ばす。

 

 

 キラリと光り、姿を表す銀色に輝く鍔の無い大剣、クラウ・ソラス。

 

 

「ほう……召喚術か、面白いなお嬢ちゃん?」

 

 

 その顔に一瞬の驚きが浮かんだ後、キャプテンハットのおっさんは剣を構えた。

 歪曲のある片刃で、幅のある短めの刀剣。

 

 

「カットラスだなありゃあ。まぁ、海賊だし標準装備かな」

 

 

 魔王の解説を聞きつつ、アクルはどうしようか考えていた。

 

勝てるだろうか? そういえば、獣には勝ったりする事も多いが、言葉を喋る相手とは戦闘経験が少ない。

 

聖護士には一方的だったし、闘鶏との戦いも最後の奇襲以外はほとんど手も足も出なかった。

 

 

 

 

………今更ながら、再生なしで勝てるだろうか?アクルは思う。なんというか、行き当たりばったりで行動し過ぎた気しかしない。

 

 

 

 

 

「さぁ、アクルたん!アクルたんの圧倒的パウワーを見せるのだ!」

 

そして、咎めたりちゃんとアドバイスすべき魔王様はこのざまであった。パウワーってなんですか。

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