薄幸の堕天使   作:怒雲

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男は、一人の……一見、少女に見える少年の加勢で一気に形勢不利を感じとっていた。

数でこそこちらがだいぶ上だったが、旗色が特別良いわけでなかった為に、負けを確信する。


……ならばと。せめて、金目の物でもかっぱらって、あるであろう小舟で自分だけでも脱出をはかろうと動き出す。

本当にやれるかはさておき、本人はやる気であった。



船長とアクル

 

 

 

 

目の前にいる海賊の男……アクルから見て、普通に強そうである。

 

ふと冷静な自分が、なんでただの女子中学生である自分が海賊の男と対峙しなきゃならないんだと愚痴っていた。

 

 

 

 

 

 

 ふーっ、と息を吐いて……アクルはクラウ・ソラスを掲げてみせた。

 

 

「そうです、しょーかんじゅつでしゅよ!

 あたしはえっと……強いですよ! 猛獣にも勝てちゃいますもん!

 あと……あ! あたしせーごしよーせじょの人なんですから!

 この大剣、クラウソラスも凄いです!戦えば後悔する事になりますよ!(主にあたしが!)」

 

 

そしてアクルは、とりあえずハッタリをかましてみる事にした。

 

 

 まぁ実際に猛獣に勝てるし一般人よりは強し嘘はついていない。

 

 

 レッサーパンダの威嚇の如しアクルの姿。しかし、船長の男はニヤニヤと笑った。

 

「なぁ、お嬢ちゃん……アンタ、こんな通路でそんなバカでかい得物を振り回す気かい?」

 

 

 アクルは左右を見る。確かに、人が通る分には充分広いが、アクルが大剣をぶん回して戦うには流石に狭い。

 

 

 

「あ……えっと……」

 

 

 一目で解るくらいしどろもどろであたふたするアクル。

 

そんな様子に、男はニヤニヤと笑う。

 

「こういう船内なら、こういう武器じゃねぇとなァ?」

 

そう言って、自身の得物……カットラスを見せびらかす。

 

短い刀身は、確かにこの通路でも振り回しやすそうだし、幅が広く、重量もあり攻撃力も高そうに見える。

 

 

片刃だが、先端は両刃になっており、突き等もしやすそうである。

 

 

 

 

魔王が、船長ならサーベル持っとけよとか呟いていた。

 

 

 

「…………」

 

 少し間をおいて……気を取り直した様にアクルが大剣を握り直すと、大剣は液状化し、大剣よりは小型な刀に変わる。氷雨の刀、村雨丸である。

 

 

 それを見た男は、少し驚いた顔をした。

 

 

「なんだそりゃ? 面白れぇな」

 

 

 召喚術ではなさそうだと船長は思う。最初の時点で、違和感はあったが。

 

まさか異能力か?人間にゃ珍しいな。

 

「……なァ、お嬢ちゃん。アンタ、ずいぶんと面白い力を持ってるみたいだな。

 どうだい? 聖護士養成所なんか辞めて、オレ様の仲間にならないか?このプーパイス様の部下にな。優遇するぜ?」

 

 

「え?」

 

 

 いきなり勧誘されて、キョトンとするアクルに対して魔王は告げる。

 

 

「嘘だ!こいつあの手この手でアクルたんを騙して乱暴する気なんだ!エロ同人みたいに!

 そして、悔しいでもビクンビクンな展開であのねされるんだ!」

 

 

 魔王の言ってる事の大半はよく解らなかった、とりあえず不穏な空気を察してアクルは身構える。

 

 

 ただでさえ魔王として危険視されているというのに、海賊にまでなったらどんな目で見られるか解ったものではない。

 

 

まぁ、この男……プーパイスとしても、異能力持ちと戦っても面倒そうだし、それを避けれたら楽だなくらいなものだが。

 

 

五区にでも行って、売り払えば金にもなりそうだったので、残念ではある。

 

 

 

 

 

 

「ククク、交渉決裂ってか? 悲しいねぇ……」

 

 

 わざとらしく肩を竦めながら、海賊船長プーパイスは右目の眼帯に手をかけ……外す。

 

 

「え?」

 

 

 あれって、目が怪我したり、なくなっちゃったりした時に着ける奴だよね? 何か、健在みたいなんだけど……。

 

 

 不思議そうにするアクルをよそに、プーパイスは左手のフックに右手を添える。

 

 

「さてと……お嬢ちゃん、ただ者じゃあねぇみてぇだからな。一応、本気で行かせて貰うぜ」

 

 

 ガシャンと音を立てて左手のフックが外れると、無傷の左手が姿を現してアクルは驚く。あれって義手的なのじゃあなかったのだろうか。

 

魔王も思わず、なんだこのおっさん!?と驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……まぁ、あの船長の考えはよく解らんが、とにかくこれはあれだな」

 

 

 魔王がアクルの頭の中で言葉を発する。

 

 

「アクルたんのハッタリは失敗に終わり、全力で 『私は素人です!』 と自己紹介しただけに終ったという訳だ。

 しかも、妙な力を持ってるアピールをしたせいで、素人と知りつつも油断出来ない相手と判断した」

 

 

 そこまで言ってから、魔王は、うん、と笑った。

 

 

「アクルたんのハッタリは見事に最悪の結果をもたらしてしまった! こうなっては仕方がない、さぁ、武器を握り応戦したまえ!」

 

 

 なんでいきなりテーブルトーク風になったのかはさておき、確かにアクルは物凄い速度で襲い来るプーパイス船長に応戦せざるを得なかった。

 

 

「…………そら!」

 

プーパイスは、そんなアクルに対して一手踏み込む。

 

 

 

「…………わっ!」

 

 船長のカットラスにより放たれた右から左への薙ぎ払いを、アクルは後ろに一歩下がり避ける。

 

 

 直ぐ様放たれた切り返しの刃も同じ様に避けると、プーパイスはそこから左足で蹴りを放った。

 

 

 それは避け切る事が出来ずに、アクルは腹にくらって、よろけながら後退。

 

「ケホッ……!」

 

 

 笑みを浮かべながら放たれたカットラスによる頭上からの斬撃を、アクルは刀でどうにか受け止めた。

 

 

 ガキィンと喧しい音が鳴り響き、耳がキーンとなって、アクルは怯む。そんな少女に、すかさず再びプーパイスの蹴り。

 

 

 わき腹に当たって吹き飛び、アクルの小さな身体は狭い通路を転がった。

 

両端の壁に後頭部をぶつけて短い悲鳴をあげるが、その大きな目がこっちに迫るプーパイスを捉え、転がむて攻撃を回避。アクルのいた場所は、カットラスにより斬り裂かれてしまった。

 

 

 アクルは転がった勢いで立ち上がり、よろよろと背を向けながら逃げて、振り返る。背中が壁に辺り、アクルは奥歯を噛んだ。行き止まりだ。

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