壁際まで追い込まれたアクル。それを見て、プーパイスは口角を吊り上げて笑った。
「ハッハッハ……もう後がねぇなァ?」
余裕の表情のプーパイスを見ながら、強い、とアクルは思う。当然だろう。
相手はこの海で荒くれた男達を従える、海賊の船長なのだ。
対するアクルは、凄い力を手に入れたけど扱い切れない女子中学生である。武器なんて、竹刀すら握った事が無いのだ。
「しかし何だお嬢ちゃん。アンタ、本当に聖護士養成所の奴か?こういっちゃあなんだが、歯応えがねぇぜ?」
「え?……ああ。えっと、それ嘘です。ただのハッタリなんです……」
「お、おう、そうか……随分とあっさり認めやがったな。いや、素直なのはいいと思うぜうん」
なんとなく調子が狂うプーパイス。対するアクルは、必死に現状打破の作戦を考えている。
「こいつの強さは大体、あの闘鶏(バイチキ)くらいか、ちょい弱いくらいかな。プリキュオンのお嬢様には遠く及ばんくらいか」
そう分析する魔王。少女にとって、闘鶏には殺されかけたので、それと同等と言われても恐怖しか感じ無い。
「ダメージ覚悟で突っ込んでみたらどうだ? 初見なら勝てるぜぃ」
それはまぁ……勝てるかもしれない。
だが、それをやると再生能力を見せる事になってしまう。それは不味い。
アクルは意を決した様に、プーパイスを鋭く睨む。作戦を考えついたのだ。
「……あっ! あれはなんですかー!!?」
「な、な、な、なぁぁにいぃぃい!?」
あまりにも古典的で間抜けな作戦に、魔王は思わず驚きの声を上げた。いや、無理だろそれは。
「昔の漫画とかでも古典的なやつやぞ!」
思わず突っ込む魔王。対するプーパイスは……やはり呆れた顔をしていた。
「……オレ様の後ろに、なんかあんのか?」
「え?あ、はい……えっと、見なきゃそんな物が、その……」
「………………ふーん」
声がだんだんと小さくなるアクルを見ながら、やれやれとプーパイスはノッてやった。
ノッてやって、振り返って見る。
……そして、プーパイスは後ろを見て固まった。
「えっ。」
なんと人がいたのだ。人形の様な少年、メリーである。丁度、アクルからは見えない位置に彼はいた。
奇襲をかけようとしたところで、いきなりプーパイスが振り返り、目と眼が合ったのである。
一瞬の硬直。だが次の瞬間にメリーが駆け出す。
「なっ……!?」
速ぇ! とプーパイスは思う。距離は十メートル以上あったというのに、その間合いが一瞬にして詰められた。
「グッ……!」
なんとかナイフの初撃をカットラスで防ぐも……。
「ぐぇ……!」
頭を、刀の峰で殴られて……プーパイスは白目を向いて崩れ落ちるのであった。
「かっ……勝った……!」
崩れ落ちたプーパイスを見ながら、アクルはグッと拳を握る。
「や、やりましたよー! あたし、勝ちましたよー!」
「対人戦は初勝利かな? おめっ!」
喜んで飛び跳ねるアクルを苦笑混じりに眺めながら、メリーはアクルに一歩歩み寄る。
「やぁ、お姉さんお手柄だね。」
「どひー!? め、メリーさん!?」
メリーがいた事に驚き、みつあみをはねさせながら飛び跳ねるアクル。
「あはは、面白いリアクションだねお姉さん?……さて、どうしようかこの人。」
ちゃんと生きているプーパイスを見ながら、そうですねぇ、とアクルは呟く。
「まぁ、私が牢にぶちこんどくよ。手続きとか、面倒だろ?……後で、報酬金とか、そういうの持って来るから安心してよ?」
そう言って、にこやかに立ち上がりながら、メリーは苦笑混じりにアクルを見る。
「ああ、それとお姉さん……こいつは強かったから大丈夫だったけれど、峰打ちでも死ぬ時は死ぬからね?」
「えっ……!?」
どうやら、峰打ちなら人は死なないと考えていたアクルは、心底驚いた顔をするのであった……。