薄幸の堕天使   作:怒雲

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「ふっ……先程の男のパワーアップ……貴様らの仕業だな?」

 

 何かドヤ顔で、太いおかっぱ黒髪眉毛の男はそう言い放ち、アチョーと呟きカンフーっぽいポーズをとる。そして、シュッシュッ! と口に出しながら、おもむろにシャドーボクシングを始めた。

 

 

 そんなシュールな光景を眺めながら、スネルフは不愉快そうに眉をひそめる。

 

 

「……『貴様ら』、じゃあねぇよ。『貴様』だ。そこのカウンターにいる女がやったんだ。俺は関係ねぇ。」

 

 

 びっくりする程にあっさりとフルールドを売るスネルフ。スネルフ曰く、『フルールドは安い女だから問題ない』との事である。

 

 

「ふっ……とぼけても無駄だ。貴様らが組織、『ブラックサンダー』である事は知っている。」

 

 

 それを聞いて、スネルフはますます不愉快そうな顔になり、呑気に茶をしばいてるフルールドにその蛇の様な眼を向ける。

 

「何だそりゃあ? ブラックサンダーなんざ初めて聞いたぜ。お前、何か知ってるか?」

 

「ぜんぜーん。しりまひぇーん」

 

 

 フルールドは、どうでもよさそうにそう言って、注射器を取り出す。

 

そこに入った液体を眺めながら……だらしなく、ニヤ~と口許を緩めた。

 

 

「うへへぇ~。お薬注入お薬注入ぅ~。あぁ~、きたきたきたぁ。」

 

 

 そう言ってだらしない顔をしながらヨダレを垂らしているフルールドに、スネルフは軽く溜め息をもらした。

 

眉間に皺を寄せて、気だるげに男に視線を戻して。

 

 

「俺達は関係ねぇよ。他所に行くんだな」

 

 不機嫌そうな声色でそう言い放つ。

 

 この五区において、フルールドが知らないという事はよっぽど新しい事か、よっぽど大したこと無いかの二択である。スネルフは、後者と判断した。

 

 

 そして、その大したこと無い何かの一味と判断された事に苛立ちを覚えているのだ。

 

しかもこいつがいる限り話しが進まない。

 

 

「ふっ……言ったはずだ。とぼけても無駄だとな。」

 

 

 そう言って、なんちゃってなカンフーっぽい服装の男は、アチョーとか呟きながらズカズカとスネルフに歩み寄る。

 

 対するスネルフは、欠伸をしていた。

 

 

「地獄に落ちるがいい!」

 

 

 

 そう言って、男はスネルフに右フックを放つ。

 

 

 拳が物凄い速度でスネルフに迫り、顎に直撃しそうになったその刹那。

「ぶっ殺すぞテメェ。」

 

 ドスの効いた声が店内に響くのと、いつの間にか手に持っていた小さめの木槌で、男の頭を殴打した鈍い音がほぼ同時に店内に鳴り響く。

 

 

 鈍い音は、頭蓋の骨が砕けた音だろう。アチョーの男の頭半分が陥没し、片目が飛び出す。即死であった。

 

 

 どちゃりと音を立てながら木の床に崩れ、赤黒い液体が模様を描く。

 

 

「あわわ、大変大変。」

 

 

 慌ててカウンターから飛び出し、フルールドは医療用の刃物みたいなのを取り出して、男の亡骸を解体していく。

 

 

「モツは~高く~売れます~。」

 

 

 鼻歌混じりに解体するフルールドを眺めながら、これでようやく話を戻せるなと軽くタメ息。

 

 

 

「………で、さっきの話に戻すが……魔王の護衛ってのはどういう事だ?」

 

「血液血液~。貴重貴重~。」

 

 

 鼻唄を唱いながら、ニヤニヤとフルールドはスネルフを見上げる。

 

 

「そのまんまの意味。れしゅよぉ~。今、魔王は復活したてで弱いかりゃあ~護衛が必要~なの~」

 

 

 呂律の回っていないフルールドの言葉を聞きながら、スネルフは軽く腕を組み壁に背を預けた。

 

 

「それを、人間(オレ)がやる理由は何だ? 魔王の護衛は魔族がやるのが筋だろ。」

 

「うひひ……魔王は今ぁ、魔族に狙われてる立場だからぁ~むりなんれひゅう~。」

 

 

 スネルフの眉がピクリと動き、軽く頭をかく。内部争いか?

 

 

「何故ならぁ、魔王は人間だかられひゅ~。」

 

「……なに?」

 

 

 フルールドは、男の解体作業に戻り、スネルフはまた眉間に皺を寄せる。

 

 

「……魔王が、人間の体を使って転生したって事か?」

 

 

 前例が無いが、話しから察するにそういう事だろう。何故かまでは流石に解らないが。

 

 

 スネルフの発言に、フルールドは嬉しそうに笑いながら、首を百八十度回してスネルフの方を向いた。

 

ボキリと、首の骨が折れた音が辺りに響く。

 

 

「えっえっえっ、理解が早いれしゅねぇ。いいれしゅよぉ~。流石スネルフくんらぁ~」

 

 

 男の解体が終わったらしく、フルールドは怪しげな壷に男のパーツを収納しながら立ち上がる。

 

 

 首が折れている為に、頭がぶらんぶらんしていた。

 

 

 

「おっとっとー? 何時もの癖でやっちまいやしたぁ~……うひっ!」

 

 頭を両手で掴み、ゴキゴキと耳障りな音を立てるフルールドを見ながらも、慣れているスネルフは特に表情を変えない。

 

ああ、また始まったな~くらいなものである。

 

 

「……誰からの依頼だ?」

 

「こんな曰くバリバリの依頼出すやつにゃんてぇ、メリーさん以外にいましゅかぁ~?」

 

 

 やっぱりアイツかとスネルフは思う。胡散臭い奴だが、まぁそれでも一応、筋は通すし信頼も出来る。

 

 

「流石の私もぉ~、状況を把握しきれてるわけじゃあないでしゅがー。」

 

 

 ぐりんぐりんと頭を動かし、ニタァ、とフルールドは笑う。

 

 

「多分、今は歴史のターニングポイントって奴でしゅよぉ~。」

 

 

 成る程な、とスネルフは少し考える。

 

「……俺以外にこの依頼受けてる奴は?」

 

「ベアルさん一派でしゅねぇ~。まぁ、彼らには対象が魔王である事は伏せてるみたいれしゅけろぉ~。スネルフ君には特別教えますしおすしぃ~。」

 

 

 そこまで聞いて、スネルフはここに来て初めての笑みを浮かべた。

 

 

「いいぜ。受けてやる。」

 

「イヒヒィ~。いいでしゅねぇ。

 でも、ふっといてなんれひゅがぁ、この依頼かなり危険れしゅよ?

 何せ、魔星十二支や十二聖護士さえも敵に回すでしょうからねぇ~。」

 

 

「……だから、面白そうなんじゃあねぇか。」

 

 

 人間、何時かは死ぬのである。ならば、こういう大事に関わらずしていつ命を使うというのか。

 

十二聖護士や魔星十二支。そいつらに、自分が実際に通用するのか試してみたくもあったから都合が良い。

 

 

「じゃ、景気付けに私と一発ずっこんばっこんしましょかー。えっえっえっ、鬼をタダで直してあげるんだからいいでひょー?」

 

「……ま、いいか。」

 

 

 そう言って、二人はカウンターの奥に姿を消すのであった……。

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