魔王少女、樋山 アクルは五区の港町にいた。
剥き出しの路面と、石みたいなので出来た家々。
「……はふぅ。」
さて、どうしようかなとアクルは思う。メリーとは、もう別れた。
一区とやらに帰って行ったのである。
「……えっと。」
アクルはメリーの話しを思い出す。もし特別な用事が無いのなら、南門から出て真っ直ぐ南を目指すと良いと。
この港町も治安が良い方ではあるが、南の方にある街は五区でもかなり治安が良いのだとか。
「アクルたんぇ……」
魔王が呟く。メリーは確かに、港町は治安が良い方ではあるが、それでも五区は危険なので警戒すべきとは言っていた。
故に、アクルは警戒しているのだが……キョロキョロと辺りを見回しながら歩くその姿は、私よそ者です!旅は初めてです!素人です!とアピールをしている様なものであった。
「あゃ……?」
ふと、食欲をそそる匂いがして、アクルはそっちに向かってふらふらと歩き出す。既に無防備であった。
周囲には、ボロを纏った様な人々が……シンプルだが、高そうな外套を身に纏うアクルを眺めており、魔王は少し戦々恐々である。
「アクルたん、注意注意!」
「あっ!」
再びキョロキョロしはじめるアクル。周囲は、チラチラ見ているだけで何もして来ない。
アクルには聞こえていないが、ヒソヒソと路地裏の男達が言葉を交わしていた。
「おい、見ろよあのガキ。結構高そうなモン身に着けてやがるぜ。剥ぐか?」
「あー……やめとけやめとけ。地雷だよありゃあ。
考えて見ろよ。あんな無防備なガキが、どうして高価な物を身に付けて五区なんかを一人で彷徨くんだよ。
なんか釣ろうとしてんだよ。どっかに、仲間が隠れてんのかもな」
「………ま、確かにそうだな。んな美味い話、あるわきゃねーか。……露骨過ぎて演技臭ぇしな」
「クク……実力はあるんだろうが、演技力はそれほどでもないみたいだな」
「怖い怖い……人畜無害な面して、なにを考えてやがるんだか」
と、勝手に深読みしてくれているのであった。
そんな人畜無害で素人そのものなアクルたんは、ふらふらと香り漂う方向へとしばらく歩いて行く。
そこにはひとつだけ屋台の様なお店があった。どうやら、フランクフルトを焼いているらしい。
食欲そそる香りが辺りに満ちている。
「よし、アクルたん買おうぜっ!」
食べたいけどどうしようかと悩むアクルの頭の中で、魔王が大はしゃぎ気味に言う。
少し考えて、小さく頷きアクルは妙に怪しげな店員が二人いる屋台まで歩く。
「あ……えっと、フランクフルト一本下さい。」
「あいよー」
にやりと笑う店員を見ながら、アクルは大きな布袋から、小さな財布を取り出す。
お金を出そうとした際に、視界の隅に何かが映ったので……アクルはそちらの方に視線をやった。
するとそこには、ボロを纏う一人のみすぼらしい少年が。
なんだろうかと思った瞬間、少年が素早く手を振る。
手を見ると、握られているのは短剣。次に感じたのは、痛み。
見ると、財布を持っていた右手が、切断されていた。
「え……?」
みすぼらしい少年は、アクルの右手ごと財布を握り走り去って行く。
まだ少年でしかない彼は、アクルを見て深読みする事なく、ただの素人だと判断したのだ。正解である。
「えっ、あっ」
とりあえず再生するところを見せまいと、激痛に耐えながらアクルは慌てて、全開まで開いた蛇口の様な勢いで血を噴出している切断面を隠しながら、人目のつかない路地裏まで逃げる。
その際に、店員の片方が噴き出してもう一人にこう言っていた。
「店長! こりゃ当分、ケチャップはいりやせんぜーっ! HAHAHA!」
アクルは、背中でその言葉を聞いていた。
物影に隠れて右手を見ると、もう既に再生している。
誰にも見られていない事を確認し、ホッと一息。とぼとぼとアクルは歩き出す。
「えぅぅ……お金……」
あの少年の姿はとっくに無く、アクルは惨めな気持ちで歩き出す。
「なんてこったい……フランクフルトが……。」
すっかりフランクフルトを食べる口だったのに、クソガキめと魔王は思う。
「それはそうと、アクルたんナイス判断や」
腕を切られて、冷静にかつ即座に逃亡したのは素晴らしい。まぁ、あれよりヤバいダメージ受けた事もあるといえだ。
「……魔王さん、お金ってどう稼げばいいですかね?」
心の中で、財布とお金をくれたムリフェンに謝罪しつつアクルは歩く。
街での寝床や船代はピスケラが出してくれていたので、結局ほとんど使っていなかっただけに辛い。
「あのガキ、思わぬ収入にえびす顔だろうなぁ。」
ぼやきつつ、そうだな、と魔王は呟く。
「害獣討伐か、強盗かな。」
害獣討伐も大概だが、強盗は嫌だなぁとアクルは思う。
「まぁ、なんだ。この街はアクルたんにゃ難易度が高そうだ。治安いいと噂の南に行こうず。」
山道ならば、食料もあるしなと魔王は笑う。猛獣に勝てるアクルにとって、この港町よりかは安全だろうという考えもある。
それもそうですね、とアクルは南門に向かう。
兵士が立っていたが、通りたいと言ったらアクビしながらどいてくれた。やる気無さすぎである。