薄幸の堕天使   作:怒雲

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倒れた青年を、アクルは少し肩で息をしながら眺める。

 

「…………」

 

 

 好感の持てる相手では無い。むしろその逆だ。

 

恐れと侮蔑が入り雑じった表情でアクルは背中を眺め、少し深呼吸した後、歩き出す。

 

 

 

 

 ここに放置していると獣の餌食になるかもしれないが、流石に助けてやる義理も無い。自業自得だろうと思う。

 

「アクルたん……やるじゃあないか……」

 

 思わず誉める魔王。正直、ナイス判断だと思った。

 

 

「いや、マジで。……こんなアッサリ倒すとはなぁ……。

アクルたんは成長している!凄い早さで!」

 

「……そ、そうでしょうか?……えへへ。」

 

魔王に褒められて、アクルはちょっぴり照れたように笑う。

 

認められるのは嬉しい。さっきの緊張や恐怖が、少し薄れていく。

 

 

 

 

 魔王としては、青年にトドメを刺してやりたいところだが……まぁ平和に生きるアクルには流石に荷が重い話しだろうか。

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 再び街道を歩こうとした際に……近くの茂みが、ガサッ、と音を立てたのでアクルは身構える。

 

 

 視線が一瞬、青年の方に向いた。流石に自分の目前で食われるのは嫌である。

 

 が、その一瞬の隙を突くかのように、茂みから巨大な影が飛び出した。

 

 

 獣かと思ったが、そうじゃない。人だった。色黒の巨漢。

 

 

 そこまで判断出来た辺りで、ハゲ頭による頭突きをくらってしまい、アクルの小さな身体は、いくつかの木々を薙ぎ倒しながら吹き飛び青年の近くの木に激突して止まった。

 

 

「ぐっ……えぇ……っ!」

 

 

 何が起きたのかよく解らない。とりあえず、以前パイアーとかいう巨大な猪に突進された時と同等かそれ以上の衝撃だろう。

 

 

 十二聖護士たるピスケラの攻撃にこそ劣るが、だからといってダメージが低い訳でも無い。

 

というか普通に痛いし苦しい。

 

「ぐふっ、ぐふっ……ヒットしたんだな。」

 

 

 色黒で、スキンヘッドの巨漢。服装は、灰色のタンクトップな上着と、膝が隠れるくらいの同じ色のズボン。

 

 重い足音を立てながら、巨漢は青年の方に向かう。

 

 

「トライアングル。起きるんだな、トライアングル。」

 

 

 ゆっさゆさと豪快に揺さぶるのを眺めながら、アクルの血の気が引く。まさか、仲間がいたなんて。

 

あんなイカれた奴だから、独りに決まっていると思っていた。

 

 

「おいおい……ヘンタイ仲間か?」

 

 

 魔王もドン引き気味に呟いた。見た目もヘンタイっぽいしな。

 

 

 逃げなきゃと起き上がろうとするが、右足の太ももに激痛が走り、上手く立ち上がれない。

 

 

 視線をそこに移すと、アクルの目に突き刺さった太い木の枝が映った。痛いはずである。

 

 

「うっ……あぁっ……!」

 

 

 なんとか引き抜きながら、アクルは二人の男を見ると、最悪な事に青年が目を覚ましていた。

 

 

「う、う~ん……ん? ああ、ドルドォか。」

 

 

「ぐふふ……油断し過ぎなんだな。」

 

 

 アクルはなんとか枝を引き抜くが、まだ走る事は出来そうに無い。

 

 どうしようとアクルは思う。トライアングルという名の青年がこちらを向き、ニタリと笑った。背筋に鳥肌が立つ。

 

 

「ぐふっ、ぐふふ……アイツ、もう立ち上がったんだな。」

 

「アイツさぁ……怪我がどうやら再生するみたいなんだよ。」

 

「ぐふふ! じゃあ、骨を折りたい放題なんだな! ぐふふ!」

 

「そうそう。僕も斬りたい放題だよぉ……。ねぇドルドォ、アイツ捕まえてさぁ。『ペット』にして飼おうよぉ。」

 

 

 歩み寄りながらそんな会話をする二人を見て、アクルの全身を悪寒が駆け巡る。異常だ。

 

 

 こいつらは、異常だ。気持ち悪い、吐き気がする。気持ち悪い、キモチワルイ……。

 

 

「まぁ、お下品。アクルたん、ぶちのめしてやんなよ。二人とも大して強い奴でも無いぜ? 闘鶏とか、プーパイスだっけかよっか弱い。」

 

 

 まぁ、二人がかりはキツいかもしれんが。

 

 

「ひっ……うっ……」

 

 

 ただ、バカ面下げて呑気に歩いて近寄って来ているお陰で、足は再生した。もう、走れる。

 

 

「………────ッ!」

 

 

 アクルは周囲を見回して、街道を逸れて森の方に逃げ込む。

 

 

「逃がさないよぉ!」

 

 

 追って来るのが解る。なんとなくだが、またナイフか何かを投げて来たのも解った。

 

 

 だが、こうも草木が生い茂る場所を走れば容易くは当たらないだろう。

 

 

 ふと背後を見るが、思ったより距離が離れない。むしろ、縮まってさえいる。

 

 

 足の速さはアクルの方が上もしれないが、向こうの方が山道に慣れているのだろう。

 

 

 ……だが、問題は無い。何故なら、目の前に崖が見えたからだ。

 

 

 普通なら絶体絶命かもしれないが、問題無い。

 

 

 躊躇しそうになるのを堪えて、アクルは迷う事無く崖から飛び降りた。

 

 ああ、そういえば……崖から飛び降りるのは二度目かな、なんて事を思った。

 

 

 男達は驚いた顔をしていた。流石に、この手段は使えないだろう。

 

 

 

 景色が目まぐるしく変わるのもほんの僅かな時間……地面に落ちたであろう衝撃を全身に感じ、呼吸が止まる。

 

 

 少しの間、掘り起こされたミミズの様にのたうちまわっていたが、痛みが引いていく頃には落ち着きを取り戻して……アクルは仰向けに空を見た。

 

「…………ふぅ」

 

 

 そして、溜め息。物凄く痛かったが、ピスケラのボディーブローとかの方が痛かった事に軽く衝撃を覚える。

 

 

「アクルたん、無茶するなぁ……」

 

 

 魔王が思わず呟く。

 

「まぁ、いい手っちゃあいい手か。ただ、聖護士とか十二支ならあの程度の高さ、普通に飛び降りて追って来るから気を付けるんだぜぃ?」

 

 

 マジですかとアクルは思う。流石は怪物達である。

 

 

 起き上がって、アクルは周囲を見渡す。後ろ五メートルくらいに飛び降りた崖。

 

 

 周囲はやはり森の中。体のあちこちに枝が刺さっていたが、再生と共に抜け落ちたらしい。

 

 

「んー……街はどっちでしょうか?」

 

「どっちだろねぇ……とりあえず、南はアクルたんから見て右かな。」

 

 

 成る程と一言呟いて、アクルは少し急ごうと歩き出す。

 

 

「街まで行けば、あのメガネ・ジャンキーさんも、キラスキン・マッチョさんも追って来ないですよね?」

 

 

「いやー、アンタのアダ名はいつ聞いても面白いわ。メガネジャンキーて。」

 

メガネ属性大好き人間みたいじゃないかと魔王は笑う。

 

 

 呑気な会話をする余裕がある事に、アクルはホッとした……ほんの少しの間だけ。

 

 

 すぐにその顔から血の気が引き、青ざめた。あのヘンタイ二人組がいたからでは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そこにいたのは、魔族の方だった。

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