薄幸の堕天使   作:怒雲

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「敵に囲まれておりますぞ!」

 

 

 アクルが視認してから、魔王が何故か武将っぽく叫ぶ。

 

 

 周囲には、二足歩行のイタチみたいな男が一人。鹿の角が頭からはえている以外は人間みたいな男が一人。二足歩行の片目に傷がある熊みたいな男が一人。

 

 

 ……計三名の魔族の皆様である。

 

 

 

 

「よう、魔王様……の、力持ってる人間さん。こんにちは」

 

 

 軽い調子で、茶髪のクセの強そうな髪をした鹿角の魔族が笑う。魔王曰く、チャラ男みたいな奴だ。

 

 灰色の胴着みたいな衣服を身に纏い、手には何やらバールの様な物が。

 

 

「はっはっは、見ての通り囲んだぜ、魔王人間さんよ!」

 

 

 威勢のいい声色で、似た様な服装のイタチ男が一歩前に出た。

 

 手には矛。そして、長めの尻尾の先端には鈍色の光りを放つ、大鎌がくっついていた。

 

 

 アクルがよく見て見ると、どうやら尻尾と大鎌は同化しているらしい。

 

 

 その視線に気付いたらしいイタチ男は、ニヤリと笑った。

 

「オレは鎌鼬(カマイタチ)。魔族の攻勢部隊、『牙』の一員さ。

 そして……気付いたかい。オレの尻尾、鎌になってんだよ。カッコいいだろ?」

 

 

 そう言って、見せ付ける様に鎌鼬は尻尾を振って見せるが、少しばかりその表情を曇らせる。

 

「でもよぉ……実はオレ、この鎌あんまり気に入ってねえんだよ。見てくれよ、この鎌。」

 

 

 尻尾を手に取り、鎌を見せ付けながら鎌鼬は言う。

 

 

「命を刈り取る……形をしているだろ?」

「なに言ってんだコイツ。」

 

 

 魔王がすかさずぼやくが、アクルとしてはなんだかよく解らないが、とにかく怖い事を言っていると恐れを抱く。

 

 

「…………」

 

 鹿角の青年が、鎌鼬に近寄り……そして殴った。拳骨である。

 

 

「いってぇ! なにすんだよ空鹿(カラジカ)!」

 

「うるせぇよバカ!かっこつけんのは後にして、さっさと用件を言えやクソリーダー!」

 

 

 

 盛大に仲間割れを始める二人を見て、アクルは恐る恐る一歩下がる……。

 

魔王も、よっしゃいいぞアクルたん!漫才してる間に逃げたれ!とか言っている。

 

 

「伸熊(シングマ)!」

 

 

 しかし、当然そう簡単に逃げれない。空鹿という名の、鹿角の青年が隻眼の熊男の名を呼ぶ。

 

 

 すると、アクルの後ろ側にいた熊男が素早く拳を振った。

 

 

 距離にして、大体十メートルくらいだろうか? 普通なら、届く距離ではない。

 

「ぎゃっ……!」

 

 だが、届いた。アクルの顔面にクリーンヒットである。

 

 伸びたのだ。熊男の腕が。

 

 

「い、今のはまさか……ヨガ!?」

 

 

 魔王が驚きの声を上げ、よろよろとアクルは起き上がりながら尋ねる。

 

「よ、ヨガ……?」

 

 

 聞いた事はあるような無いような。

 

 

「武術だぜアクルたん! 腕や足が伸びたり、宙に浮いたりテレポートしたり口から火を吐いたりするんだ!」

 

 

 ……もちろんヨガにそんな効能は無い。そんな事が出来るのは、有名な格ゲーのハゲぐらいなもんである。

 

「……────ッ」

 

 アクルは、魔王の話しは何時もの冗談かなんかだろうで片付けた。手が伸びたのは、多分だが魔王が以前言っていた、異能力とやらだろう。

 

 

 それよりも、まずいのは今の状況だ。とてもじゃあないが、敵う気がしない。

 

 

「へいへい! 魔王人間、ビビってるぅ~!?」

 

「よし、アホリーダー。少し黙ろうか?」

 

 

 調子こいてる鎌鼬を呆れ気味に眺めた後、空鹿というチャラそうな鹿角の青年はアクルの方を向く。

 

 

「悪いんだけどさ、君は引っ込んでくれないか?オレらには、魔王様が必要なんでね。

 ……女の子いたぶる趣味は無いんで、そうしてくれると助かるね。」

 

「別に男をいたぶる趣味も無いぜ!」

 

 

 アクルは、周囲の様子を探り……どう逃げるか考えながら、ゆっくりと起き上がりながら口を開く。

 

 

「む、無理……なんです。ソレ、不可能らしいんですよ……ま、魔王さんが、そう言ってて……」

 

「…………ふぅん?」

 

 

 空鹿は、しばし虚空を眺めてから、笑った。

 

 

「じゃあ、この際キミでもいいかもね。オレ達と今から、人間殺しに行こうぜ?」

 

「そ、それは……。」

 

 

 人殺しなんて当然したくない。そんなアクルを見ながら、空鹿は溜め息を吐いた。

 

 

「やれやれ……それ、一番最悪なパターンなんだよなぁ……」

 

「ま、いいじゃねぇか空鹿! とりあえず、コイツを動けないようにして、擬猿さんのとこまで連れてこうぜっ!」

 

 

「…………ま、そだね。」

 

 そう言うやいなや、二人はアクルに向かって駆け出した。

 

 

対するアクルは、とりあえず武器を──村雨丸を手に持つのだった。

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