薄幸の堕天使   作:怒雲

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「へぇ……アレが魔王ねぇ。」

 

「案外脆そうだろ?」

 

 

 霊狐と呼ばれた、狐色の髪と尾を持つ女性が一歩、アクルに歩み寄る。その手には、風呂敷のような物が握られていた。

 

 

 

「つーか、なにしてたんだよ?」

 

 

 

 

「ああ、ちょっと絡んで来た奴等がいてねぇ。遊んで貰ってたのさ、ひひひ。」

 

 

 ドチャリと重い音を立て、風呂敷を軽く放り投げて……二つのソレが地面に落ちた。アクルの第一印象は、歪な形の大きなボール。そして……。

「……─────ひっ!?」

 

 生首だ。人間二人分の生首。アクルを先程襲って来た二人組の生首。

 

 

 眼鏡の青年の方の首に至っては、頭が縦半分に割れていて……そしてはみ出しているのは……。

 

 

「うっ……! うぇえっ……!」

 

 

 理解したくなくて、アクルは目を無理矢理反らし口を押さえる。

 

 

「おいおい……他に人間いなかったろうな?」

 

 

 空鹿に問われて、大丈夫さと霊狐は笑う。いたら、邪魔だからちゃんと消すさね。

 

 

「つーか、既に負傷しとるじゃねぇかよ!」

 

「いやぁ、気持ち良さそうだったから、つい……ね?」

 

 

 照れた様に笑い頭の後ろを掻いて、さて、と霊狐は肉屋の包丁に似た片刃の剣、サラワーを片手にアクルを見た。

 

 

「ひっ……ひぃ……!」

 

 

 アクルは立ち上がり、構えるも腰が引ける。恐怖心で、足ががたついた。

 

「落ち着けアクルたん、生首なら以前も見たじゃまいか!自分の奴を!」

 

 

 そういう問題では無いのである。 というか、魔王が余計な事を言ったせいでピスケラとの戦いを思い出してしまい、アクルの頭の中でその光景がフラッシュバックしてしまった。

 

ますますアクルは震えるが……若干、ハイな気分になってる狐の女。霊狐は特に気にしない。

 

 

「ハハッ……楽しませてくれよォ!?」

 

 

 猛スピードで突っ込んで行く霊狐を見ながら、空鹿は鎌鼬の方に目配せをする。

 

 

「ん……おお、そうだな! んじゃ、しばらくは頼んだ!」

 

 

 鎌鼬は背を向け、その場から離脱していく。仲間でも呼ぶ気かと魔王はハラハラだ。

 

 

「アクルたん、まずいぞ!」

 

まずいのなんて、アクルにだって分かっている。

鎌鼬が何故何処かに行ったのかは分からないものの、ロクでもない事に決まっているのだから。

 

 

 

 

 迫り来る霊狐に恐怖を感じながら、アクルはその手に銀光の大剣、クラウ・ソラスを構えた。理由は、単純に一番リーチが長いからだ。

 

 

「こ、来ないでっ!」

 

 

 牽制のつもりでアクルは大剣を振り回す。霊狐は一切スピードを緩めない。緩める事なく……。

 

 

「あっ……!?」

 

 

 クラウ・ソラスは霊狐の腹部を横薙ぎに斬り裂いた。赤い血飛沫と、飛び出す臓物。

 

 肉を切り裂く感触が手に伝わり、アクルはビクッ、と力を抜く。背骨に当たらない辺りで刃は止まった。

 

 

「えっ、あっ、なんで………」

 

 

 ガタガタと震えるアクル。大きな目を見開く。不快な感触。

 

 

 ……………あたし、この方を殺し───。

「アクルたん! まだだ!」

 

 

 ハッとアクルは、自分に迫る手に気付いた。霊狐は右手を伸ばし、アクルの頭、右部分を片手で握って来たのだ。

 

 

「あっ……うぁあッッ!?」

 

 

 その際に、親指で片目を潰され絶叫を上げた。霊狐は、そのままアクルを力任せにぶん投げる。

 

 

 

「うっ……あぐっ……!」

 

 起き上がりながら、アクルは霊狐を凝視する。彼女は何やら、ゲラゲラ笑いながら、飛び出した内臓を裂けた腹に突っ込んでいた。

 

「内臓を内蔵中ってとこだな。つーかなんだありゃ、我の異能力に少し似てるが……」

 

 

 クッソつまらない駄洒落みたいなのを言いながらも、一応真面目に分析する魔王。

 

 

 アクルは、とりあえず殺していない事に安堵するものの、致命傷のはずなのに元気に襲い掛かって来る霊狐を見てすぐにまた大剣を構え直す。

 

 

「うっ! あっ! ……ぎゃあっ!?」

 

 

 速い、速いのだ。霊狐の斬撃は、猛獣に勝る速度であるアクルでも捌ききれたものでは無い。

 

 

「や、ヤバいぞ……! しぶといだけじゃあねぇ、コイツ強い……!」

 

 

 しかも、緩急を突いて攻撃してくる空鹿が、実に厄介である。

 

 

 アクルは……大剣を再びハンマー、ミョルニールに切り替えた。バカのひとつ覚えと言われ様が、今の状況で使えそうな技なんてこれくらいなものなので仕方が無い。

 

 

「やぁっ!」

 

 

 地面を殴り、放つは土と小石の炸裂弾!

 

「あっひゃひゃひゃひゃあ!!」

 

 

 霊狐は、それらを全身に浴びながらもまったく意に介せずに突っ込んで来た。化け物である。ダメージはあるみたいなのだが、気にしていないのか、痛みを感じていないのか。

 

 

「あっぐ……!」

 

 

 腹を切り裂かれ、体から力が抜ける。

 霊狐は、裂いたアクルの腹に手を突っ込み、長い臓物を引きずり出した。

 

 

「ひぁ……がぎゃあッ!? いだいいだいいだい!」

 

 

 痛みに絶叫しながらも、なんとかミョルニールを振り回すと、霊狐にクリーンヒットし、彼女は感電しながら吹き飛ぶ。

 

 流石に、即座に起き上がる事は無かったものの、直後にアクルは伸熊に殴られてまた地面に転がる。

 

 

「ハァ……! ハァ……!」

 

 

 まるで、見えない。打開策が浮かばない。どうしようも無いのだ。

 

 

 なんとか逃げたいと思うが、さっきの感じだと追い付かれるだろう。なら、どうしよう。

 

 

 周囲を見渡すと、またもや崖が見えた。

 

 ……行けるだろうか。空鹿は間違いなく追って来れるだろう。霊狐とかいうのも無理矢理来そうだが、鎌鼬と伸熊は解らない。来ないと信じるしかない。

 

 

 ふらふらと起き上がり……アクルは崖に向け走ろうとしたが……走れなかった。

 

 

 それを、なんと形容しようか。目に見える、巨大な鎌の様な紅い衝撃波。そんな感じの何かが、森の木々と共にアクルを一閃した。

 

 

「あ……。」

 

 

 膝から力が抜けて、アクルは膝を地面に着けた。立ち上がろうとするも、力が入らない。

 

 

「あ……ぅ……?」

 

 

 外傷は、無い。無傷だ。だが……。

 

 

「チィ……! あの鎌鼬とかいう奴の仕業か……!」

 

 

 発動まで時間がかかる上に燃費がすこぶる悪く、一日に二、三発くらいが限度だが……対象の『命』そのものを切り裂く異能力、『血染めの大鎌(クリムゾン・デスサイス)』である。

 

「…………。」

 

 

 倦怠感に包まれ、瞼が重くなる。体が言う事を聞いてくれない。

 

 

 ああ、もうダメなのかと思いながら……アクルはその場に崩れ落ち、意識を手放した。

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