「よし、やったな。さて、魔王さんを十二支達のとこまで連れてくぞ。」
空鹿は呟き、タメ息混じりに空を見た。もうすっかり日が暮れている。
「ドラァ! 見たかオレの必殺技ァ!」
アレを撃ったばかりで疲れているだろうはずなのに、やたら元気に鎌鼬は歓声を上げる。
「オレのお蔭だぜ! 今夜は酒宴だな! 鎌鼬の夜だぜっ!」
等とぼさき散らしながら、大喜びで片手を振り上げる鎌鼬。
「あ、あ、か、鎌鼬……は、ささ、さ流石、だっ……。」
そんな彼を、感動したように何度も頷く伸熊を眺めながら、やれやれと空鹿はぼやく。まぁ、本当になんとかなって良かった。
「ちょっと鎌鼬! 余計な事すんじゃあないよ、楽しくなってたのにさ!」
「えぇ~……活躍したのに怒られた……」
理不尽な霊狐の言葉に、若干肩を落とす鎌鼬を見ながら、遊びじゃねぇんだぞと空鹿はたしなめる。
「そりゃあそうだ……っ!?」
勝って、目的達成!
そんな和やかなムードを切り裂く様に……突如、何かが霊狐の右足を貫いた。
「弓矢、だと……!?」
空鹿が顔をしかめる。一体誰がって、人里近いから人間に違いないだろう。
そりゃあ、人間領で暴れ回ってれば感知されるわな。
……………だから短期戦で行きたかったんだが。
「……────チィッ!」
鎌鼬が奥歯を噛みながら、周囲を探る。すると、周囲の空間から無数の波紋が生じる。まるで、水の様に。
「う……! あ……!?こ、こ、これは……い、い、いったい……!?」
伸熊はしどろもどろな調子である。皆、狼狽していた。霊狐だけは楽しそうに口角を吊り上げているが。
キリキリキリキリと、妙な音が鳴り響きながら、周囲の何も無い空間からソレらが現れる。
人形であった。球体間接を持つ、マネキンの様な人間サイズの人形。
それぞれが、兎の耳の様な物を頭に着けているのが見てとれる。
「な、なんだコイツら!?」
人間じゃねぇと驚く鎌鼬に、人形だろと空鹿はぼやく。
一体や二体では無い人形の群れが、魔族達を囲んでいた。
人形達が殴りかかり、鎌鼬らはそれに応戦する。
拳を、手刀を、蹴りを避け受け流しながら、鎌鼬は空鹿の方を見た。
「……あー、空鹿。コイツら結構強いんだが、手ぇ貸してちょ?」
「こっちもそれどころじゃあねぇよ……!」
一体一体と人形、全てがやたら速く動き襲い掛かって来る。
全快の状態ならまだしも、疲弊した今ではまるでダメだ。
鎌鼬は仲間達を観る。空鹿と自分は正直キツいが、伸熊と霊狐はまだまだ行けそうな感じだ。
これなら……。
「撤退すっぞ!」
魔王の事は口惜しいが諦めるしかない。余力がある内に撤退しないくては、犬死に全滅確定なのである。
「おいおい! 私はまだまだやれるよ!?」
霊狐が人形に斬りかかりながら叫ぶが、鎌鼬は首を横に振った。
「バッカ、おめぇアホか!?
人里近く! よく解らん人形による物量攻撃! さっき矢が飛んで来た事から考えて狙撃主(スナイパー)までいる訳だぜ!?
こりゃまだまだ牽制の段階だ、敵の規模も解らんオレ達と違って、あっちはキッチリ把握してるはずなんだ! 逃げるしかねぇんだよぉ!」
人形の攻撃をギリギリ避けながら鎌鼬は叫ぶ。
「チッ……愉しくなって来たってのにねぇ。」
とはいえ、このまま一人わがままで暴れれば迷惑がかかるので、大人しく退くかと踵を返した瞬間である。
霊狐の頭上から……木の枝から飛び降り一人の少女が飛び出す。
日本刀の様な得物を持った、美しい黒髪のサイドテールの少女だ。
黒いフリル付きの、所謂ゴスロリの衣装が白い肌によく似合っていた。
「……ハッ!」
狐の面越しに笑みを浮かべながら、襲撃者の斬撃を受け流す霊狐。だが、敵はこの少女だけでは無い。
茂みから、熊の様に大柄な男が飛び出して来た。まるで、力士のような体型をした、軽装の鎧を身に纏う巨漢である。