薄幸の堕天使   作:怒雲

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 突如現れた巨漢が、霊狐に向けてクレセント・アックスと呼ばれる巨大な長柄の斧を力任せにぶん回す。

 

 

 霊狐はその一撃を剣、サラワーで受け止めるも……。

 

「ひゃはっ!?」

 

そのままパワー負けして、吹き飛ばされてしまった。

 

 

 木々を薙ぎ倒しながら吹き飛び、霊狐はそのまま崖下に真っ逆さま。

 

 

「ゲゲゲーッ!?」

 

 

 思わず叫ぶ鎌鼬。まずいぞと思う。一番、戦力になる霊狐が文字通りのドロップアウトだ。これは、まずい。

 

 

「あ、ああ、あ……れれ、れ、霊狐!」

 

 

 撤退しようとしていた伸熊の足が止まり、近くにいた空鹿も足を止め伸熊の手を掴む。

 

 

「ほっとけ、今は自分の命を優先しろ……!」

 

あいつの事だから死んでねーしよ!

 

「む、むぅ……」

 

 

 そんな会話をする二人を見ながら、何もたついてんだよと鎌鼬は思う。

 

 

 近くに、さっき折られた矛先が落ちているのを見付けて鎌鼬はそれを拾った。まだ武器として使える。退路を開くには必要だろうと判断した。

 

 

 

 

普段の彼なら、やらない行動だった。

 

 

 

「…………ッ!?」

 

 

 膝から力が抜け、片膝をついてしまう。あ、しまった。

 

 

鎌鼬は思う。そもそも、人形。アレが出て来た時点で撤退しなくてはならなかったのだ。

 

 

 

魔王の確保が出来そうだった為に……柄にもなく、欲張ってしまった。臆病である事が、自分の自慢だったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐらついた時間、一秒かかるかどうかの時間。だが、戦場では……死地においては、あまりにも長く、致命的な時間。

 

 

 

 

 

背後から迫っていた人形の両手に頭を掴まれ、悟る。ああ、ここまでだなと。死んだわ、オレ。

 

 

 

 

 

 

 最後に、眼だけを動かしなんとか周囲を見た際に、鎌鼬の目があるものを捉えたその刹那、ボキッ、と嫌な音が聞こえた。

 

 

 それは、首の骨が折れた音だ。

 

 

 視界がブラック・アウトし、思考がホワイト・アウトしていく最中……鎌鼬は、最期の力を振り絞り、さっき拾った矛先をぶん投げる。

 

 

「!?」

 

 

 それは空鹿の脇を通り抜け、背後から迫っていた弓矢を叩き落とした。

 

 

 

 

 ────最期に、リーダーらしい事は出来たかね? ま、後は頼んだわ、死ぬなよ。

 

 

 それが、鎌鼬の生涯最期の思考であった。

 

 

 

 

 

「あのバカ……………っ」

 

 

 空鹿は奥歯を噛みつつ、伸熊を見る。

 

 

「あ、あぁ、か、か、か、かまい、たたたちぃ……。」

 

 

 険しい表情で、空鹿は鎌鼬の元に向かおうとする伸熊を制する。

 

「見りゃ解んだろ! 生きてる訳ねぇだろうが、魔王や霊狐じゃあるめぇし!

 逃げるぞ、ボサッとすんなこのダボがァッ!」

 

 

 暴言を吐きつつも、空鹿には伸熊を見捨てるという発想は無いようである。

 

 

 モタモタしていたせいで人形に囲まれてしまい、空鹿は舌打ちをしながら伸熊を掴む。

 

 

 すると二人の体が消え、二十メートル程離れた場所に二人が現れた。

 

 

「……クソッ、これかなり疲れんだよ……!

 ほら、行くぞ!」

 

「うっ……うぅ……!」

 

 

 こうして、空鹿と伸熊の二人は、なんとか逃げていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうする、ベアルの頭。追う?」

 

 黒髪のゴスロリ少女が巨漢に尋ねると、巨漢はそうじゃのぅ、と顎髭を撫でる。

 

 

「おうい、キーレース。どうするかのー?」

 

 

 その言葉に反応し、木の上から現れる一人の黒い外套を羽織る中年の男性。ボサボサの長い髪と細長い顔。そしてなにより目につくのはとても長い鼻であろう。

 

 

「ふむ……我々の目的はそこの少女の確保。必要は無いでしょう。」

 

 

 落ち着いた口調でそう言って、キーレースと呼ばれた痩身の男は倒れているアクルに近付く。

 

 

「外傷はなさそうだねー。」

 

 

 とことこと歩きながら、黒髪ゴスロリ少女は、わぁ、とアクルを見て可愛いらしく笑う。

 

 

「見て見てラビィ。可愛いよこの娘。僕好みだよ!」

 

「はいはい、リュエン……そういうのいいから、さっさとずらかるわよっ!」

 

 

 呆れた様に、黒い魔術師のローブを身に纏う、美しい銀髪つり目の白肌少女がぼやく。

 そして彼女が指を鳴らすと周囲の人形達が空間の中に消えて行った。

 

 

「……んー。リュエンより年下かしらっ?」

 

 

 人形に担がせたアクルの顔を覗きながら、銀髪の少女、ラビィはちょっぴり笑った。

 

「あー、ダメだよラビィ? その娘は僕が貰うからね?」

 

 

「いや、依頼の娘でしょっ。貴方のじゃあないわよっ!」

 

 

 妙な軽口を叩くゴスロリ少女、リュエンとそんな会話をしながら、ベアル一派は街へと向かうのであった……。

 

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