それからアクルは……とりあえず布団の上で、ぼーっと窓から空を見ていた。形を変える白い雲は、見ていて飽きない。
だが、魔王的には暇らしく、なんかしようずー、としきりに言っている。
「なんかと言われましても……」
一人部屋を見回すと、あるのは精々机と本棚くらいなものである。
本なんて読めないだろうと思ってパラパラとめくって見ると、読める文字で書かれておりアクルは驚く。
「言葉だって通じてるじゃまいか。つーか、ここに来るまでに看板とかもあったろ?」
そう言えばと呟き、アクルは首を傾げる。なんでだろう?
「異世界ってのは他にもあるみたいなんだが、言語は結構似たり寄ったりなんだぜ。」
だからアクルたんの世界をさ迷った訳だしな。
「眉唾もんの話しだけどさ……かつて世界は、ひとつの星だったみたいなんだ。」
「……?」
首を傾けるアクルに、魔王は笑う。
「宇宙って広いだろ? それさえ、ひとつの星だったんだってさ。我も詳しくは知らねーから、あんま聞かれても困るけどよ。
だから、言葉も似通ってんだとよー」
生き物の姿や、人間の心も。
とはいえ、解らない単語等も多く、アクルは魔王に聞きながら本をパラパラしていると、扉からノックの音が聞こえた。
「入るわよっ!」
確か、ラビィという女性の声である。ガチャリとドアを開けて、黒いローブを身に纏う銀髪銀目の女性がひょっこり顔を出した。
「やぁ、アクルちゃん。気分はどう?」
同じ様に、黒髪サイドテールの少女が姿を現す。黒いフリフリのドレス姿が、とても様になっていた。
「あ……えと、ラビィさんとリュエンさん。
その、えっと……」
少し困惑した調子のアクルに、ラビィが笑った。
「クッキー焼いたのよっ。良かったら、食べて欲しいわよっ!」
「毒とかは入ってないから大丈夫だよ?」
「余計な事は言わなくていいわよっ!」
なんというか……以前出会った一区人の少女、エリダヌスは、『だぞっ!』を多用していたのに対し、このラビィは、『わよっ!』をやたらと多用する。地域によって訛りも微妙に違うのだろうか。
見た目は華奢で可憐だが、喋るとなんだか残念な感じだ。
アクルは知らないが、一区人は中身が残念な変人が多いらしく、地雷だともっぱらの噂なんだとか。
「あ、ありがとうございます……。」
おずおずと袋に容れられたクッキーを受け取り、一つを口に運ぶ。サクサクで、舌の上で甘く溶けていく。とても美味しい。
「あ……美味しいです」
「ふふっ、お気に召されたみたいで良かったわよっ!」
気にいった為に、サクサクと食べ続けるアクルを見ながら、ラビィは満足そうに笑った。
そんなやりとりを見ながら、ラビィの横にいるリュエンがアクルの顔を覗き込む。
「え、えっと……?」
「うん! やっぱりアレだね。磨けば光るタイプだねアクルちゃんはさ」
納得した様に何度か頷く、リュエンとか言うフリフリの少女に対し、アクルは困惑の視線を送る。ラビィは、軽く溜め息だ。
「ちょっとリュエン、アクルちゃんが困っちゃってるわよっ? やめなさいよっ。なにより女の子に顔を近付けるなだわよっ!」
「いやぁ……アクルちゃんは、僕好みでねぇ。どう、今日は一緒にお風呂にでも入ろうよ!」
その言葉に、アクルはますます困惑をする。いくら女同士だからと言って、それは恥ずかしい。
「なんだコイツ……レズか? 百合レベルならまだ可愛気があるんだが……。」
どう違うかはさておき、魔王も若干困惑気味だ。ラビィはまた溜め息を吐き出した。
「だから、やめろってんのよヘンタイ。
アクルちゃん、ダメよ? こいつ、男だから気を付けるのよっ」
「…………え?」
「なん……だと……?」
アクルは目を見開いて、リュエンをマジマジと眺める。男? 今、男の人って言った?
「あー! ちょっと、バラさないでよー!」
「うるさいわよっ! このヘンタイ!」
ポカーンと、アクルは二人のやりとりを眺めるのであった。
「あ……の、えっと、その……」
しばらく思考停止して様子を見ていたアクルが、遠慮がちに口を開いた。
「男の人……なんですか?」
「うん、そうだよ。」
「えと……その格好て、女の子の格好ですよね……?」
「そりゃあそうだよ。」
「えぇ……。な、なんでその……女性の格好をしてるんですか?」
聞きにくそうにそう尋ねてみると、リュエンという名の可憐な少女……ではなく少年は、無駄に愛らしい笑顔でこう言った。
「可愛いだろ?」
「えっ。」
「ほら僕、可愛いでしょ? だから、可愛い格好しなくちゃ損じゃない。」
「は、はぁ…………」
得意満面の笑顔でくるくる回るゴスロリ少年リュエン。
今一理解出来ないアクルたんと、まぁ、趣味は人それぞれだがよと魔王。
「ごめんねっ、こいつはヘンタイなのよっ。アクルちゃん、注意して欲しいわよっ!」
ラビィが微妙な表情でそう告げる。
「ちなみに、僕は女の子大好きだよ~。でも、男は男で好きだよ!イケメンもおじさんもどんとこい!」
「成る程な……クッソ汚い方面も行けるってわけか……」
魔王はリュエンに対して脅威を感じていた。なんというか、アクルに関わらせたくない。
なんというか……こいつはアクルたんの教育上よろしくないと思うんだ。
「……………」
アクルは再び思考が停止してしまったらしく、なんとも言えない表情をしてしまっていた。
「あっはっは。ま、性別なんてどうでもいいじゃない。僕は可愛いんだからさー。そんなわけで、一緒にお風呂どうだい?」
「いや、よく無いわよっ! ダメに決まってるわよっ!その発想はおかしいわよっ!」
またもやラビィは頭に片手を当てて、はぁ……とタメ息。
それから申し訳なさそうな視線をアクルに送った。
「あの、その……なんかごめんなさいねっ?」
「………───あ、いえ、大丈夫ですよ。」
ハッと我にかえって、アクルはラビィにそう告げて笑う。
「やっぱり笑顔が一番だよねぇ、女の子は。ああ、そうだ。これから街にくりださない?」
リュエンに問われて、アクルは少し身構える。なんというか、この人とはどう接したらいいか解らない。それと、出来れば部屋から出たく無い。
「そう身構えないでよぉ~。可愛いなぁ、いじらしいなぁ。エッチしたいな~」
そんなアクルの様子を楽しむかの様なリュエンに対し、魔王は、ひぇっ、と呟く。
「やべぇよ……やべぇよ……!
なんなんだよこの肉食系男の娘は。五区にはヘンタイしかおらんのか!」
まぁ、昨日会ったヘンタイコンビよりかはマシな部類だとは思うが。