薄幸の堕天使   作:怒雲

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 とりあえずヘンタイであるリュエンに対し、アクルは若干の警戒心を見せていた。

 

対するリュエンは、ヘラヘラしている。

 

 

 

 

「まぁっ、リュエンは確かにヘンタイだけどっ……一応いい奴よっ!」

 

 そんな様子に、ラビィが苦笑混じりに一応フォローをいれると、リュエンはニッコリと微笑む。

 

 

「でも実際、だいぶ普通だと思うよ? 僕はね。

 五区じゃ、バイなんて普通だしね。穴があったらヤギとだってヤるよ。ラビィだって知ってるでしょ?」

 

 

「いや、それはまぁ……でもリュエンは、オープンすぎなのよっ!」

 

 

 何やら言い争う二人を横目に、こそっと魔王にアクルは尋ねた。

 

 

「バイってなんですか? ……ヤギ??」

 

 

「アクルたん……世の中にはね、知らなくていい事だってあるんよ。」

 

「……………???」

 

 

 魔王には微妙な返事をされてしまい、アクルはますます首を傾げる。

 

 

「女装だって、そこまで珍しいもんでも無いかな。娼館とかには沢山いるし。」

 

 

「うん、リュエンは少し黙るべきだわよっ! アクルちゃんは、五区じゃないとこから来たんだからっ。多分。」

 

 

 ふぅんとリュエンはアクルを見る。見た目は五区人っぽいけどねぇ。なら七区人かな。

 

 

「……街って、危ないんですよね?」

 

 伏し目がちにアクルが問い掛けると、リュエンはそんな事無いよと笑って見せる。

 

 

「なんてったって、この街は五区でも屈指の治安の良さを誇るからね!」

 

 

 自慢気にリュエンが言って、まぁ、とラビィが付け加える。

 

「アクルちゃんみたいな娘が一人で彷徨いてたらっ、流石に危ないと思うけどねっ。」

 

 

 やっぱり危ないんじゃあないかとアクルは思う。治安が良い部類に入るらしい、港町でさえ買い物をしようとしたら腕を斬られたのだ。

 

 

「大丈夫だって、僕とラビィも一緒にいるし。」

 

「この肉食系男の娘と二人きりになるのは絶対やべぇが、ラビィってのも来るなら大丈夫っぽいな。」

 

 

 魔王が、少しホッとした様子でそう言って、アクルとしてもリュエンは苦手なのでそれは良いかなと思った。

 

 

「ほらほら、引きこもりになっちゃうぞー? ああ、そうだ! せっかくだからさ、おめかししよーよ!

 僕の服と、下着も貸すからさ!」

 

 

 下着は嫌だとアクルは思った。服は解るが、何故に下着という発想がナチュラルに出て来たのだろうかこの男は。

 

 

「別にそのままでいいと思うわよっ!」

 

 ラビィは呆れた調子でそう言いながら、椅子にかけておいたアクルの黒い外套を手渡す。

 

 

「あっ、まずはお風呂の方がいいかしらっ? 昨日、運んでそのまま寝かせちゃったんだったわよっ!」

 

 

「ん……あ、帰って来てからでもいいです。」

 

「そう? じゃあ、出発するわよっ!」

 

 

 張り切るラビィとリュエンをよそに、あまり乗り気では無いアクルも外套を羽織る。

 

 

 扉を開けると狭い通路にはいくつかの部屋。

 

「こっちは私のお部屋よっ!」

 

「そっちは僕の部屋だよー。今度遊びにおいでよ、二人きりで遊ぼうよー。」

 

「リュエンとは二人きりになっちゃダメなのよっ! 絶対良からぬ事をしでかすに決まってるわよっ!」

 

「酷いなぁー! 僕は紳士だから、基本的に合意の上じゃないとヤらないよ! 優しく気持ち良くしてあげるしね。」

 

「紳士は紳士でも、ヘンタイという名の紳士に決まってるわよっ! 本物の紳士に土下座しなさいっ。」

 

 

 二人のやりとりに着いていけずに、アクルは一人、あわあわするのであった。

 

 

「ダメだ、アクルたんじゃ着いていけねぇ。陰キャにはハードルの高いやりとり……!」

 

 

 魔王が呟く。ついでに、内容もアクル的にはハードルが高い話しだろう。

 

 

「ああ、僕はキーレースに遊び行くって伝えて来るからさ。二人は先に外に出ててよ。」

 

 

 そう言って歩いて行くリュエンの後ろ姿に、ラビィがアッカンベーをしていた。

 

 

「行きましょっ。」

 

 

 そう言って歩きだすラビィに続いて、アクルも歩きだす。

 

 

 玄関に近付くにつれて、ラビィは何やら指を動かしながら、ぶつぶつと呟きだす。

 

「……?」

 

 

 なんだろうかと不思議に思っていると、キリキリキリキリと、軋む様な嫌な音が響いた。

 

「ひっ。な、なんですか……?」

 

 

 アクルがラビィに問い掛けると、ラビィの近くで空間にひとつ分の波紋が広がった。

 

 

 そして……まるで水の中から現れる様に、大きな人形が姿を現せた。

 

 

「あ、あれって……。」

 

 

 なんとなくだが見覚えのある光景であり、アクルは記憶の糸を手繰り寄せる。確か……。

 

 

「召喚術……?」

 

「おお、覚えとったかい。」

 

 いい記憶力だと魔王が笑う。以前……八区の街道にて、魔族である闘鶏(バイオレンス・チキンヘッド)を相手に、プリキュオンお嬢様が見せたものだ。

 

 

 ……今、何をしてるのかな?

 

 

「ふふ……驚いちゃったかしらっ?」

 

 

 ラビィがアクルに振り返り、微笑み尋ねた。

 

 ……心なしか、どこか寂し気に見えた気がした。

 

 

「あ……えと、その……召喚術、ですよね。あんまり見た事が無くて……。」

 

 

「んっ。そうっ? まぁ、そうかもしれないわねっ。」

 

 

 少し笑いながら、ラビィは大きなマネキンの様な人形を撫でる。

 

 

 仮面の様な顔と、長い髪があるウサギ耳の人形。

 

 

「名前はアルルカンとかなんか、そんなだなきっと。」

 

 

 魔王が言うが、ラビィによると、『機械仕掛けの騎士(ナイト)』と言うらしい。

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