アクルはリュエン達の後ろから現場に向かっていた。
ひとつの店が、何やら賊達に襲われている。……らしい。
「まったく……よりにもよって、面倒臭いなぁ。」
「愚痴っても仕方ないわよっ!」
ラビィがリュエンに言って、そりゃそうだけどねぇ、と呟く。
賊……アクルは呟く。この前に見た、海賊達の姿を思い出した。
そんなこんなで、現場にはすぐに着いた。
見るからに盗賊みたいな方々が、お金やら品物を強奪しているところである。
「やれやれ、やってるねぇ……。」
さてどうしようかなとリュエンは考える。
見過ごすわけにはいかない。信用がなくなる。
ただ……数が多いな。アクルちゃんが心配だ。
「あわわ……あ、あのっ、そのえっと……衛兵とかいないんですか?」
おずおずアクルが尋ねると、いる事にはいるわよっ、とラビィは指差す。
「何をしている貴様ら!」
そこに、丁度よく武装した兵士らが数人現れて、賊達を凄い剣幕で一喝した。
空気が震える程の怒声。ラフな格好の賊共と違い、鎧を着込んだその姿は非常に頼もしい。
「まぁまぁ衛兵さん、ただの悪ふざけですよこれは。ああ、迷惑料にこれを納めて下せぇよ。」
すると賊達の一人が、何やら強奪した金品や酒類を衛兵らのリーダーだと思われる男にヘラヘラと笑いながら手渡す。
すると兵達の長だと思われる人物は、ふむ。と一言ソレらを物色して。
「…………ふむ。なんだ悪ふざけか。ならば良いだろう。まぁでも、あんまりやりすぎんじゃあ無いぞお前達。」
「へへっ、解ってやすぜ。」
「総員、撤収!」
そう言って、ガシャガシャと鎧の音を街中に響かせて……頼もしき衛兵達はぞろぞろと去って行ってしまった。
「え、えぇ…………」
「……凄いでしょっ?」
苦笑混じりにラビィが言って、肩を竦める。
「ここの衛兵達は、賄賂を受けとるだけの簡単なお仕事だからねぇ。」
リュエンが笑いながらそう言って、刀を抜く。
「あいつらクズにも程があんだろ……。」
酷いところだなと魔王は思う。そりゃ自警団も作られるわ。
「とりあえず、僕が斬り込むよ。ラビィはアクルちゃんの護衛に専念ね?
仮に僕が死んだり殺されそうになっても。」
「了解したわよっ。」
あっさりとした会話だった。本当にあっさりと、生死の話しをした。
リュエンは、そのままテクテクと賊達に向け歩く。ラビィはアクルの手を引いて、少し下がる。
「おう? お嬢ちゃん、何か用かい?」
ニヤリと無精髭の男が笑いながら、リュエンと、離れた所にいる二人を見て……そして、アクルを見て顔色を変えた。
「あー! て、てめぇ!」
「ひっ……!?えっ?えっ??」
いきなり声を荒げた男に対し、アクルはビクリと肩を揺らし……困惑しながら両手を胸に当てて数歩後退る。
そんなアクルを、かばうようにラビィは前に立った。
「船ではよくもやりやがったなァ!」
それを聞いて、アクルは思い出した。船長だ。あの時の、海賊船長だ。
リュエンが振り返り、知り合いなの?と尋ねて、思い出したアクルはコクコクと頷く。
「名前は確かプーパイス……」
「い、イミテーション・フック船長さんです……」
あわわと戦慄しながらアクルが呟き、魔王が少し困惑した後、爆笑した。
今はプーパイスは、フックも無いし眼帯も無い。
「い、イミテーション・フック船長……?」
ラビィが困惑と笑いを浮かべながら、呟く。
リュエンもキョトンとした後、笑った。
ゲラゲラと頭の中で魔王も爆笑だ。
「プーパイスだ!変なアダ名を着けるんじゃあねぇ!」
軽く地団駄を踏んで……ふーっ、とプーパイスは息を吐き、そしてその顔に笑みを浮かべる。
「ククク、リターンマッチだクソ餓鬼! そんなとこにいねぇでかかって来いやコラッ!」
「ちょっとちょっと……怯える子供にがなりたてるなよ、みっともない。」
リュエンは、すわった眼をしながらも小馬鹿にしたような表情でそう言って、笑う。
まぁ、彼の方がアクルより年下なのだが。
当然、その言葉にプーパイスは頬をヒクヒクさせていた。
「るせぇぞお嬢ちゃん……おいてめぇら、そいつを黙らせなァ!」
「へいへい。」
「しゃーねぇなぁ」
プーパイスに言われて、若干やる気なさげに数人の賊達が、リュエンに向かって歩き出す。
そんな様子を眺めながら、ラビィが指を鳴らした。周囲に波紋が広がり、十体くらいの球体間接人形が現れる。
どれも、人形騎士よりかいくらかは小柄である。それでも大人くらいの大きさだが。
「……苦手なシチュエーションねぇっ……」
ボソッとラビィが呟く。彼女としては、身を晒している状態はあまり良くない。
だがまぁ、アクルもいるし、見晴らしの良い場所にいる方がやりやすいと言えばやりやすい。
「あ……!」
あたしだって戦えますと言おうとした刹那、リュエンが動いた。
流れる水の様な。吹き抜ける風の様な。そんな動きで……襲いかかって来た数人を、手に持つ刀の餌食にした。
「…………」
速い………。ゴクリと息を呑み……アクルは斬られた男達に視線を向ける。死んだ……?
「う……ぐ……。」
「ぐ、ぐえぇ……。」
「い、いてぇ……。」
「お……! お……!」
うめき声を発している辺り、どうやら生きているらしく……アクルは少しホッとした。
「殺すまでも無いや。弱いねぇ~。」
そう言って、リュエンはケラケラ笑う。あからさまな挑発と、同時に威嚇行為だ。
戦闘において、相手を殺さずに勝つのは難しいものである。それこそ、よほどの実力が無い限り。
リュエンは今、襲って来た連中を、全員殺さずに無力化した訳である。賊達の顔色が変わった。
「おいおい……なぁにやってんだよ?」
荒らしている店の中から、一人の男が顔を出した。リュエンは思う、ああ、リーダーはこいつだな、と。
「……おお? へへ、やるなお嬢ちゃん。」
「それはどうも。」
リュエンはにんまりと微笑む。どうやら、彼が男だと気付いている者はいないようだ。
アクルは、奥から現れた親玉らしき男を見た。短い茶髪の髪と無精髭。
人相の悪い中年な顔立ちと、酒でも飲んでるのだろうか? 真っ赤なお鼻である。
服装は他の者達同様に、賊らしい簡素なものだが、他よりもなんというか、強そうな雰囲気を身に纏っている。
「おい、新入り。お前、行けよ。」
「あ? なんでだよ、他に行かせろよ。」
「これ以上駒を減らすのは勘弁だろ? ま、恐いってんなら俺様が行ってやるけどな?」
それを聞いて、チッ、と舌打ち混じりにプーパイスはカットラスという、片刃の剣を片手に前に出た。
一瞬こっちを睨み付け、アクルはビクッと肩を震わせる。
「ふむ……どうしたかは知らんが、五区に着いてから上手く脱走したらしいな。
んで、海賊はもう壊滅したから今はあの盗賊オッサンのパシりに成り下がったって訳だ。」
状況を考察する魔王に、成る程とアクルは思う。
それはそれとして、リュエンさんは大丈夫だろうかとアクルは思う。プーパイスは、アクル的には強かったと思う。
あの今は亡き、ヘンタイ二人組より一対一なら強いのではないだろうか。