「お嬢ちゃん、怪我しねぇうちに下がった方が身のためだ………!」
プーパイスが言い終わる前にリュエンは地面を蹴って間合いを詰めた。そして、刀を横薙ぎに振る。
ギリギリの所で一歩下がり、プーパイスはリュエンの間合いの外に逃れる。
逃れたプーパイスに対して、リュエンはすぐ刀を返し、力強く一歩踏み込み再び横薙ぎの一閃。
「チィッ!」
プーパイスも避けてばかりではない。リュエンの隙を探り、カットラスを振って反撃の一撃を繰り出す。
互いに一進一退の攻防を繰り広げ、アクルはそれを目に焼き付ける様に眺めていた。
そこでハッとする。周りの盗賊達が、プーパイスに加勢しようとしていたからだ。
「あ、あたしも戦えますっ!」
アクルの右手が輝きを放ち、その手には鍔の無い銀色の大剣、クラウ・ソラスが握られた。
それを見て、ラビィはちょっと驚いた様に目を見開いた直後、右手を伸ばし駆け出そうとしたアクルを制する。
「わっ……ら、ラビィさん……?」
「アクルちゃんが戦えるってんなら、私の護衛を頼むわよっ!」
まぁ、こっちには近付けさせないけどねと思いつつ、ラビィは人形達を前進させた。
こういう風に言わないと、前に出そうだしねっ。護衛対象に戦わせるわけにはいかないわよっ!
人形達は素早く動き、賊達を即座に行動不能においやって行く。
「おお、つえー。」
その様子に、魔王も大変ご満悦であったそうな。
「……───ッ! おいおい……!」
最初は互角だったように見えた。しかし、リュエンの速さを前にプーパイスは次第に押されて行く。
「……───シッ!」
リュエンが刀を軽く握り直し、逆袈裟斬りに振る。
「なにぃ!?」
ガキィンというか、パキィンというか……煩く響く音が周囲に鳴り響く。
空中を、何かがクルクルと回っていた。なんだろうと思って見てみると、それは剣だ。折れたのだ、プーパイスのカットラスが。
「いや、折れたっつーより、斬られたんだな。いい太刀筋だぜあの変態糞餓鬼。刀も、結構な刀だなありゃあ。」
魔王がそう言って、ブラボーベラボーと喝采の言葉を贈る(聞こえないけど)中、ラビィはうんうん、と頷いていた。
賊はそんなに強くなさそうで、良かったと言ったところか。
……と、思った矢先にリュエンの小さな体が宙に舞った。
「ごふっ……!」
地面を転がり、リュエンは直ぐに刀を片手に四つん這いの姿勢で起き上がる。なんとなく、猫のようである。
「たく、プーパイス。お前、案外だらしねぇな?」
「ぐっ……!」
まぁいいさ、と盗賊の親分がニヤリと笑う。
「へへへ、面白くなって来たぜ。テメーは、このカリブディー様が相手をしてやらぁ。」
そう言って、リーダーのカリブディーと名乗るオッサンは、ポキポキと手を鳴らす。
対するリュエンは、軽くスカートの埃を払いながら、笑う。
「ちゃっかり自己紹介どうも。」
そんな軽口を叩きながら、その身体を観る。
ヒューーーッ!見なよ奴の筋肉を……まるでハガネみたいだ!こいつは一発ヤりたいね……。
……などと下らない事を考えつつも、注意深く観察して───これ、勝てないっぽいなとリュエンは思う。
「オラ、行くぜ!」
カリブディーが物凄い速度でリュエンに対し駆け出して、アクルは驚く。丸腰だ。
素手で、彼は刀持ってる相手に臆する事なく突っ込んで行ったのだ。
「…………ッ!」
リュエンが刀を振ると、なんとカリブディーはそれを素手で払い除けた為に、アクルは更に驚く。剣すらも断ち切る様な刀を、素手で払うなんて。
「んー……ありゃあ、上手く刀の腹を狙ってんね。刃の所じゃなくて、面の方。名刀であろうが、そこは刃がないから斬れないしな。いやぁ、上手いぜあのオッサン。」
顔面に掌をくらい、リュエンは鼻血を出しながらのけ大きく仰け反った。
「……………。」
突っ込んで来るカリブディーの攻撃を避けながら、強いなぁ、とリュエンは思う。やっぱり、僕じゃ無理だけど……もう、問題ないね。
「わっはっはっはっは!」
心配そうに眺めていたアクル。……そこに聞こえる豪快な笑い声。リュエン的には聞き覚えのある笑い声が聞こえ、彼の口元に笑みが浮かんだ。
「頭(かしら)、待ってたよ!」
そう言うや否や、背を向けてリュエンはアクル達の方に駆け出した。
アクルが振り返ると、そこには力士の様な黒チョンマゲの巨漢、ベアル。
その隣には、鼻長の男性、キーレースの姿もあった。
「あっ、ベアルの頭っ! 遅いわよっ!」
「わっはっは! じゃがいいタイミングのようじゃのう!」
そう言って、ズシーンズシーン!と歩いて行く。なんともまぁ、頼りになる姿だ。
「……へぇ? あんたがベアルか。」
カリブディーが興味深そうに、顎の無精髭を撫でた。
「へへへ……こりゃ、熱い闘いになりそうだぜ……!」
何やら闘志を燃やすその姿に、うむ、とベアルは腕を組む。
見たところ、相手は丸腰だ。
「わっはっは! ならば儂も丸腰じゃーい!」
そう言って、彼はクレッセント・アックスと呼ばれる柄の長い大斧を地面に置いてしまうのであった。