薄幸の堕天使   作:怒雲

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 程なくして、アルケス老人はロールパンと、温かなコーンスープを持って来てくれた。

 

 アクルは感謝の言葉を述べて、おずおずと手を伸ばす。

 

ふんわりとした、バターの匂いがする食感。温かなスープ。

 

想像通りの味で、美味しくて。じんわりと心に染みていく。

 

 

 

 

 

 

 それからアルケス老人は微笑みを浮かべて、退出していった。

 

 

「お、そうだそうだ。今のうち、状況を整理しとこうず!」

 

不意に、頭の声が相変わらず変な口調で声をあげる。

 

「ここが何処か知りたいだるるォ!?」

 

 

なんでこの人はこんなにハイテンションなんだろうかと疑問を持ちつつも、アクルは相槌を打つ。実際、ちゃんと話は聞きたいし。

 

 まずはこの町の事。『八区』と呼ばれる地域の田舎町のひとつらしい。

 

 八区は、基本的によく雨が降るらしい事とか、じめじめする事が多いこの区では、なにやら薬になる多様なキノコが採れるとか、医学が最先端だとか。

 

 ちなみに、このアルケスさんもお医者様らしい。

 

 

 

「ああ、アクルたんの服はズダボロだったから捨てられとったよ」

 

 話しの途中で、自分の服が制服から寝間着っぽいのになっていたので聞いて見ると、泥だらけ穴だらけだったので捨てられてしまったらしい。

 

 

ちなみに、着替えは女の人がやってくれたらしい。あんなにボロボロなのに、傷一つないので不思議がっていたそうな。

 

「………そう、ですか」

 

 あの制服は、中学入学に買ってもらって以来、ずっと身に付けていたのでなんやかんやで愛着があっただけに、結構残念だ。

 

………お母さんが買ってくれたものだったんだけど、仕方無い。

 

 

 

 

 

 とりあえず、なんにせよ。話を聞く限り、人々が暮らしているらしい区は全部で十二あるらしい。区なんて言いつつ、一区一区は別の国のようになっているようである。

 

そして、その人間の領土の外に…………。

 

 

 

「……魔族、ですか」

 

「おうよ!ここは剣と魔法の世界だからねっ!……アンタの年頃なら、そういうの好きなんじゃね?」

 

そんな頭の声に、うーんと微妙な返事のアクル。

 

「……嫌いじゃあ、ないんですけど……歴史モノとかの方が好き、ですかね……」

 

「あら意外。歴史物かー、渋いじゃん。どうせならそういう世界とか行きたかった?」

 

「いえ、別に……。三国時代に行っても、言葉が分からないですし、すぐ死んじゃうと思いますし……」

 

「………夢がないなぁ。っていうか、確かそれってアンタから見たら外国ってやつじゃね?日本ってとこだろ、アンタの国。そっちの歴史とかはどうなん?」

 

「えっと───」

 

 

答えようとしたところで、足音が聞こえてアクルは口を閉ざす。

 

アルケスと名乗った、あの人が戻って来たらしい。

 

 

 

「失礼」

 

ノックと共に扉が開き、アルケスさんは再び姿を現せた。

 

「意識は、ハッキリしてきましたかな?」

 

 

「……あ、え、えと……」

 

 表情を曇らせてアクルはうつ向く。意識はハッキリとしている。

 

けれど、なんというか……今の自分がなんであそかにいたとか説明出来る気がしないし、記憶喪失です!を貫ける自信もない。

 

頭の声は、かなり短い付き合いだが既にだいぶいい加減な性格というのが分かってきているので、今一あてに出来ない。なので、出来るだけ質問とかしないで欲しい。

 

 

「気晴らしに、町でも歩いてみてはどうですかな?」

 

 そんなアクルの様子からなにか察してか……そう言って、小さな布袋を取り出しアクルに手渡す。

 

「少ないですがな……まぁ、あまり観れるものもないがしれませんが」

 

「ヒャッハー! 金だァー!」

 

 

袋の中には、お金……硬貨らしきものがじゃらりと入っていた。

 

 

 

 アクルがそれを見るより先に、重さと音で察した頭の声が叫ぶ。めっちゃ嬉しそうである。

 

対称的に、アクルは困惑の方が強かった。

 

 

「あっ、えっ……えっ?あ、いや、で、でもその……」

 

「まぁ、世話を焼きたいものでしてな」

 

 

 では、と一言。半ばお金を押し付けるようにしてアルケスは部屋を出て行ってしまい……アクルは、どうしていいか解らないといった感じでオロオロする。

 

 

「パンとコーンスープだけじゃあたりねーぜアンタァ! 美味いもん食おうぜ旨いもん喰おうぜ! やったぜ!」

 

 

 頭の声は喜び過ぎであった。 仕方無しに、アクルはもぞもぞとベッドから起き上がって、窓から見える空を見上げるのだった。

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