十二聖護士、エリス・メサルティムは少し不機嫌であった。
見た目は、真っ白な幼い少女。白い髪と肌。薄く青い瞳を持つ、人形のように整った顔を持つ少女。
十にも満たぬ少女の様な外見と身長。……しかし、とっくに大人。実年齢は二十五となる。
その日エリスは日課である本の整理をしていた。
ここは一区の大図書館。貴族でる彼女の───メサルティム家の管理する場所である。
ありとあらゆる本が、そこにはある。
普遍的な物や、歴史的に価値のあるもの。……禁書とされるものまで、様々だ。
整理を終えたエリスは、名簿を眺めて軽く眉をひそめた。
いくつもある貸し出し可能の本……それを返していない者の名簿。
現状、一人だけ。……その名はメリーである。
「エリス聖護士」
従者の一人であるアウリガという女性に呼ばれ、そこに行くと同じく従者のイグル。
彼によると、そのメリーがやって来たそうである。アポなしだ。オイオイオイオイ、流石だわアイツ。
そうして、とりあえず仕事を放り出すはめになったエリスはメリーの元へと。
コイツはアポなし訪問をよくするが、その際の用事が重要な事とどうでもいい事の割合が半々なのが厄介である。
わざと待たせてやっても良かったが……重要事だと流石にまずい。
ふーっ、と息を吐き。心を鎮めて……エリスは扉を開き、自分と同じ顔をした彼に会う。
「魔王に会ったよ。」
そして飛び出して来たのは超が着く程に重要な案件であった。
「…………───っ。そう、魔王に。」
エリスは赤ワインを口に運びながら、眉を寄せる。
なら、いよいよ動き出す頃合いか。
「……で、魔王様は今は何処に?」
「故あって、五区にね。まぁ、あそこには私の知り合いも結構いるからね。上手くいけば、私達の仲間を増やせるかもだよ。」
それを聞いて、成る程と呟きつつも、エリスはじろりとメリーを眺めた。
「………っていうか、アンタがここに連れてくれば良かったじゃないっ。」
「そうしたかったし、それが一番だったんだけどねぇ……貘予のばあ様の監視もあるし、そう易々とは会えないよ。まだバレる訳にはいかないしね。仕方ないだろう?」
そう言って、メリーは帽子を外す。
そこには、角があった。羊の角。
人間には、決してないモノ。
「ちょっと非羊(ひつじ)、帽子外さないでよっ。」
「いいじゃあないか。ここなら、大丈夫だろう?
第一、エリスだって私の本名で呼んでるしね。」
そう言って……魔星十二支の一人、非羊は笑ってのけるのだった。
「……まぁ、いいけど。ああ、それと、アンタ。借りてた本を返しなさいよっ」
「あれ?返してなかったっけ?」
「戻ってきてないわよっ、今日確認済み。アンタだけよっ?」
「そうだったかな……いやぁ、面目ないや。あ、おつまみある?」
「面の皮の厚い野郎だわコイツ……」
タメ息混じりにエリスは従者のイグルを呼ぶ。
彼に適当になんか持って来てと言いつつ、再びメリーを見た。
「………それで、いつ動く?」
「んー。まだ先かな……少なくとも、走馬(そうま)にもこの話をしたいしね。しばらく、魔王には──アクルには、直接会わないほうがいいだろうなぁ」
ワインのグラスを揺らし、その中で出来る小さな波を見つめながら、非羊は呟くのだった。ところでおつまみはまだかい?