朝起きて……アクルは早速、鼻歌まじりに朝食を作っていた。
「…………」
まぁ、簡単なフレンチトーストだけだが。みんな、あまり朝食を食べないのでこのくらいでいいのだ。
「しかし、アンタって料理上手いよな。」
魔王に言われて、アクルは少しはにかむ。母親に誉められたくて、練習したのだ。
結局……褒めてはくれなかったが、ある日から食事を任される様になった。
単に、作るのが面倒臭かっただけかもしれないが、それでも嬉しかった。
そして、その特技がこうして役に立っているというのもまた嬉しいものなのだ。
誰かに認められるというのは、嬉しいものだ。そうやって、自分の存在を確立していく。
なんとなく、自分という人間は影みたいだなと思う。光りに照らされなくては、自分の形すら満足に創れない。
「やぁ、アクルちゃんおはよう。今日も可愛いね!」
背後から突然声をかけられて、アクルは背筋をビクリとさせる。黒いみつあみも一緒にビクリとはねた。
振り返って見れば、ゴシックロリータな衣裳が似合う黒髪サイドテールの少女……否、少年の姿。
「………あ、リュエン、さん……」
そして、両手を胸に持っていきながら、数歩下がる。
「……えと、な、なんですか?」
アクルはリュエンがとても苦手である。
決して、嫌いな訳では無い。セクハラ発言さえなければ、普通にいい人だとアクルは思うのだが。
対するリュエンは、ふふ、と笑いながら前髪を軽くかきあげて。
「今日のパンツは何色?」
そして早速これである。彼は、何かしらのセクハラをしないと息が出来ないのだろうか?
アクルは、肘を曲げて手をたたむ。そして指先をピンッ、と伸ばしてリュエンの方に向けた。
「しゃ、しゃーっ。」
警戒心をむき出しにしているのか笑いを誘っているのか、判断に困る構えをとる魔王少女、樋山アクル。
彼女としては、嫌だという意思表示をしているらしいが……。
「いつも思うが、ソレなんなん……?」
魔王が笑いながらアクルに尋ねると。
「蟷螂拳(とうろうけん)です。」
「えっ。蟷螂拳?」
「はい。蟷螂拳です。」
ぜってー違うだろと魔王は思う。カマキリの威嚇のポーズを真似ているらしいが、なんというか、シュールなだけである。
っていうか、なんで蟷螂拳???アクルたんの思考回路は謎だぜ……。
「……んじゃあ、しゃーっ。ってのは?」
「蛇さんの威嚇ボイスです。(実際にどう鳴くかは知らないけど。)」
……アクル的には大真面目らしいが、リュエンは腹を抱えながら去って行ってしまった。
まぁ、威嚇行為というものは、外敵等を追い払う為にやる行為なので、成功と言えば成功しているのかもしれない。
リュエンが去って、アクルはホッと一息をつき、作りたてのフレンチトーストを口に入れ頬張る。
程よい甘さが口の中に広がり、小さく頷いた。理想通りの味である。
「いい匂いがするわよっ!」
キッチンにひょっこりと顔を出す少女。
長いボサボサした銀髪と銀目の黒いローブに身を包んだ少女、ラビィ。
彼女の姿にアクルは微笑みを浮かべた。
リュエンと違って、この人は話しやすいのだ。
「あ……えと、おはようございます、ラビィさん。」
「おはようなのよっ!」
元気にラビィは挨拶をして、皿に盛り付けられたフレンチトーストを銀色の瞳に映した。
「わぁいっ、今日の朝ごはんはとても美味しそうだわよっ!」
大喜びするラビィを見て、アクルはますます顔を綻ばせる。こうも喜んでくれるのなら、作りがいもあるというものである。
ぴょんぴょんとウサギの様に跳ねながら居間に向かうラビィの後ろを、アクルは皿を両手に持って着いて行った。