そんなこんなで、午前七時頃。それぞれがテーブルを囲んでの朝食である。
「わぁ、今日も美味しいね。」
フレンチトーストを頬張り御満悦なリュエンを見ながら、アクルも微笑みを返しつつ、少しキョロキョロとする。
「あの、えと……ベアルさんと、キーレースさんは?」
二人の姿が無く、アクルはなんとなしに尋ねた。まぁ、なんとなく想像はつくのだが。
「二人ともお仕事で見回りだよー。」
いない場合は、買い出しか、仕事のどちらかである。この街の衛兵は、賄賂を受け取るか、サボって酒場で酒を飲んでるか、女に絡んでるかのいずれかなので仕方ない。男に絡んでるホモいのもいるけれど。
「……あの、その。」
時計の針が時を刻む音を聞きながら、アクルは二人を上目遣い気味に眺めつつ、控えめな声色でおずおずと尋ねる。
「それで……えと、あたしは……いつまでここにいていいのでしょうか……?」
本当は、あまり聞きたくないし知りたくない。
思っていた以上に、アクルは現状を気に入っていた。
ベアルは大きくてちょっと怖いと思ったが、いい人だしキーレースは紳士的だ。まぁ、この二人とはそんなに話さないのだけれど。
リュエンは正直苦手だけど嫌いではないし、ラビィはとても話し相手になってくれる。
なんというか……居心地が良いのだ、ここは。
こんなにも邪険にされずに過ごせるなんて、思ってもいなかった。
リュエンとラビィの二人は、少し顔を見合わせて。
それから、笑った。
「いたいなら、何時までもいて欲しいけどね、僕としては。
アクルちゃん、可愛いし。」
「美味しい料理も作ってくれるしねっ!」
そう言ってくれて、アクルは少し胸を撫で下ろした。
そう言ってもらえて、本当に嬉しいのだ。
「まぁ、でも……スネルフさんが来たら、少しだけ状況が変わるかもねぇ。」
「スネルフ……?」
聞いた事が無い名前にアクルが小首を傾げると、リュエンはニッコリと微笑みを浮かべながら説明をする。
「うん、スネルフ。『鬼遣いスネルフ』と言えば、この五区じゃ有名人さ。凄く強いんだよ。
十二聖護士にさえ匹敵すると言われてるくらいだ。」
「えっ!?」
「ほーん。」
十二聖護士に匹敵するという単語にアクルは驚愕す。
その一方で、魔王の反応は、なんというか興味無さそうだ。
聖護士に匹敵するという触れ込みはわりと聞くが、実際に匹敵するという事はあまり無い。
強い事には強いのだろうが、流石に、本当に十二聖護士に匹敵するという事は無いだろうなというのが魔王の考えである。
魔族でも、そういった話はちらほらあったし。
「……おにつかい、スネルフ……。」
アクルは復唱する。鬼遣い。なんだかよく解らないが強そうだ。そして怖そうだ。
「そのスネルフって人も、アクルちゃんの護衛だよー。
んで、僕らの役目はひとまず終りかな。」
「え……?」
目を丸くしてリュエンを見ると、彼はニコリと笑って、机の上に頬杖をつく。
「そこからは、とりあえずアクルちゃん次第かな?
予定が無いなら、一区に来て欲しいみたいなんだよね。まぁ、無理強いはしないって言ってたけどさ。
あー、でもどうだろ。あっちも、状況次第とか言ってたしねー。」
はぁ、と一言アクルはうつ向く。両手を膝の上に置いて、握り拳を作った。
一区……メリーさんのいる場所。なんでそこに来て欲しいのだろうか?
解らない。どうしたらいいのだろう?正解はどれだ?
……出来るならば、アクルはもうずっとここにいたかった。
「まぁ、行ってみてもいいんじゃない?」
リュエンは変わらず笑いながら、そう言った。
「嫌だったらっ、ここに戻ってくればいいわよっ!
帰ってきてもいいわよっ!」
ラビィは、そう言った。そう言ってくれた。
「あたし…………」
「………あたし」
「………あたし、ここに、戻って来ても、いいの?」
「………帰って来て、いいの?」
うつむいたまま、呟く。目が、なんだか熱くて。
声が、上手く出ない。
ふと、その華奢な身体を温もりが包んだ。
「大丈夫だわよーっ。これも、縁だと思うからっ。」
温かな、人の温もり。抱き締められているらしい。
されるがままに───ありがとうと一言、アクルは少しだけ目を閉じるのだった。