黄昏が迫る頃。アクルは、ラビィと共に帰路に着いていた。
リュエンはまだ別行動であり、アクル的にはホッとしている。
話によると、自警団はベアル達だけかと思っていたが、どうやら他にもいるらしい。
いわば、ベアルがリーダーで三人が幹部といった所か。
「さてっ、帰ったらご飯わよーっ。」
ラビィは呑気に伸びをしながら歩き、その脇をアクルはてくてくと歩く。今日の風は、気持ちが良い。
霞んだ空の下……河原の方を歩いていると、人だかりが見えた。
なにかと思えば、ガラの悪い男達が集まって何かしていた。
「ら、ラビィさん、あれって……」
なにと尋ねる前に、ああ、とラビィは呟く。
「うちの奴等ねっ。……大丈夫、顔程に悪い奴等じゃあないわよっ!せっかくだから、挨拶してくるわよっ!」
ラビィの笑顔を見て、それならとアクルはホッとする。
……それはそれとして怖いので、アクルはラビィの後ろから様子をうかがいながら歩いた。
「あれ?ラビィじゃあないか」
「おう?よう!」
そこには黒いゴスロリ少年、リュエンと複数の男達。
その中の一人は、アクルも見覚えがあった。
茶髪の短い髪に人相の悪い顔。簡素な衣服からのぞく鋼の様な筋肉。
すでに酔っ払っているのか、鼻を赤くしたこの男はこの前に騒動を起こした賊のリーダー、カリブディーである。
一応、なんか負けたから素直に言う事を聞くぜとか言ったらしく、そのままノリと勢いで仲間になった。……らしい。
いいのだろうかとアクルは思う。ちなみに、カリブディーの仲間達も何人かはそのまま自警団に入ったそうだ。
もっとも何人かは……リュエンらの話によると、『もう悪さ出来ないようにして森の奥に放り出して来た』との事。
どういう事かは聞きたくもなければ知りたいわけでもなかったし、リュエンもそれ以上の事は言わなかった。だから、アクルは気にしない事にする。
「ラビィと……そっちのチビッ子は、なんかプーパイスの奴に因縁つけられてたんだっけか?」
プーパイスという名に、アクルはピクリと肩を揺らした。正直、思い出したくない人物だ。
逃げたらしいので、少し心配である。もう会う事がなければいいけれど……。
「話によると、お前プーパイスの野郎に勝ったんだって?あの野郎、なんかごねいてやがったがよ」
「あ、えと……ま、まぁ、勝ったといえば……?でもその、メリーさんいましたし……」
少なくとも、実力で勝ったわけではない。
「ふぅん?ま、でも勝ったには勝ったんだろ?やるじゃあねぇか、ははははは!」
そう言ってカリブディーは豪快に笑って、アクルの肩をバシバシ叩く。
ちょっと痛いが、不思議と悪い気はしない。ラビィは、やめなさいよ酔っ払い!と怒ってくれているが。
「つーかほっそいしちっこいなオイ。肉食え肉。今、焼いてんだ」
どうやら、集まってなにしてたのかというと、バーベキューをしていたらしい。
魔王は、おお!肉だ!と喜んでいた。
「そっちの嬢ちゃん……ラビィだっけ?オメーも食ってけよ!この街近くまで獣が結構な数、降りて来ててよ~」
「あ~……いや、やめとくわよっ。家の食材片付けたいし、アクルちゃんの料理食べたいしねっ」
「ん?そうか?そりゃ残念だなぁ、オイ」
特別残念でもなさそうにカリブディーが言って、ラビィは軽く笑って焼かれてるお肉を見る。
「熊肉かなんかだな。バーベキューか~いいよな~」
と、魔王がぼやく。アクル的にもバーベキューは興味があるが、リュエンプラス人相の悪い男達とやりたいかと言われると……。
「ま、いいや。チビッ子!アクルだっけ?お前いろいろ狙われて大変らしいなぁ、オイ。リュエンの坊主から聞いたぜ!はっはっは!」
「ま、まぁ……はい。まぁ……」
ベアル一派は、一応アクルが何故か狙われているという話はメリーから聞いているらしい。
…………アクル的には、何故メリーがその事を知っているのかが解らなくて怖いのだが。
「ま、心配すんなよ!お前さんもそこそこ強いみてーだし、オレ様もこれからは仲間だからよ!守ってやるぜオイ!はっはっは!」
そう言って、背中をバシバシと叩かれた。お酒臭かったけど、不思議と悪い気はやっぱりしなかった。
………まぁ、でも、やっぱりちょっと苦手な人だと思う。でも、仲良くなれるかもしれない。
なんなら、リュエンよりかは打ち解けやすそうだとアクルは思う。
「あ……そういえば、リュエンさんが男の人って、知ってるんですね」
ラビィとなにやら話しているリュエンを見ながら、とりあえずアクルは話題を振った。
あの時はお嬢ちゃんと言ってた気がするが、さっきは坊主って言ってたし。
「オウ、この前に聞いたぜ。いやぁ、驚いたもんだぜ。
………ま、オレ的には男の方が好みだからいいんだけどな!はっはっは!」
「うほっ!?」
何故魔王がゴリラの真似をしたのか、アクルには解らないが……それはそれとして、アクルには衝撃な発言であった。
男の方が好みって……どういう意味なんだろう……。
「それじゃあ、アクルちゃん。帰るわよっ!」
リュエンと話終えたラビィが手を振って、アクルはとりあえずその場を離れるのだった。
「あ、あの、その、それでは」
「オウ!またな!!」
手を振るアクルに、カリブディーはサムズアップをするのであった。
帰る頃には、日が本格的に落ち始めた。
黄昏時。橙と青が交わり、星の燐光が輝き出すこの時間帯が、アクルは一番好きだ。
一日が終る時。世界が終る刻。
朝日と共に、また一日が始まるまでの暗い夜の始まり。
こうやってゆっくり見れるゆとりが無かった為に、目を細めて存分に焼き付けて行く。
大丈夫、明日もきっと良い日だ。スネルフという人も、きっときっと……。