薄幸の堕天使   作:怒雲

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カーニバル

 

 

 

 満ちた月が照らす路上を、数十人の衛兵が歩いていた。

 

 

 一応、形だけだがパトロールしているのだが……その赤い顔を見るに、酒を飲んだ直後らしい。

 

 

 実際、彼らはほんの数分前まで酒場でサボっていたのである。そして、ほんの気紛れで職務という名の散歩を始めた訳だ。

 

 

 周囲の木造の民家をてきとーに見回しながら、やがてこの街を守る防壁まで辿り着く。

 

 

 厚さ二十メートルあるこの防壁は、なにやらセメント的な何かで出来ているらしい。

 

 

 衛兵達の内、数人が防壁に近付き……あろう事かズボンを脱ぎ、犬の如しマーキングを始めた。

 

 

 酔っぱらった、だらしの無いその面からはこの街を守る衛兵としての気概はあまりにも感じられない。

 

 

 用を済ませて立ち去ろうとした際に、壁から音が聞こえた気がして、衛兵のうち何人かが振り返った。

 

「……?」

 

 ガリガリ、ガリガリという音がかすかにだが聞こえて、数十人の衛兵らは訝しげな顔をする。

 

 

 音は、どんどん大きくなる。ガリガリ、ガリガリ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛兵が一人、仲間に目配せをする。警鐘を鳴らしに行けと。

 

 

 数人、剣を抜き、数人逃げて、三人くらいが不思議そうな顔をしながら壁に近付く。

 

 

 そして、壁の一部が崩れて、鼠が一匹顔を出した。

 

 

 不思議そうに眺めていた衛兵が、やばいと……そう思う直前に、その頭がなくなった。

 

 

 

穴から飛び出し、一瞬にしてその巨大なドブネズミは衛兵の頭を……兜ごと食い千切ったのである。

 

 

 

壁がどんどん食い破られ、無数の鼠達が現れ、衛兵らに襲い掛かる。

 

 一人、簡素な鎧ごと腹を食い千切られた。悲鳴を上げて苦しみ地面を転がるその姿に、無数の鼠達が群がって行く。

 

 

 一人は、震えながら後退る。しかし、足を素早く食われて転倒し、口からは声にならない悲鳴。

 

 喉を喰い千切られたから、上がらない悲鳴。痛みと絶望の中、最期に観た景色は、爛々と眼を輝かせる鼠の群れ。自分の手足を喰いちぎり、腸を貪る鼠の群れ。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見た目はドブネズミ。大型犬に匹敵するサイズのドブネズミ達が、厚さ二十メートル程の防壁を喰い破り、わらわらと湧いて出てくる様を、数人の衛兵達は青ざめた顔で眺めていた。無惨に食い散らかされる仲間の姿も。

 

 一人は最期に、助けを求める様に手を伸ばした。直後にその手も食われた。

 

 

 確かに、誉められる様な生き方はしていなかった。人間としては屑だったかもしれない。

 

 

 だが、助けたそばから犯罪をおかす者。薬物中毒者だらけの五区で……騙し騙されてのこの場所だ。

 

 ……まぁ、悪かったかもしれない。死んで当然かもしれない。

 

 

 それでも、それでも、それでも……。

 

 

 蠢く鼠の群れが、まだ生きている衛兵達の方を向く。

 

 

 一人は、果敢に立ち向かった。一人は、半狂乱になって向かっていた。

 

 

 死に方は、同じだった。

 

 

 

「あ……あぁ……。」

 

 

 迫り来る鼠達を見て後退る衛兵達……その脇を、数人の人影が通り抜けた。

 

 

 この辺りを守る自警団達である。

 

 

「チッ……!なんだこいつら!」

 

 門ならまだしも、壁を破って来るとは思わなかった。

 

 

 まぁ、警鐘も鳴っているし……時期にベアル一派も駆け付けて来てくれるだろう。場所的に遅くなるかもしれないが、それは仕方ない。

 

 

「来やがれドブネズミ共!」

 

 

 蠢く群れは、爛々と赤い眼を更に輝かせる。篝火の様にも見えた。

 

 

 自警団達は、それぞれの得物を構え、迎撃する。

 

 

 死屍累々。今まさに、長く赤い夜が幕を開けたのだ───。

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