自警団達の一人に、鼠が飛び掛かった。
「………くそっ」
丁度体勢を崩していた彼は、自分の死期を悟り、こんな最期かも目を閉じて痛みを覚悟する。
「なになに? 目なんか閉じちゃって、キスでも待ってるの? しちゃうよ?」
痛みは来ない。変わりに、その場にはとても似つかわしくない高い声。おちゃらけた声。
「……───リュエン!」
サイドテールの黒髪と、ゴシックロリータな衣服を身に纏う、少女……ではなく、少年リュエン。
からかうような笑みを浮かべながら、彼は日本刀のような刀を振って鼠達を斬り裂く。
「なんだ、キス待ちじゃあないのか。残念。」
「今はそれどころじゃあねぇよ。後でな?」
キス事態はOKらしい。後でかー、とか呟きながらリュエンは周囲を見渡す。
「さて……結構殺られたねぇ。」
食い散らかされた屍を見ながら、リュエンはタメ息混じりに呟いた。
一匹、リュエンに向かって行くものの、リュエンはそちらに目をくれない。
何故なら、空間から現れたラビィの人形によって、殺される事が解りきっていたからだ。キリキリと周囲に鳴る音。これは、人形遣いを発動する音。
この場にはラビィの姿はない。どこか、遠くで隠れながらこの人形達を使役しているのだ。
多分、アメリオンの店辺りだろうなとリュエンは思う。
「わっはっは、劣勢じゃのう!じゃが!このベアルが来たからにはもう安心よ!」
リュエンに遅れて現れる、力士の様な大男ベアル。矢が飛んで来る。キーレースは、離れた場所にいるようだ。
「さて、反撃開始だね。……早速働いてもらうよー?」
リュエンは、すぐ近くにいる短髪の男、カリブディーに声をかける。
一緒にバーベキューをしていて、さて、夜はこれからだ!という時に警鐘が鳴り響き驚いたものである。
リュエンの言葉に、カリブディーは口角を吊り上げて笑った。
凶悪そうであり……どこか、少年にも見える不思議な笑み。
「ハッハァ! こりゃ中々、所属早々派手な任務になりそうだなァ!」
あの騒動後、いろいろあって、協力してもらう事にしたわけだが……本当に、奇跡のようなタイミングだったなとリュエンは思う。自警団を増やせたのは大きい。
元々、衛兵からは見逃された連中なので、わざわざ牢屋にいれる必要もない。楽な事である。
「うっしゃあ!」
鼠を殴り飛ばすカリブディーを見ながら、つくづく仲間にしておいて良かったとリュエンは思う。
なんにせよ今は戦力が欲しいのだ。カリブディーは自分より強いので、本当に助かる。
「はっはっは!かかって来なァ!!」
楽しそうに笑いながら、カリブディーは拳を振り、足蹴りを鼠達に放つ!
一匹。その鋼の様に鍛えられた足に鼠が噛み付く。食い千切ろうと、動く。
「効かねぇぜオラ!!!」
しかし、カリブディーはその鼠を掴んで無理矢理ひっぺがし、そのまま他の鼠に投げ付けてぶつけていた。
まさに鋼の肉体だなぁ、とリュエンは呟く。自分なら噛み付かれたら普通にアウトなので、避けながら刀を振るう。
「さて……こいつら、結構強いけど」
斬りつけても、怯まない。一匹足りとも。
こいつら、なんだ?リュエンは思う。こんな鼠は、今までに見た事がない。
なんか、チュッヒャー!とか、食わせてー!とか、うまーい!とか叫んで喋ってる辺り、言葉は話せるらしいので……つまりは、魔族だろう。
……前に見た魔族とは、全然違うなとリュエンは思った。