薄幸の堕天使   作:怒雲

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狂喜乱舞

 

 

 喰鼠は歩きながら、辺りを探る。目的はもちろん、言わずもがな魔王である。

 

 魔王の血肉……それは、何れ程に美味しい事だろう。何れ程に甘美な事だろう。

 

 思わずニヤけながら歩いていると、同胞達の亡骸達が目に映る。

 

 

「…………」

 

 喰鼠には解る。彼らは皆、満ち足りた気持ちで死んでいるという事を。甘い匂いの中で窒息する様に。繰り返す絶頂の中、頭の血管が千切れる様に。

 

 

「チュヒャヒャ。」

 

 

 しかしまぁ、結構強いのがいるなと喰鼠は思う。まずは、前菜から頂くのもいいかもしれない。

 

 

 ざっと見て、目につくのは数人。何か、人形も混じっているが、それはそれで美味しそうとは思う……が、やはり食いたいのは肉だ。

 

 刀を振る黒髪の少女に目が行くが、やや離れた所にもっと強そうなのがいた。しかも、巨体で食い甲斐がありそうである。

 

「───ッ!?」

 

 リュエンは遠目に、ベアルに近付いて行く魔族を凝視した。

 

 

 鼠の耳と尾がはえた小柄な青年の姿。人間に近いその姿は、むしろ弱そうにも見える。

 

 

 だが……ヤバい。アレは明らかに異質だ。かなり強いだろう。

 

 

 救援に向かいたい所だが……。

 

「ヂュッビャア!」

 

「あー、もう。邪魔!」

 

 行ける程の余裕は無い。生憎、手一杯だ。

 

 

 数十体あるラビィの人形達が、数体くらいその青年に向かう。

 

 それを青年……喰鼠は横目で見た後、尻尾で薙ぎ払った。

 

 

いくつかの人形が砕けて、バラバラと周囲に散って行く。

 

 

「───嘘でしょ……!?」

 

 ラビィの人形は、一体一体が中々の強さをもつ。実際、ネズミらに齧られてもちょっと痕が残るくらいだ。それが、あんなアッサリあしらわれるとは思わなかった。

 

 

「ガッハッハ! やるのう!」

 

 

 ベアルは直ぐに臨戦体勢に入る。直感で解った。この男はとんでもないレベルの怪物だと。

 

頬を、冷や汗がつたって行く。

 

 

「チュヒャヒャ…。アンタも、旨そうだねぇ。」

 

 

 嬉しそうに笑う青年に向けて、ベアルは即座に長柄の斧を振りおろす。

 

 

 振り降ろされる斧に向けて、喰鼠は右手を伸ばした。

 

 直後、音。斧が折れた様な音。鋼が砕かれた音。

 

 

「────なにィ!?」

 

 

 ベアルの表情に驚きの色が浮かんだ。斧が、刃先と斧頭を失う。

 

「ひゃひゃひゃ! いいぜ、いい美味さだ!!」

 

 

 暗い夜の街中に笑い声を響かせながら、喰鼠は尻尾を振る。カリブディーを葬った技だ。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 腹を覆う軽装の鎧が砕けた音と共に、ベアルは吹き飛びそうになるも、少し地面を削った程度で踏み留まる。

 

 即座に放たれた喰鼠の回し蹴りを右腕で受け止めるも、重い衝撃に奥歯を噛む。ミシミシと嫌な音が鳴った。

 

 

 喰鼠は笑みを浮かべたまま、右手をベアルに伸ばし───

 

 

「ぬっ……!?」

 

 あの右手はヤバいとベアルは思い……姿勢を低くしつつ、一歩下がりながら先端の無くなった長柄を振る。喰鼠の足に向けて。

 

 

「お……?」

 

 

 中々の衝撃に、喰鼠が僅かに体勢を崩した。ベアルの長柄は、かなり上質な鉱物で出来ている上に彼のパワーだ。そこそこの衝撃があったのだろう。

 

 

「せいっ!」

 

 

 そのままベアルは、長柄で喰鼠の喉を狙い突いた。

 

 

 

 ……が、再びあの鋼が砕ける音が響いた。

「ぬぅ……!?」

 

 はっきりとベアルは視た。喰鼠の手のひらを。

 

 

 そこには、鼠の口を模した刺青の様なものがあり……それが、ベアルの長柄を『喰った』のだ。

 

 

「チュヒャヒャ!」

 

 

 万物を食らい、己のエネルギーに即座に変換する異能力───『暴飲暴食鼠口(マウス・イート・マウス)』……彼ら、鼠族が極一部だけ目覚める異能力である。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 喰鼠が笑ったまま右手を構える。飛んで来たキーレースの矢が頭に命中したが、ダメージはない。矢が、弾かれてしまった。

 

迫る人形をアッサリと蹴散らし、そのまま喰鼠はベアルに右手を。

 

 

 ここまでかと思ったその時、喰鼠の鼠耳がピクリと動いた。

 

 

「………魔王サマ?」

 

「マオウ様だ……」

 

「チュッヒャア!マオウサマー!!!」

 

 

 

 

 

 

仲間達の歓喜の声が、喰鼠の耳にも届いたのだ。

 

 

 

 そして、鼻をヒクヒクさせて、狂気の笑みを顔面に張り付ける。

 

 

「クッ……クククッ、ヒャヒャヒャ! 来た……来た来た、来やがった!」

 

 

 そう言うや否や、彼はベアルから顔を背けて、物凄い速度で走り出して行ってしまった………。

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