「……『アクル』ってのはどこだ?」
スネルフはぶっきらぼうにリュエンの方を向いて、簡潔にそう尋ねながらダルそうに歩み寄る。
その背後で、霊狐が素早く起き上がった。
愉しげな笑みを浮かべたまま、剣を振り上げながら接近。そして振り降ろす。
スネルフは、表情ひとつ変えずに体を僅かに横にずらして回避。
……その動作の際に、ちゃっかり肘で霊狐の腹に一撃いれている。
「がっ………!」
痛みと共に肺から空気が抜けて、悶絶する霊狐。スネルフは、その首をすかさず片手で掴み、そのまま勢い良く持ち上げて振り被り、そのまま地面に叩き付けた。
首を掴み投げるまでの合間に、ボキボキと首の骨が折れた音が夜の街に響いた。
地面に叩き付けられて、轟音が辺りに響く。地面が陥没した音だ。
だが霊狐の体は地面に無い。どこに行ったかというと、上空だ。物凄い力で地面に直撃し、そのままバウンドして空を舞っているのだ。
どこか、体の重要な器官に深刻なダメージがあったのだろう。口から大量の血を吐き出していた。
「うわぁ…………」
霊狐の速さをものともせずに、圧倒的パワーで迎撃……やっぱり、とんでもないなとリュエンは思った。
なんというか、モノが違う。
霊狐の体が地面に落ちた音を背に、スネルフは再びリュエンを見る。
「…………で、アクルってのはどこだ?」
「僕らのアジトだよ。」
リュエンは微笑みながら、言う。
「とりあえず、助けてくれてありがと。」
「………本当はもっと早く来れたんだがな。フルールド……あの女、鬼の修復に無駄に時間かけやがった。数時間前に終わったんだよ。」
「ああ、それでちょっと顔色悪いのか。」
リュエンは成る程と呟く。スネルフの持つ術具である、『鬼』は、詳しくは知らないがスネルフの命と深く密着しているらしい。つまり、鬼の調子が悪いとスネルフの調子も悪い。
キョロキョロと辺りを見るが、鬼の姿は無い。まぁ、召喚術で空間に収納しているのだろう。
「そんで、調整の為に寝てたらあの女、このオレを叩き起こして、挙げ句に救援行けとかまくし立てやがる。」
うんざりした調子で言って、スネルフはおもむろにリュエンから視線を外し背を向けた。
「どうし……!」
リュエンは思わず目を開いた。いやいや、あれはどう考えても即死でしょ。なんで立ってんのさ。
「アハハ! あんた、いいねぇ…!」
「……しぶてぇな。」
立ち上がり、ゲラゲラと笑う霊狐を見ながら、スネルフは軽く溜め息を吐いた。寝起きそうそう、面倒臭ぇ。
霊狐が再びスネルフに向けて駆ける。重症にも関わらず、物凄い速さだ。
「…………」
対するスネルフは、片手をポケットに突っ込んだまま棒立ちの姿勢で静観。
霊狐は剣を、右から左に薙ぐ。が、その視界からスネルフの姿が消えた。空振りだ。
スネルフは、しゃがんで避けていた。だがその動作は、ただ避けるだけでは無い。攻撃に繋げる為のもの。
スネルフは体を右に回転しながらしゃがみ、そこから足を伸ばし蹴りを放つ。それが、霊狐の足を払った。
足払いにより体制を崩して倒れる霊狐。スネルフは、回転した勢いをそのままに立ち、勢いを殺す事なく足を振り上げ、霊狐の顎に向けてかかとを落とす。
顎の骨が砕ける音と、喉が潰れる音。
足を外し、スネルフは再びリュエンの方を向こうとするが、霊狐が笑いながら動くのが見えてまた溜め息。
霊狐は身を起こしつつ、しゃがんだ状態から両手で剣を握り、そして斜め上に薙ごうとする。逆袈裟というやつである。
対するスネルフは、片足を伸ばす。狙いは、霊狐の両腕。
「!?」
両腕を足で押さえられる。出鼻を挫かれた。
スネルフは、単純に押さえる為だけでなく、普通に折るつもりでもあったので、霊狐の腕にはかなり重い衝撃が走る。
一秒すらたたぬその一瞬。スネルフは、もう片方の足も地面から離した。そしてそのまま、霊狐の口を狙っての蹴り。
衝撃で、霊狐の前歯と、狐のお面が宙を舞う。
「アハハ、アハハハハッ! いいねェやるねェ強いねェあんた!」
変わらずゲラゲラ笑う霊狐を見ながら、リュエンはギョッとする。しぶといなんてもんじゃあない。
なにより、その顔。狐のお面がなくなり晒された素顔。
両目が無い。眼球が無い変わりに、何やら黒い霧みたいなのが溢れだしている。
更に、目元や額の辺りは、どうやら腐敗しているようである。なんなんだコイツ?
スネルフはそれを見て少し眉間に皺を寄せつつ、またもや溜め息。
「しつこい奴は、嫌われるぜ……男でも女でもな。」
ダルそうにそんな事を言うスネルフ。直後、彼は後ろの方から大きな破壊音が聞こえそちらに目をやる。
思わずリュエンも振り向いた。
どうやら遠くの方で、木製の家が壊れ倒壊したらしい。それもひとつやふたつではなく、大量に。一列程。
「おい。」
不意にスネルフに声をかけられて、リュエンは、ハッとスネルフの方を向く。彼は、再び攻撃してきた霊狐を迎え撃っているところである。
「お前、アクルって奴の所に行け。コイツはちっとばかし、時間がかかりそうだ。」
リュエンは頷き、駆け出す。確かにしぶといが、スネルフなら心配はいらないだろう。