薄幸の堕天使   作:怒雲

95 / 164
『鬼遣い』と『生ける屍』

 

 

 

「……『アクル』ってのはどこだ?」

 

 スネルフはぶっきらぼうにリュエンの方を向いて、簡潔にそう尋ねながらダルそうに歩み寄る。

 

 その背後で、霊狐が素早く起き上がった。

 

愉しげな笑みを浮かべたまま、剣を振り上げながら接近。そして振り降ろす。

 

 スネルフは、表情ひとつ変えずに体を僅かに横にずらして回避。

 

 

 ……その動作の際に、ちゃっかり肘で霊狐の腹に一撃いれている。

 

 

「がっ………!」

 

 痛みと共に肺から空気が抜けて、悶絶する霊狐。スネルフは、その首をすかさず片手で掴み、そのまま勢い良く持ち上げて振り被り、そのまま地面に叩き付けた。

 

 

 首を掴み投げるまでの合間に、ボキボキと首の骨が折れた音が夜の街に響いた。

 

 地面に叩き付けられて、轟音が辺りに響く。地面が陥没した音だ。

 

 だが霊狐の体は地面に無い。どこに行ったかというと、上空だ。物凄い力で地面に直撃し、そのままバウンドして空を舞っているのだ。

 

 どこか、体の重要な器官に深刻なダメージがあったのだろう。口から大量の血を吐き出していた。

 

 

「うわぁ…………」

 

 

 霊狐の速さをものともせずに、圧倒的パワーで迎撃……やっぱり、とんでもないなとリュエンは思った。

 

なんというか、モノが違う。

 

 霊狐の体が地面に落ちた音を背に、スネルフは再びリュエンを見る。

 

「…………で、アクルってのはどこだ?」

 

「僕らのアジトだよ。」

 

 

 リュエンは微笑みながら、言う。

 

「とりあえず、助けてくれてありがと。」

 

「………本当はもっと早く来れたんだがな。フルールド……あの女、鬼の修復に無駄に時間かけやがった。数時間前に終わったんだよ。」

 

「ああ、それでちょっと顔色悪いのか。」

 

 リュエンは成る程と呟く。スネルフの持つ術具である、『鬼』は、詳しくは知らないがスネルフの命と深く密着しているらしい。つまり、鬼の調子が悪いとスネルフの調子も悪い。

 

 

 キョロキョロと辺りを見るが、鬼の姿は無い。まぁ、召喚術で空間に収納しているのだろう。

 

「そんで、調整の為に寝てたらあの女、このオレを叩き起こして、挙げ句に救援行けとかまくし立てやがる。」

 

 

 うんざりした調子で言って、スネルフはおもむろにリュエンから視線を外し背を向けた。

 

「どうし……!」

 

 

 リュエンは思わず目を開いた。いやいや、あれはどう考えても即死でしょ。なんで立ってんのさ。

 

 

「アハハ! あんた、いいねぇ…!」

 

「……しぶてぇな。」

 

 

 立ち上がり、ゲラゲラと笑う霊狐を見ながら、スネルフは軽く溜め息を吐いた。寝起きそうそう、面倒臭ぇ。

 

 霊狐が再びスネルフに向けて駆ける。重症にも関わらず、物凄い速さだ。

 

「…………」

 

 

 対するスネルフは、片手をポケットに突っ込んだまま棒立ちの姿勢で静観。

 

 霊狐は剣を、右から左に薙ぐ。が、その視界からスネルフの姿が消えた。空振りだ。

 

 スネルフは、しゃがんで避けていた。だがその動作は、ただ避けるだけでは無い。攻撃に繋げる為のもの。

 

 

 スネルフは体を右に回転しながらしゃがみ、そこから足を伸ばし蹴りを放つ。それが、霊狐の足を払った。

 

 

 足払いにより体制を崩して倒れる霊狐。スネルフは、回転した勢いをそのままに立ち、勢いを殺す事なく足を振り上げ、霊狐の顎に向けてかかとを落とす。

 

 顎の骨が砕ける音と、喉が潰れる音。

 

 

 足を外し、スネルフは再びリュエンの方を向こうとするが、霊狐が笑いながら動くのが見えてまた溜め息。

 

 

 霊狐は身を起こしつつ、しゃがんだ状態から両手で剣を握り、そして斜め上に薙ごうとする。逆袈裟というやつである。

 

 

 対するスネルフは、片足を伸ばす。狙いは、霊狐の両腕。

 

 

「!?」

 

 両腕を足で押さえられる。出鼻を挫かれた。

 スネルフは、単純に押さえる為だけでなく、普通に折るつもりでもあったので、霊狐の腕にはかなり重い衝撃が走る。

 

 

 一秒すらたたぬその一瞬。スネルフは、もう片方の足も地面から離した。そしてそのまま、霊狐の口を狙っての蹴り。

 

 

 衝撃で、霊狐の前歯と、狐のお面が宙を舞う。

 

「アハハ、アハハハハッ! いいねェやるねェ強いねェあんた!」

 

 変わらずゲラゲラ笑う霊狐を見ながら、リュエンはギョッとする。しぶといなんてもんじゃあない。

 

 なにより、その顔。狐のお面がなくなり晒された素顔。

 

 

 両目が無い。眼球が無い変わりに、何やら黒い霧みたいなのが溢れだしている。

 

 更に、目元や額の辺りは、どうやら腐敗しているようである。なんなんだコイツ?

 

 

 スネルフはそれを見て少し眉間に皺を寄せつつ、またもや溜め息。

 

「しつこい奴は、嫌われるぜ……男でも女でもな。」

 

 ダルそうにそんな事を言うスネルフ。直後、彼は後ろの方から大きな破壊音が聞こえそちらに目をやる。

 

 

 思わずリュエンも振り向いた。

 どうやら遠くの方で、木製の家が壊れ倒壊したらしい。それもひとつやふたつではなく、大量に。一列程。

 

 

「おい。」

 

 

 不意にスネルフに声をかけられて、リュエンは、ハッとスネルフの方を向く。彼は、再び攻撃してきた霊狐を迎え撃っているところである。

 

「お前、アクルって奴の所に行け。コイツはちっとばかし、時間がかかりそうだ。」

 

 

 リュエンは頷き、駆け出す。確かにしぶといが、スネルフなら心配はいらないだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。