リュエンは夜の街を駆け出した。それはそうと、先程ネズミ達が言ってた言葉がやはり気になる。
『魔王』と、奴等は言っていた。魔王と言ったら、まぁ、あの魔王だろう。何故?
ふと脳裏にチラつくのはアクルの顔。何故か、魔族に狙われているらしい少女。話しによると、人間の方にも居場所がないらしい少女。
「まさか、ね……」
いやいやと一人、リュエンは呟く。確かに妙な力を持ってるっぽいが、見た感じあの子は素人だ。戦いの心得なんてろくにないと思う。
第一。もし、彼女が魔王として……なんで魔族に狙われる?
そんな事を考えていたリュエンの目に、明かりが見えた。炎の明かりだ。
「……火事?」
遠くを見ると、木製の建物がいくつか燃えているのが見えた。
あのネズミ達が、火攻めとかそういうのやると思い難いので、争いの中で引火したんだろうとリュエンは思う。
厄介な事になったな……と思ったその直後……それらの炎が細くなり、本来なら有り得ない動きをする。一ヶ所に集まっているようだった。
それにより、火事が収まる。直後、遠くの方で赤い閃光が走り、消える。
「……なんなんだ、一体……?」
今一状況が掴めない。だが、まぁ、いいかとリュエンは家に辿り着く。今は気にしてる余裕はない。火事にはならなかったっぽいし。
そして、やや乱暴に扉を開き中に入って、部屋に行くが……アクルの姿はどこにも無かった。
ラビィが面倒を見ていた筈で、それならばここにいるように言ったはずだ。
なのに、その姿はここにない。
「……まさか?」
リュエンが困惑気味に呟くと、窓の外から轟音が鳴り響いた。
今度は何事かと外を見ると、防壁にヒビがはいっていた。まるで蜘蛛の巣のように。
そして、また轟音が響くと同時に……防壁の一部が崩れ落ちる。まるで、大砲でもくらったかの様に。怪獣でも出たかの様に。巨人でも現れたかの様に。
スネルフは、激しい霊狐の攻撃を避けながら舌打ちをした。
「チッ……」
フルールドの奴も大概だが、この女もずいぶんと死なねぇな。俺は、死ににくい女とでも縁があるのか?
肩を刃がかすめ、僅かに出血。さてどうするかとスネルフは思う。
病み上がりの寝起きで、体の調子が悪い。特に体力は落ちている。
対する霊狐は、まだまだ元気だ。頭蓋骨を砕いたにも関わらず、むしろ速くなっている。
折れた腕をぶらぶらさせながらゲラゲラ笑う姿に、元気な奴だとタメ息がもれた。
「…………」
首をねじきるか。脳ミソを引き摺り出すか、それでも死なない不死身ならば、重りでも着けて川にでも沈めてやるか……。
スネルフは眼を凝らす。『蛇の眼』を凝らして、霊狐を良く視た。
「ん……?」
ああ、成る程なとスネルフは理解した。コイツの、やたら死ににくい異能力の内容を。
「アハ……! いいよォ、気持ちいいねェ! 気にいったよ、アンタ!
でもまださ!まだまだまだまだこんなもんじゃあ物足りないねェ!アヒャヒャ!この私を逝かせてみなよ!」
見た感じ、満身創痍なのにニヤニヤと愉快そうに笑う霊狐を見ながら、スネルフは軽く鼻で笑った。
「独りよがりな女だ………」
スネルフは笑みを浮かべたまま、構えを少し変える。
「来いよ。よがられ続けるのも気分が悪いんでな……そこまで言うなら、逝かせてやる。」
挑発的な笑みに対し、霊狐は挑戦的に笑って見せる。
「アハハ、いいねいいね! 面白いよアンタ! やってみなァ!」
霊狐が笑いながら、再び猛突進すると、スネルフは迎撃として蹴りを放つ。
蹴られて吹き飛び、仰向けに転がった霊狐の腹に、スネルフは馬乗りにのし掛かった。
スネルフは、そこからその手で……霊狐の衣服を引き裂き、乳房を引きちぎり、肉をむしり取り、骨を引っこ抜き、肺を摘出して……そのまま心臓を抉り出した。
「ア……ハッ!?……カヒュッ……!?」
「よく解らねぇが、てめぇのその不死身みてぇな異能力は、どうやら心臓を起点にするらしいな。」
スネルフは片手に取った心臓を、軽くポンポンと御手玉しながらぼやくように言う。
霊狐の心臓は、いまだにドクンドクンと脈打ち、血を吹き出していた。
この心臓さえある程度の原型を残してあるか、もしくは体内にさえあれば『死なない』という結果が与えられる異能力、『生ける屍(ライフ・ライ・ライフ)』が霊狐の持つ不死身の様なしぶとさの正体であった。
「ま、病み上がりのリハビリくらいにはなったぜ。ありがとよ。」
地面に心臓を落とし、ぐちゃりと踏み潰すと、霊狐は身体中から血を吹き出し、痙攣した後に動かなくなった。
だがその顔は恍惚とした表情を浮かべており、歪みねぇ奴だなとスネルフは苦笑する。
リュエンの元に行くかと歩き出した際に、大きな音が街中に響いた。
音の方向を見ると、ひび割れた防壁。やがて防壁は、また音を立てて崩れ落ちた。