薄幸の堕天使   作:怒雲

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 アクルは走る。心の中で愚痴りながら。

 

勿論、あの炎で倒せるとは思っていなかった。それでも、足止めくらいにはなるはずだと思っていたし、火傷くらいは負わせられると思っていたが……なんか、無傷で時間稼ぎすら出来ていなかった。

 

 

炎の中から歩いて出てくる姿に、そうはならないでしょ!と思い、頭の中の冷静な自分が、なってるじゃないとツッコミを入れている。

 

 

 

 

 

 

とにかくと、走りながらアクルは炎のカードをあるだけばら蒔き、ごめんなさいと人気の無い家々を焼く。

 

 

酒場の炎だけではきっと足りない。なら、こうするしかない。

 

 

 

アクルとしても、元より酒場を焼いてそのまま放置するつもりはなかった。

 

 

そう……アクルにはあるのだ。あの炎を消しながら……更に攻撃する手段が。

 

 

 

 

 背後からは喰鼠が迫る気配を感じながら、アクルは手のひらを広げた。

 

 

 そこから炎が迸り、弓が現れた。赤い金の細工が成された火の神より授かりし弓、『チャンドラ・ダヌス』だ。

 

 以前、十二区での火災の時と同様に、周囲の炎が空を走りアクル右手に集まっていく。

 

 

 濃縮された炎。纏うは魔王の魔力。

 

 

 これならいけるかと振り返り放とうとするが……全力で走ったままに無理に振り返ろうとした為に、足がもつれてしまい体勢が崩れてしまった。つまり、こけそうになったのだ。

 

「あっ……!」

 

 

 ヤバい、ヤバい、ヤバい───!

 

 

 咄嗟にアクルは眼前に跳んだ。体が空中で回転し、逆さまになる。

 

 喰鼠は、既に数十メートル程の距離にいたが、アクルも既に矢を引いている。焔の矢を。

 

 

 

 

 

「射け!」

 

 

 

 

 

 そして焔の矢は放たれた。夜の闇を赤い閃光が切り裂いて行く。

 

 もちろんまともに着地出来るはずもなく、アクルは頭から地面に落下した。凄く痛い。頭がちょっと削れたし、多分、首の骨もやってしまった。

 

 

 が、今はそんな事を気にしている場合じゃないとばかりに、アクルは起き上がった。

 

 

 

多分、あいつは死なない。でも、今度こそ無傷ではいられないはず……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ッ!?」

 

 

 渾身の力を込めて放った焔の矢は……伸ばした喰鼠の右手に『喰われて』消えてしまった。

 

喰鼠は───無傷であった。

 

 

 

「くっそ、今のはいい線行ってると思ったんだがなぁ……」

 

 

 魔王が言うからには、そうなのだろう。だが、結局直撃はしなかった。

 

 

とにかく逃げなきゃと思って、まだ少し痛む頭や首を押さえながら、アクルは喰鼠を見る。

 

魔王の力で放った焔の矢を食ってのけた喰鼠は立ち止まり……肩を奮わせていた。様子がおかしい。

 

 

 どうしたのだろう。もしかして、結構効果があったのだろうかとアクルが思うが……笑っている。喰鼠は、狂喜しているようだ。

 

 

「ちゅひゃっ……ひゃひゃひゃひゃひゃ……!流石だぜェ……流石は、魔王様だ!

 ヒャッヒャッヒャッ! 最高だ! 今のは……! 今のは実に『美味かった』よ……!チュヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

 

 メキメキと、喰鼠の姿が蠢く。変異していく。

 

アクルは、目を見開きながら固まってしまった。

 

 

「……え?」

 

 

 思わずアクルは目を丸くした。その姿は、人間ではなくなったのだ。

 

 

 先程の連中と同様、ネズミの姿だ。四つん這いのネズミ。

 

 もっとも……大きさは、先程の奴等より一回りか二回りくらい大きいが。

 

 なんで? とアクルは思う。まさか変身するとは思わなかった。

 

 いや、こっちが本来の姿なのかな?

 

 

 そんな事を考えている場合では無いが……どちらにせよ同じ結果だっただろう。

 

 

 突進してくる喰鼠の速度は……最早、猛獣より速い程度のアクルが反応出来る様な生易しい速度では無かった。

 

 

「がっ────!?」

 

 

 目まぐるしく景色が流れて行く。何が起きたのかアクルにはよく解らない。

 

 

 単に、喰鼠に突進された。それだけの事だ。

 

 何かに激突して、アクルの体は止まった。壁だ。防壁にぶつかったのだ。

 

 

 厚さ二十メートル程の、セメントらしき材質で出来た防壁にヒビがはいる。一面にヒビが。

 

 

 アクルが先程までいた場所からこの防壁まで、数キロくらいの距離があったはずである。

 

 つまり、喰鼠の突進で……アクルは数キロの距離を、数秒で到達したという訳である。

 

 

「…………。……………。」

 

 頭が上手く働かない。眼球を僅かに動かすと、手足は壁に潰れて貼り付いていた。

 

 今のアクルには、自分が今防壁にいる事すら理解出来ていない。

 

 

 次に、また衝撃。喰鼠が追い付き、もう一撃アクルに突進をくらわせたのだ。

 

 

 ぼんやりする意識の中、アクルは思う。

 

 少なくともパワーに関しては……十二聖護士、ピスケラ・アルレーシャよりもだいぶ上だと。

 

 とにかく、凄い衝撃だった。防壁は、喰鼠の突進によって崩れさった。

 

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