疾風に乗せて   作:狭間です

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【10】青葉城西戦(1)

 

 

 

 

「田中さん本当にすみません……」

 

「いいっつってんだろうが、そんなことよりおめーは大丈夫か?!」

 

「はい、途中休んだしバス降りたら治りました……」

 

 青葉城西の校門をくぐった所で、我々は練習試合に向けて改めて集合していた。翔陽はバス内で田中先輩のズボンへ盛大にリバースした事をずっと謝っている。

 

「アイツ……情けねぇな!! 一発気合い入れてーー」

 

「何言ってんの影山?! バカじゃないの?!」

 

 見かねた影山が発破を(物理的に)かけようと勇んで居るところを菅先輩に止められる。偉いわちゃわちゃしているが、そろそろ時間が迫っている。ボールかごなどの用具を肩に担ぎ体育館らしき建物へと向かう。

 

 

 

「なぁ、今日来る烏野ってアレが居る学校だろ?」

 

「ハイ??」

 

「〝コート上の王様〟だよ。お前出身中学一緒だろ、金田一」

 

「あぁ、影山っスか。別に大したことないっスよ、個人技は頭一つ抜けてましたけどチームプレーっつうもんが根本的に向いてないスよ、アイツ自己中だから。あと中学と言えば、弱小中に所属してる癖に妙に上手くて気味が悪い奴も居ましたね。タッパもそこそこあって、明らかな経験者なのに影山とはまるで逆、周りの初心者をサポートする動きがほとんどでした」

 

 

「ほーん……まぁ、そいつはともかく例の影山が行った先は烏野だしな、昔は強かったか知らんけど。烏野つったらマネが美人ってことくらいしか覚えてねぇや」

 

「マジっすか?!」

 

「そうそう、ちょっとエロい感じでさぁ〜。あとガラの悪い奴も居たな〜、ボウズで目つき悪くて頭も悪そうな顔した」

 

 

 

「確かに清水先輩は美人さんッスけど、そんな下心丸出しで見るのは頂けないっスね」

 

「「?!」」

 

 好き勝手話していた内容を聞かれているとは思わなかった青城メンバーは、俺が話しかけた事であからさまにぎょっとする。

 

 そして俺は田中先輩と一緒に体育館へ向かっていたため、当然隣にはその人も居る。ドスの効いた笑顔を浮かべながらヌッと姿を現す田中先輩。

 

「あっ、……えーっと」

 

 

「あんま烏野ナメてっと、食い散らかすぞ」

 

 

 その気迫に呼応したかのように、校内のカラスが一斉に羽ばたいて行く。荒々しく全てを呑み込んで行く、烏という名前を象徴するようなその様子に、先程まで悠々と話していた二人組は思わず尻込みしている。

 

「そんな威嚇しちゃダメですよ田中さ〜ん。ほらぁ、〝エリートの方々〟がびっくりしちゃって、可哀想じゃないですかぁ」

 

「おう、そうだな。イジめんのは試合中だけにしてやんねーとな」

 

 ここぞとばかりに得意の煽りを展開する月島と、それに便乗する田中先輩。もうちょっとこの状況を見ていたい気がしなくもないが、そろそろ切り上げなければ不味い予感がする。

 

「あっ、お前ら! ちょっと目ぇ離したスキにっ!!」

 

 悪い予感は良く当たるとは言ったものだ、到着が遅い俺らを探しに来た澤村先輩に見つかってしまった。勢い良く謝罪をした主将は、田中先輩とその場からこっそり逃げようとしていた月島を捕らえ強引に連れ戻していく。

 

「……久しぶりじゃねぇの〝王様〟」

 

 背を向けて体育館に向かう俺らにかけられた言葉。明らかに一個人を指して放たれたソレは、烏野の全員が立ち止まるに足る程の悪意が秘められていた。

 

「烏野でどんな独裁政権敷いてんのか楽しみにしてるわ」

 

 

「……あぁ」

 

 

 その言葉を無表情で受け流す影山。

 

 この数日間で、翔陽という存在と関わったことでコイツも変わり始めようとしているのだろう。

 

 そんな瞬間を、間近で見た俺らの足取りは軽い。

 

 

 

 

 

 

「お願いしぁーッス!!」

 

 流石強豪、普通の高校よりも体育館がかなり大きい。その全面をバレー部が使用しており、全員がやる気に満ちた練習を行っていた。

 

「体育館も、選手も、全部デカい……!」

 

「青葉城西は攻守のバランスが高水準で保たれているチームだ。メンバーの一人一人が他の高校に行けばエースになれるような実力を持ってる」

 

「確かブロックも強かったもんな」

 

「ソレは、楽しみッスね!!」

 

「……気持ち悪」

 

「んだよ月島、お前はワクワクしねぇのか?」

 

「相手が強くて喜ぶのなんてただの変態デショ。僕をそんなんと一緒にしないでくれるかな」

 

 そんなゴミを見るような目で俺を見なくても……。まぁ考え方は人それぞれ、強要することは無い。

 

「なぁ翔陽、そろそろ緊張は解けたかーーって、翔陽?」

 

「日向なら田中の言葉にプレッシャー受けてトイレ行ったぞ」

 

「……」

 

 まぁ、日向のビビりはひとえに経験の少なさから来るものだ。これから試合を経てそれも緩和される事だろう。そう願いたい、いやそうでなくては困る。

 

 軽く走って身体を温め、念入りにストレッチを行う。その際青城の練習を観察していたのだが、俺や影山を指名したであろう張本人が見当たらない。絡まれると面倒なので会わないに越したことはないのだが……。

 

 

 翔陽がトイレから帰ってきたものの、未だに表情は硬い。アップを終え整列を前にした翔陽に、主将から耳打ちされた清水先輩が近寄っていく。

 

「ねぇちょっと……期待してる」

 

「?!?!」

 

 美人の先輩からの激励の言葉。女性との関わりが少なかった翔陽にとっては刺激が強すぎたようで、結果的にそれがトドメとなってしまった。

 

 顔を赤くした翔陽は、フラフラとした足取りで整列を済ませる。

 

 

 

 

烏野高校対青葉城西高校 練習試合 開始

 

 

 最初のサーブ権は青城、ジャンプフローター気味のサーブが烏野コートへと入る。

 

「大地さん!」

 

 

「オーライ、任せーー?!」

 

 

 澤村先輩の正面、レシーブ力の高い先輩にとっては取るに足らないサーブだろう。落ち着いて処理をしようと思ったのもつかの間、横から伸びてきた翔陽の腕に当たり、あらぬ方向へとボールは帰っていく。

 

「バカか?! どう見てもおめーの球じゃねーだろ!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

 初っ端からミスをしてしまったことでプレー中だというのに挙動不審になってしまう翔陽。ボールは後衛スタートである俺の真上へと飛んでくる。

 

「風見、カバー頼む!」

 

「田中さん!」

 

フワッ

 

 アンテナを目掛けた二段トス、ゆったりと大きな弧を描いたそれは綺麗にレフトへと上がった。

 

「ブロック三枚!!」

 

キュッ  ドドッ!

 

「!!」

 

 しかし、強豪の三枚ブロック。スピードの遅い二段トスにしっかりと合わせてきた壁に、田中先輩のスパイクは勢い良くぶつかり阻まれてしまう。

 

「まずは一本」

 

「ーーーっ!!」

 

「日向、落ち着いて周りも見ていこうな!」

 

「すみません!!!」

 

「風見スマン! ナイストスだった!」

 

「ドンマイッス! ーー流石にデカいっスね、ベスト4のブロックは」

 

 相手チームにも一年が入っているとはいえ、実力と経験に裏付けされたプレー。組織としてかなりの完成度で構築されている。

 

(これは……翔陽が早く本調子になってくれないと不味いかもな)

 

 

「オーラ……あ゛っ」

「おふっ」

 

 先輩と激突

 

 

「ぎっ!」

「?!」

 

 何も無い所で足をもつれさせ転倒

 

 

「あ゛ぁっ!」

「日向テメェ何ネットに突っ込んでんだ?!」

 

 勢い余って豪快なタッチネット

 

 

 

烏野高校 タイムアウト

 

「日向、一回落ち着こう! なっ?!」

 

 

 連携ミスによる度重なる失点、完全に萎縮してしまった翔陽の動きは精彩を欠いていた。澤村先輩の助言も虚しく、元々小さな翔陽が更に小さくなって行く。

 

 

青葉城西 タッチネット

 

24-13

 

「よし、一本ずつしっかり取って行こう! 次のサーブはーー」

 

「……あっ」

 

 青城のセットポイントでサーブが回ってきたのは日向翔陽。見るからにガチガチに固まった翔陽は、ボールを受け取るとロボットのような動きでエンドラインへと歩く。

 

「翔陽、落ち着いて時間使っていけよー」

 

「わ、わかってる!!」

 

 笛が吹かれてからサーブを打つまで、サーバーには八秒間の時間が与えられる。その時間で気持ちを落ち着かせることが出来れば、チャンスサーブでも相手コートに入れることくらいーー

 

ピッ! パッ バンッ!

 

 

バチコーーン!!!

 

てんっ……てんっ……

 

 

 

 笛が鳴ったとほぼ当時に日向はサーブを放つ。緊張からサーブトスがいつもよりだいぶ低くなってしまった。それに焦り力いっぱい腕を振り下ろした結果、思いっきり放たれたサーブは影山の後頭部へと一直線に飛んで行った。

 

 

 

ピピーッ

 

第一セット終了

 

25-13 青葉城西先取

 

 

(あ、アイツ終わったわ)

 

 青筋を立てながら、修羅のような顔つきで後ろを振り返る影山。

 

 翔陽の顔は血の気が失せ、青を通り越して白くなっている。

 

 彼の高校初めての試合の一セット目は、チームメイトの後頭部への直撃という形で幕を下ろした。

 




 今年最後の投稿となります、来年もよろしくお願いいたします!
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