疾風に乗せて   作:狭間です

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 縫殿頭さん評価ありがとうございます! 誤字報告に関しても本当に助かっています、ありがとうございます。


【13】青葉城西戦(4)

 

 

「……金田一」

 

「!」

 

 青城高校の手洗い場にて。現状より前に進むため、己の過去を乗り越えるため、影山はかつてのチームメイトと向き合っていた。金田一も予期していなかった相手との邂逅に生唾を飲み込み、辺りは蛇口から滴る水音だけが響き渡っている。

 

「……」

 

「……」

 

「…………お」

 

「謝ったりすんなよ!!」

 

「?!」

 

「俺も謝んねぇ!」

 

「…………おう」

 

 過去を精算するために紡ごうとしていた言葉を乱暴に遮られる。

 

「お前は頭ん中ではこれからも横暴な王様で、ムカつく奴で、最高にぶっ倒したい相手だ!」

 

「……おう」

 

「だから謝んな!」

 

「おう」

 

「〝ナカナオリ〟なんてしねぇ! 別に元々仲良くねぇしな!」

 

「おう」

 

「そんで次は絶対に俺達が勝つ!!」

 

 矢継ぎ早にまくし立てられるも、それを止めることはしない。お互いに思っている事は同じなため、訂正したり口を出す必要も無い。ただの事実確認と宣戦布告、それでもこの二人にとってはとても大事な工程だった。

 

 

「………次も」

 

 

 

 フンフンフーン♪ べんべんじょべーんベんじょべーん♪ おれはっだぁれ〜♪ エースッになる男〜〜

 お前それ結構な確率で歌ってるけど元ネタとかあんのか

 俺のオリジナルだ! 颯も歌うか?

 歌わねぇよ

 

 

「?!」

 

 ーー勝つのは俺だ。金田一の言葉に真っ向から返そうと、反射のように出てきた言葉は気の抜けるような会話に遮られた。廊下の向こうから近付いてきた声の主は、角を曲がった事でこちらに気付いたようで、天敵を見つけた小動物のような速さで元来た道へと隠れた。

 

「あ゛っ?!」

 

「「……」」

 

 ん? どうした翔陽

 シーッ、今向こうで因縁的なアレやってるから、入って行っちゃ行けない空気だから。あっぶねぇセーフセーフ、大丈夫気付かれてない

 ンな訳ねぇだろ、思いっきり会話中断してんじゃねぇか。とりあえず静かにしとけ

 

 

 もうお互いの会話全てが丸聞こえになっているが、この際気にしない。

 

「……金田一」

 

「?」

 

「次戦う時も、勝つのは俺達だ」

 

「!」

 

 今までお互いに気を使っていた事などない。言いたいことは全て言ってきたし、仲が良くなかったというのも嘘では無い。

 

 それでも、本当の意味で本音をぶつけ合ったのは、これが初めてだったのかもしれない。

 

 今は別々の高校に進んだ元チームメイト。今は落ちた強豪と、片や県ベスト4の正真正銘の強豪校。そんな二人が真っ当にライバルとして向き合う事が出来たのは、影山自身の変化と、それを巻き起こした周りの影響が大きかった。

 

 

 伝えたい事は既に伝えた、後は次相見える時まで鍛えるだけだ。それぞれが別の道へ進もうとも、またどこかで会う事になる。それが味方同士、あるいは敵同士で無かったとしても、それを嫌う気持ちはもうお互いに持っていなかった。

 

 

 

 

「……何、話してたの」

 

「……あいつ〝俺達〟って言ったよ」

 

「あ?」

 

「いっつも〝俺は〟〝俺が〟って一人で戦ってるみたいな言い方してたくせに」

 

「……」

 

「……くそ、何か悔しいな」

 

 過去の影山は本当にただの王様だったし、それに対する態度を改めようと思う事は無い。それに付き合い切れなくなり、あいつを見限った俺らはただの被害者で、それが正しいと思っていた。

 

 しかし、今の影山を見ていると、まだ出来ることはあったのではないか。あいつは天才だからと壁を作らず、本音をぶつけ合っていれば何かが変わっていたのではないか。過去の自分の行動に、そんな考えを持ってしまった事に、金田一は僅かばかりの後悔を抱いていた。

 

げしっ

「あだっ、何だよ?!」

 

 

 

「挨拶!!」

 

ありがとうございましたー!!

 

 

 対戦校に挨拶をすると、監督同士の終わらない挨拶が始まる。頭を下げ過ぎてもはや残像が見える勢いの監督を置いて、我々は一足先にバスへと向かう。

 

「……武田先生はああ言ってくれたけど、いくら日向と影山のコンビが優秀でも正直周りを固めるのが俺らじゃまだ弱い。……悔しいけどな」

 

 練習試合には勝利したものの、主将の表情はあまり良くない。とてもでは無いが大手を振って喜べるような試合内容では無かった。

 

「おぉ〜流石キャプテン。ちゃんと分かってるねぇ〜」

 

「!」

 

 そんな主将の呟きに肯定の意を示したのは、校門で待ち構えていた青城高校正セッター及川徹であった。

 

「ハヤテちゃんもお久〜」

 

「……お久しぶりです、徹さん」

 

「なんだコラ、やんのかコラ」

 

「そんな邪険にしないでよ〜、アイサツに来ただけじゃ〜ん」

 

 田中先輩が俺らの間を割って威嚇しているが、まるで気にも留めていない。爽やかな笑顔で受け流すと言葉を続ける。

 

「ちっちゃい君、終盤のワンタッチとブロード凄かったね」

 

「え゛っ、あっえっ、エヘへ」

 

「今日は最後の数点しか戦えなかったけど、次は最初から全開で戦ろうね」

 

 

「あ、そうそう。サーブも磨いておくからね」

 

 視線と共に告げられた言葉に、月島は思わずギョッとする。今日の練習試合で、レシーブが不得意とはいえサーブで狙われてから連続失点をしてしまった月島は悔しさを表に出していた。

 

「君らの攻撃は確かに凄かったけど、全ての始まりのレシーブがはグズグズじゃあすぐ限界が来るんじゃない? いくらキャプテン君やハヤテちゃんがレシーブ上手くても、穴が多ければ集中攻撃されてそれでオシマイ。強烈なサーブを打ってくる奴は何も俺だけじゃないしね」

 

 つらつらと並べられる事実に、反論できる内容はひとつも無かった。

 

「インハイ予選はもうすぐだ、ちゃんと生き残ってよ? 俺はこの、クソ可愛い後輩達を公式戦で正々堂々叩き潰したいんだからサ」

 

「「……」」

 

「ーーレッ、レシーブなら特訓する!!」

「?! おい離せ!」

 

 

「レシーブは一朝一夕で上達するモンじゃないよ、キャプテン君達は分かってると思うけどね。大会までもう時間は無い、どうするのか楽しみにしてるね」

 

 

 体育館に戻っていく背中を見ながら、さっきまでの講評の言葉を反芻する。確かに、今日の烏野で徹さんのサーブを上げられる可能性が高いのは俺と澤村先輩くらいだ。六人中二人、攻撃面を疎かにしてはいけないという条件下ではあまりに穴が大きい。

 

「……き、気にしないでください。あの人、ああやって人ひっかき回すの好きなだけなんです」

 

 

「……ふふっ」

 

「?!」

「大地さん?!」

 

 影山の言葉を聞いて急に笑い出す澤村先輩。

 

「……確かに、インターハイ予選まで時間は無い。けど、そろそろ戻ってくる頃なんだ」

 

 

「烏野の〝守護神〟」

 

 

 戻ってくる守護神、という話からだいたい予想がつく。恐らく澤村先輩から聞いた、問題を起こして停学になっていた選手が復帰するのだろう。

 

 

「なんだ、他にも選手居るんですか!」

 

「…………うん、居るよ」

 

「?」

 

「うぉーい! 遅くなると教頭先生に怒られるから、早く帰るよー!!」

 

 まだ事情を知らない翔陽と影山は、返事の際に影を落とした菅先輩の意図を分かりかねていた。詳細を聞く前に、いつの間にか戻っていた監督が帰りを急かす。時が来れば分かるだろうと疑問を頭の隅に追いやり、烏野へと向かうバスに乗り込むのであった。

 

 

 

「じゃあ軽く掃除して終了! お疲れした!」

 

シターーッ!!

 

 

 

「アレ見てツッキー! 立ったまま寝てる!」

 

「スゲー(笑)」

 

「おい翔陽、眠いんならもう帰れ。フラフラして危ねぇぞ」

 

 烏野体育館に戻ってきた我々は帰る前にモップがけをしてから帰る事になったのだが、試合を終えて限界を迎えている翔陽はモップを持ったまま寝ようとしていた。

 

 翔陽からモップをひったくり、残りの床を綺麗にしていく。僅かばかりの埃を拭い終えると、他の面々と共に用具室へとモップを仕舞いに向かった。

 

「ん? なんだこれ」

 

「どうした山口」

 

「あぁ風見、コレ見てよ」

 

「ンだこれ、見事に折れてんなぁ」

 

「あのー! この真っ二つのモップ、危ないから捨てちゃっていいですかー!」

 

 後ろを振り返った山口は、折れたモップを手に先輩へ質問をする。それを見た菅先輩は慌ててこちらに駆け寄ってきた。

 

「いいんだ、それは! ……直せば、また使えるだろ」

 

「? はぁーい。行こ風見」

 

「……おう」

 

 先程の慌てようや空気感を見るに、今はあまり触れない方が良いのだろう。折れたモップを見つめている菅先輩を置き、俺らは体育館を後にした。

 

 

 

「そういえば風見、お前向こうのセッターの事はさん付けだけど俺らの事は先輩呼びなんだな」

 

「いや特に気にして無かったスけど。中学の頃は君とかさん付けが多くて、なんか高校に上がってから先輩って呼んだ方が良いかなって思っただけっス」

 

「いちいち先輩って呼ぶのめんどくせぇだろ、他の奴らみたいにさん付けで呼べば?」

 

「じゃあそうさせて頂くッス、田中さん」

 

「おうおう! だが先輩って言葉の響きは好きだから、偶にはそう呼べ!」

 

 帰り道の途中、呼び方についての要望が聞き入れられたことで田中さんはいつにも増して上機嫌だった。呼び名に関しては短ければ短いほど試合中のコミュニケーションにラグが少なくなる。女子バレーではコートネームなるものまであるらしく、咄嗟に相手を呼ぶ際に先輩が付いているとほんの一瞬遅れてしまうこともあるだろう。

 そのほんの一瞬が命取りなスポーツであるバレーにおいて、それは致命的になりうる。

 

「ようしお前ら! 先輩の俺が中華まん奢ってやる!」

 

「マジっすか!」

 

アザーッス!!

 

 気分が最高潮に達した田中さんと共に、例の坂ノ下商店へと入店する。

 

 

「中華まん? さっきサッカー部の奴らが買ったのが最後だ、そんで今日はもう終了!」

 

 腹を空かせて意気揚々と入店した我々を待っていたのは、中華まんの売り切れという信じ難い現実であった。勝手に期待しそれを裏切られたためか、ぶーぶーと文句を言う始末。

 

「ウルッセェ! いつも買い占めやがって、たまには我慢しろ! さっさと帰ってちゃんとした飯を食え! 筋肉つかねぇぞ!」

 

とぼとぼ……

 

「〜〜〜〜、おらっ! それ食って寄り道しないで帰れ! そしてちゃんと飯を食え!」

 

アザーーッス!!

 

 ド正論をぶつけてくるガラの悪い金髪の店員は、しょんぼりとした背中を見せた我々に耐えかね、エナジーバーを一人一本投げつけてきた。高タンパク、低脂質と表記されたそれは、スポーツマンにとってはとてもありがたい物であった。代金を払おうにもぶっきらぼうに店を追い出されてしまったため、タダでそれを手に入れてしまった。

 

 ちゃんとした飯を食え、筋肉がつかない。エナジーバーといい、過去にスポーツでもやっていたのだろうか。乱暴ながらも確かに優しさを内包している店員に感謝を述べつつ、各々の家への帰路についた。

 

 

 

ジリリリ!!

「あいあいあい、あい坂ノ下商店」

 

「……」

 

「……またアンタかよ」

 

 ため息と共に、先程から吹かしていた煙草の煙が勢いよく口から飛び出していく。

 小さな商店の若店主は、ココ最近何度もかかってくる電話の相手に辟易としながらも、相も変わらずご丁寧に話は最後まで聞いているのであった。

 




 お絵描きにかまけて遅れましたすみません。板タブ楽し過ぎるんよ。上達したらまた載せるかもしれませんので、その時はお目汚し失礼します。
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