「お、いたいた。体育館行くの早すぎだろ飛雄」
「!……そう言うお前だってほぼ同着じゃねぇか」
「そりゃ飛雄を探して来たんだからそうなるだろ」
チャイムが放課後の開始を知らせると同時に、俺は飛雄を呼ぶため三組に訪れたが既に目的の人物は居なかった。いつも早いとは思っていたが、クラスメイトと話すこともなく真っ先に体育館へ向かっているのだろう。
「んで、何の用だよ」
キュッ パァン!
「ソレだよ。俺に教えてくんね?」
「……本気か?」
発言した本人が指差す先には、練習とは思えないほどの集中力で放たれたサーブが存在していた。
「本気も本気、ド本気よ。怪我の影響もあってジャンフロも久しくやってねぇから勘を取り戻さねぇとだし、いずれ覚えようと思ってたジャンサーのお手本がこんな近くに居るんだからよ」
「……今からやって大会までに使い物になんのかよ」
「正直わかんねぇ」
「はぁ?!」
「それでも俺にはそのサーブが必要だ。今このチームでジャンサーを打てるのはお前だけ、今抜けてる先輩も打てるらしいがそれでも二人。チームとしても手札を増やすに越したことはねぇだろ」
「…………わかった」
飛雄は数秒考え、答えを出した。どうやら俺のプレゼンは上手くいったらしい。
「それじゃ、早速お手本よろしく」
「ちゃんと見とけよ」
キュッ
エンドラインからしっかりと助走距離を確保し、ボールを丁寧にトスする。何百、何千と積み重ねてきたであろうその行動は洗礼されており、上げられたボールは綺麗な放物線を描いて宙に浮いている。
キュッ!
力強く踏み込んだ飛雄は、跳んだままエンドラインを越えボールを見据える。強靭な体幹で空中姿勢を維持し、
パァン!
ミートポイントへと降りてきたボールを強かに打ち付けた。白帯スレスレを通り、目印として置かれたペットポトルへと着弾……する寸前に横から影が滑り込んでくる。
「うぎっ!」
バカガァァン!
「おい邪魔すんなボゲ日向ボゲェ! 今当たったかもしんねぇのに!」
「取った?! 俺取った?!」
「取れてねぇよボゲェ! ホームランだアホォ!!」
驚くべきスピードで乱入してきた影の正体は翔陽であった。持ち前の反射神経でサーブの正面に入ったはいいものの、技術も身体も未だ発展途上の細腕は飛雄のサーブによって轟音と共に軽々と弾き飛ばされた。
「今のはナシだ、もっぺん見とけ」
「……頼む」
「……!」
あまりにもギラついた視線を向けられ、思わず飛雄は息を呑む。一秒たりとも見逃してたまるかと言わんばかりに突き刺さる視線は、ある種のプレッシャーとなり飛雄を襲う。
キュッ
それでも試合中を想定すればこの程度のプレッシャーはまだ生ぬるい。同じようにトスを上げ同じようにスパイクモーションへと移る。
ドッ!
一度邪魔されたからか、先程よりも力の籠ったサーブが飛んでいく……。
しかし、それはまたもコートに突き刺さることは無かった。
翔陽と同じくらい、いやもっと身長の低い乱入者は、サーブの真下へ綺麗にポジショニングをする。
ドッ……
「?!」
身体を丸め、全身の筋肉を使ってボールの勢いと回転を完全に殺した。レシーブの際に発生した音の静かさから、その人物の技量の高さが伺える。
ふわりと上がったボールは、しっかりセッターの居る位置へと返球される。
(停学中の先輩って夕さんだったのか……)
「すっげぇサーブじゃねぇか! すげぇやつ入ってきたな!」
渾身のサーブを軽々と上げられた事に困惑している飛雄と、状況についていけない翔陽、そして中学時代の知り合いと思わぬ再会を果たした俺ら三人は夕さんの勢いに押されたまんまなのであった。
「おぉー! ノヤっさぁーん!!」
「おー! 龍ー!」
「「西谷!!」」
「ちわーっす!」
大地さん、菅さん、田中さんの三人が体育館へ合流すると同時に、この空気を作り上げた元凶へ嬉しそうに声をかける。
「お久しぶりです夕さん。音駒中の風見颯です。」
「おぉ、颯! なんでお前烏野に居るんだ? そのまま音駒行ったのかと思ったんじゃねぇのか?」
「いやまぁ、色々ありまして」
「……そうか! これからよろしくな!」
強豪の千鳥山中出身のリベロ、西谷夕。中学の全国大会で苦しめられたのをよく覚えている。今の俺のレシーブは、彼と音駒の先輩方を参考に出来上がっているのだ。
「お、お……」
「どうした日向」
懐かしい再会もつかの間、翔陽が心底驚いた表情を浮かべ何かを言おうとしている。
「俺より小さい?!」
「あ゛あ゛?! てめぇ今なんつったゴラァ!」
「あっ、ごめんなさい……」
初対面にしてはあまりに失礼な物言いに夕さんは怒りを顕にする。その剣幕に翔陽はビクビクと震えるも、彼の中の好奇心がそれを上回る。
「あのっ、身長、何センチですか……?」
「あ゛あ゛?! 159センチだ!!」
「うぉぉ……」
「な、なんだよ」
「高校の部活入って初めて人を見下ろしましたっ」
「対して見下ろしてもねぇだろ泣いて喜ぶな!!」
日向の失礼な邂逅も一段落し、彼はゆっくりと我々に向き直る。
「颯とお前は良いとして、さっきのサーブの奴! そのデカくて目つきの悪い颯じゃない方! お前どこ中だ!」
「……北川第一です」
「マジか強豪じゃねぇか! 通りであのサーブか、俺中学ん時当たって2-1で負けたぞ!」
「え?! そうなの?!」
「おう! そん時もサーブすげぇ奴がいてよォ!!」
「声でかいなぁ」
「相変わらずうるさい」
「変わんないっすねぇ」
飛雄が北一出身と聞いてテンションを上げている夕さんだが、彼もまた強豪出身者。それが何故烏野に来ているのか、気になるのは俺だけではないだろう。
「そういえば夕さんは何故烏野に?」
「……俺が烏野に来たのは」
「……?」
「女子の制服が好みだったからだ。凄く!」
「……」
出てきた言葉は想像の斜め上なのか下なのか分からない内容であった。
「もちろん女子自体も期待を裏切らなかったが、男子が黒の学ランなのもデカかった! 俺中学がブレザーでよぉ、学ランにすげぇ憧れてたんだよー! 茶とかグレーじゃなく黒な!」
「わかる!」
「な!!」
「そしたら烏野は黒学ランだし、女子も制服カワイイし、家も近いし迷わず決めたね!」
自分の中の夕さん像がどんどんと崩れていく気がする。まぁ大会当日とその後少し話してアドバイスもらった程度で、勝手に想像してた俺が悪いのだが。
あ、今度はマネージャーに突っ込んで行った。
「相変わらず嵐のようだな……」
「夕さんって普段はあんな感じなんスね」
「ははは! 喧しいだろ!……でも、プレーはびっくりするくらい静かなんだ」
それは間違いない。彼のアンダーレシーブのボールコントロール能力は中学とはいえ全国でもトップクラスだった。まるでボールが腕に吸い付いているようなレシーブは、未だ記憶から離れない。
「ーーで、旭さんは? 戻ってますか?」
「………………いや」
「!! ーーーあの根性なし……!!」
今までの楽しげな雰囲気が一変する。夕さんの口から放たれた強い言葉に、先輩方全員は気まずそうな様子だ。
「こらノヤ!! エースをそんな風に言うんじゃねぇ!」
「うるせぇ! 根性無しは根性無しだっ!! 前にも言った通り、旭さんが戻んないなら俺も戻んねぇ!!」
ガラララ バァン!!
そう言い残して夕さんは体育館から出ていった。
「……なんですか?」
「悪い、西谷とうちのエースの間にはちょっと問題が生じていてだな……」
(これはまた、一難去ってまた一難ってやつか……?)
まだ入部から数週間だというのに、解決すべき問題が多すぎる。
「……さぁーて、どうしたもんかね」
お久しぶりです。投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。ハイキューという作品があまりに完成されていて、オリ主という存在がどうしても異物になってしまいそうで、ずっと構想を悩んでいました。それでも映画を見てやはり描きたくなってしまいましたのでとりあえず続きます。
これからも不定期という形にはなりますが頑張りたいと思います。