疾風に乗せて   作:狭間です

16 / 18
【15】古き因縁

 

 

レシーブ教えてください!!

 

「なんだなんだ?」

 

「多分翔陽ッスね」

 

 体育館からいつの間にか姿を消していた翔陽は、今まさに出ていった夕さんを追いかけて行ったらしい。外からバカでかい声が聞こえてくる。

 

「多分大丈夫だと思いますが、様子見に行っても良いスか?」

 

「おお、俺達も行く」

 

 

 階段の影から様子を伺うと、何やら低身長コンビ(失礼)で話をしているようだ。

 

「だってリベロは小さいからやるポジションじゃなくて、レシーブが上手いからやれるポジションでしょ? あっ、ですよね?」

 

「お前……よく分かってんじゃねぇか」

 

「あとキャプテンが〝守護神〟って言ってたし!」

 

「えっ、しゅっ、なんだソレ、そんな大袈裟な呼び方されても俺は別にっ……ホントに言ってた?」

 

「言ってました!」

 

 翔陽の言葉に夕さんは嬉しさを隠しきれず何やらずっとそわそわしている。

 

「おれ、まだレシーブ下手くそで……。バレーボールで一番大切なトコなのに……」

 

「……」

 

「だからレシーブ教えてください! 西谷先輩!」

 

「!!!」

 

 翔陽の先輩という呼び方がトドメになったようで、夕さんは見るからに心を打たれたようだ。

 

 どうやら翔陽は彼のお眼鏡にかなったようで、練習後のアイス奢りと、レシーブ練習の約束を得ることが出来たのであった。

 

 

 

「だからよーお前らよーサッと行ってスッとやってポンだよ」

 

「「「???」」」

 

「やっぱりコレは変わんないっスね」

 

 実際に俺がアドバイス貰った時もこんな感じだったな。感覚でやってる人だから説明するのは不得意なのかもしれない。だから自分から一つ一つ分解して聞いて、その都度答えを貰うことで何とか解読に成功したのを思い出した。

 

「あの……西谷さん」

 

「?」

 

「旭さんって誰ですか?」

 

 商用の純粋な問にまたも夕さんは視線を鋭くする。また機嫌を損ねて出ていってしまうことを危惧した田中さんが心配するも、どうやらそれは杞憂のようだった。

 

「……烏野のエースだ、一応な」

 

「……オレ、エースになりたいんです!」

 

「あ?」

 

「あいつまだあんな事……!」

 

「何年か前の〝春高〟で烏野のエース、小さな巨人を見てから絶対ああいう風になるって思って烏野来ました!」

 

「……その身長で、エース?」

 

 

 

「いいなお前! だよな! カッコイイからやりてぇんだよな! いいぞいいぞなれなれエースなれ!」

 

「けどやっぱ憧れと言えばエースかぁ……〝エース〟って響きがもうカッコイイもんなちくしょう」

 

「ハイ! エースカッコイイデス!」

 

「けどよ、試合中一番盛り上がるのは、どんなすげぇスパイクよりスーパーレシーブが出た時だぜ」

 

「高さ勝負のバレーボールで、小さな選手でもやれるのがリベロかもしれねぇ。でも俺は、たとえ身長が2メートルあってもリベロをやる」

 

「スパイクやブロックが出来なくても、ボールが落ちなければバレーボールは負けない。そんでそれが一番できるのが、リベロだ」

 

 ……こういう本質的な話になると途端に語彙力が高くなるんだよな夕さんって。音駒に居た頃からこの教訓は嫌という程味わってきた。どれだけ強力なスパイクを打つ相手が居ようが、床に落ちなければ得点にはならない。それをこの歳で理解しながら実際にやれる人間は、この世に何人いるだろうか。

 

「ーーで、お前の特技は?〝エース志望〟」

 

「えっ」

 

「レシーブはへったくそだしな、なんかあんだろ」

 

「……お、囮……」

 

「? なんでそんな自信なさげに言うんだ」

 

「エースとか守護神とかと比べてなんかパッとしないっていうか……」

 

「呼び方なんて関係ねぇだろ、お前の囮のおかげで誰かのスパイクが決まるなら、お前のポジションだって重要さは変わんねぇよ」

 

「……ハイ」

 

「まぁ俺お前の試合見てねぇし、その囮がしょぼかったら意味ねぇけどな!!」

 

 そう言って夕さんは翔陽の肩をバシバシと叩く。

 

 しかし、囮という響きに翔陽はまだあまりピンと来ていないようだ。今の翔陽はまだバレーボールというスポーツを深く知らないが故、表面的な魅力ばかりに囚われてしまう。それでもレシーブが一番大事だと理解しているあたり、本能的に感じることはできるのだろう。

 いずれその本能を理解し、バレーボールというスポーツに真の意味で触れた時に、お前の世界はまた一段と面白くなるだろうよ、翔陽。

 

 

 

 

 

「しつこいなぁ先生」

 

「……ハイ、それだけが取り柄です」

 

 場所は変わり商店街の一角。学校教師とタバコを吹かす金髪の若者という全くもって非対称な二人が顔を合わせ話していた。

 

「何回言われてもコーチなんかやんねぇよ。監督やってたのは俺の爺さんであって、俺は人に教えるなんてガラじゃねぇ」

 

「……烏養繋心君、君は高校でも大学でも後輩指導に長けていたと聞いています。それから相手校の分析も鋭かったと、才能じゃないですか」

 

「誰だそんなこと喋った奴……、けどそんな風に褒めたって所詮俺は若造、あんたが欲しいのは技術指導者というのもあるが、何より〝名将烏養〟の名前だろ?」

 

「……正直に言えばそうです、烏養監督が退かれてから他校とは段々と疎遠になり、悔しいですが、今年穴埋めで入った素人の僕なんかではなかなか練習試合もとりつけられないんです」

 

「〝名将〟の名前があればそれも変わるかもってか?」

 

「……」

 

「けど俺はクソめんどくさい高校生のお守りなんかごめんだね」

 

「……また改めて来ます」

 

「だからやんねぇつってんだろ」

 

「しつこくしてすみません、でも……」

 

「?」

 

 

「あの子らの試合を見て貰えたらその理由も分かって貰えると思うんです……失礼します」

 

 

「…………」

 

 先程まで手持ちの少年誌に注がれていた若者の視線は、素人監督である彼の言葉を聞いて、いつの間にかその背に向けられているのだった。

 

 

 

 

「お疲れ様ー!」

 

「! 集合!」

 

オーッス!!!

 

 

「みんな今年もやるんだよね! GW合宿!」

 

「ハイ、まだまだ練習が足りないですから」

 

「それでね……GW合宿最終日! 練習試合組めました!!」

 

!!!

 

 体育館から入ってくる際、妙に嬉しそうな雰囲気を出していた監督だったが、そういうことだったか。それにしてもこの人のバイタリティには本当に頭が上がらないな。

 

「頼もしいな武ちゃん!! どうしたっ!」

 

「あ、相手は……?!」

 

 まるで友達と接するかのようにフランクな田中さんの言葉も意に介さず、緊張した面持ちで告げる。

 

「東京の古豪〝音駒高校〟です」

 

「!」

 

「? 東京? ねこま?」

 

「音駒ってあの……烏野と因縁のライバルだったっていう?」

 

「うん! 確か通称ーー〝ネコ〟」

 

 まさか烏野と音駒にそんな因縁があったとは。俺が音駒中にいた時にはそんな話聞いた事も無かった。ということはココ最近は疎遠になっていたのだろう。それなのに今になって練習試合を組んでくれることになるとは。

 

「俺らも話だけはよく聞いててよ、前の監督同士が昔からのライバルで、前はよく遠征に行ってたんだってよ」

 

「実力が近くて相性も良かったから遠出する価値があるくらいのいい練習試合だったそうだ。練習試合があると近所の人は皆見に行ったらしいよ。名勝負!〝猫対烏ゴミ捨て場の決戦〟つって」

 

「それ本当に名勝負だったんですか?」

 

「俺達もいつかは戦ってみたいってたまに皆で話してたんだ」

 

「でもここしばらく接点無かったのにどうして今?」

 

「うん、詳しいことはまた話すけど、音駒っていう好敵手の存在を聞いて、どうしても因縁の再戦をやりたかったんだ。それに相手が音駒高校となれば、きっと彼も動くハズ」

 

「?」

 

 それにしても音駒か。懐かしい顔ぶれに会える反面、次はお互い県代表でって言った手前なんだか恥ずかしいな。

 

「ねこま……なんかどっかで最近聞いた事あるような」

 

「そりゃそうだろ翔陽、俺音駒中出身だもん」

 

!!!

 

「雪ヶ丘中の前って音駒だったのかお前!」

 

「? あれ皆さんに言ってませんでしたっけ、夕さんと知り合ったのも音駒中で全国行った時ッスよ」

 

「うわぁそういえばそんなこと言ってたかも、全然聞いてなかったわ」

 

「入部の時は雪ヶ丘中から来た謎の上手いプレイヤーって印象だったしな……」

 

「よし! まぁ何はともあれせっかくの練習試合だ、無駄にしないように練習も合宿も気合いいれんぞ!!」

 

オーッス!!

 

 

 

……大地さん、俺練習試合出ません

 

 再び練習に向かおうとした矢先、三年の先輩方寄りに立っていた俺の耳にそな言葉が飛び込んできた。どうやら他の奴らは気付いていないようだ。

 

(アサヒさんねぇ……そこまで言われると俺もちょっと気になってくるな。明日にでも烏野のエースに会いに行ってみるか)

 

 

「お疲れした!」

 

シターー!!

 

「わりぃ翔陽、今日ちょっと用事あっから先に帰るわ」

 

「おう! じゃあな颯!」

 

「お先に失礼します!」

 

「気をつけて帰れよー」

 

 先輩方の言葉を尻目に、俺は足早に駐輪場へと向かう。何やら郵便で荷物が届くらしいのだが、今日は両親ともに不在。受け取り時間まで結構ギリだから急がないとな。

 

「ん? あれ、谷地さん?」

 

「ヒィィャァァ!?」

 

「うぉ! びっくりした」

 

 校門を出ようとした時に見覚えのある後ろ姿に声をかけたら、予想の倍近い声量が帰ってきたため思わずたじろいでしまった。

 

「ごめんごめん、急に声掛けて」

 

「い、いえ! 本当にすみません!!」

 

「いいって、谷地さんは今から帰るの? 随分遅いじゃん」

 

「えぇっと、先生から頼まれてた用事がちょっと時間かかっちゃって、それで気付いたらこんな時間に」

 

「そっかそっか、夜道は暗いし送っていきたいけど俺も用事あるからさ、先に帰らせて貰うわ、ごめんね?」

 

「いえいえ滅相もありません! わたくしめがそんな送っていただくなど恐れ多くてもうーー」

 

「夜道を女の子一人で帰らせるってのは世間一般では男側が糾弾される事のはずなんだけど……やべ、そろそろマジで急がないと。それじゃ谷地さん! 気をつけて!」

 

「アッハイ! 風見君も気をつけて……って早っ?!」

 

 

翌日

 

 

「ちわす!」

 

「……? ちわーす」

 

 なんかでけぇ先生だな。あんな人居たか? 廊下ですれ違ったから思わず挨拶したけど……まぁいいや、俺の目的は先生じゃない。

 

「ちわす、1年の風見です。アサヒ先輩っていらっしゃいますか?」

 

「お、風見も来たのか」

 

「菅さんちわす……〝も〟?」

 

「ついさっき日向と影山も旭に話しに来てたんだよ」

 

「マジすか、一歩出遅れたかな……それで噂のアサヒさんはどこに?」

 

「ちょうど今出てった所だけど、すれ違わなかった?」

 

「いやー多分見てないっすね」

 

「そっか、悪いなわざわざ来てくれたのに」

 

「いや全然大丈夫ッス、それじゃ失礼します」

 

 おっかしぃな。話しぶりだとついさっきまで居たっぽいんだが……そんな日もあるか。とりあえず部室行くべ。

 

 




 感想評価等お待ちしております。あと何かリクエストとかあれば書ける範疇で書くかも知れません、お気軽にどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。