「影山飛雄……!」
「……お前らは……去年の…………名前は知らない」
「お、俺は日向翔陽だっ。どっ、どうせ1回戦で負かしたチームの事なんて覚えてないだろうけど、俺は」
「お前達のことは、よく覚えてる」
どもりながらも抵抗していた翔陽を睨み続けている影山。確かに、割と印象深い別れ際ではあったからな。
「クソ下手くそな奴と意味不明な奴!!」
どんな印象だよ。
……ただ、まだ最初の疑問が解消されていない。
「んで、強豪校からお呼びがかかりそうなお前が、何でここに居んだよ」
「…………県内一の強豪校には、落ちた」
「!?」
「ブフォッ!」
蹴ったとかなら分かるが、自信満々に言うことでは無いだろう。尊大な顔を崩さぬまま影山はそう言い放った。
バレーIQが高かったとしても学力に直結する訳では無いのだが、本当にコイツはバレー以外の事は頭に無いらしい。
「落ちた?! コート上の王様なのに?!」
「……おい、その呼び方……やめろ」
翔陽のリアクションが、影山の琴線に触れてしまったらしい。元から悪い目付きが更に悪くなったことで、根が小心者である翔陽はそれはもうビビり散らかしている。
気付けばそろそろ部活の開始時間が近付いている。
経緯はどうであれ、同じチームでやっていくことになったんだ。あまり険悪なムードでいるのも良くない。
「おい、それくらいにーー」
「いやぁ、まさか北川第一のセッターが烏野にねぇ〜!」
ザッザッザッ
「ぜってぇ生意気っすよそいつ!」
「田中……お前誰彼構わず威嚇する癖やめろよ」
「そっ、そんなことしないっスよ!」
体育館の外から、気配と共に話し声が近付いてくる。
「「チワスッ!」」
「おース」
中学時代の習慣は抜けていないようで、先輩への挨拶はもう体が覚えている。三人並んで入ってきた先輩方に、身長では俺らの方がデカいはずなのだがそれとはまた違った大きさを感じた。
「影山と……風見だな」
「オス」
「……ウッス」
ーー驚いた。影山の事は先程話題にもしていたから、当然知っているだろうと思っていたが、まさか俺の事まで把握していたとは。
「よく来たな!」
「おぉ……去年よりデカくなってる」
「こういうのは最初が肝心ッスからね、スガさん! 舐められないようこう、ガッと行ったってください!」
「おい田中……お前たち、身長いくつだ?」
「「180です」」
「「おー」」
「あっ、あのっ、チワスッ!!」
「あ゛?」
俺らが先輩方に詰め寄られている間、その身長故だろうか、特徴的なオレンジ髪を持っているのにも関わらず脇に追いやられ気付かれることのなかった翔陽が声を発した。
「っ! あっ、おっ、お前……!! チビの1番!!!」
「えっ?!」
「マジか!」
「日向って、お前だったのか!」
「えっ?! あっあのっ」
先輩の一人が入部届けを見ながら確認している。
「いやぁ、驚いたな。そうかーー」
「お前ら三人とも烏野か……!」
何か感慨深そうな表情をする先輩だったが、その意図を俺は知ることは無い。
「風見! レフト!」
「はいっ!」
スッ…ドンッ!
「やるじゃねぇか!」
「トスもレシーブもスパイクも、俺はバレーの全部がやりたいんで。田中先輩もスパイクのパワーかなりありますよね、今度教えてくださいよ」
「先……輩?」
「おーい田中、浸ってないで早く退けよー」
「っ! すんません!」
(……なかなかレベルが高いな)
俺らが入部したここ烏野高校は、以前は全国にも名を連ねる程の成績を残していたらしい。だが、最近はめっきりその名を聞かなくなり、落ちた強豪飛べない烏などと揶揄されているようだ。
なので部員のレベルにはあまり期待していなかったが、先輩方の動きを見てその心配はあっさりと砕け散った。
しかしーー
「にしても、今日他の先輩方は休みッスか? 何だか人数少ないような気がするんですけど。それに監督も遅くないですかね」
「あー……それはだな」
「?」
……どうやら話は簡単では無いらしい。まだ俺が入部初日というのを気遣って、端的に教えて貰った。
曰く、今日は顔見せだけなので代表の三人だけが来た。
曰く、監督は持病の悪化で入院中。代理の先生はバレー経験が無いので、自分たちでメニューを考え活動している。
曰く、部内で喧嘩があったらしく、停学になっている部員がいる。
「……癖強いッスね」
「まぁな」
……何とかなるだろうの精神でやっていくしかないな。
「大地、そろそろ時間」
「そうか、おーし今日はこんなもんにして帰んべ」
体育館の窓から見える外は、既にだいぶ暗くなっていた。終了時間が近付いてきたので、全員でネットとボールを片し、隅の方で着替えを済ませる。
「……あの、アイツらどうなります?」
「言っただろ? チームとしての自覚が芽生えるまでは練習に参加させないし、入部もさせない」
そうお気付きの方もいるだろう。先程からあのうるさい二人組が一切会話に参加していなかった事を。
事の経緯は練習前まで遡る。
影山と翔陽が入学時代の因縁もあり、部活開始前に対決をすることになった。影山のジャンプサーブを翔陽がレシーブ、しようとするもそもそもレシーブが苦手な翔陽は大きくボールを弾かせる。
それがたまたまやってきた教頭の頭にクリーンヒット。倒れる教頭。吹き飛ぶカツラ。凍る空気。
見てしまった内容に緘口令がしかれ、何とかお咎め無しということになったのだが……。
教頭が去った後も喧嘩を続けていた両名。俺の仲裁も意味が無く、遂に澤村先輩がブチ切れ。
チームとしての自覚が芽生えるまで入部させないと言い、アイツらを体育館から締め出したのだった。
「別に仲良くなれって言ってる訳じゃない。せめてチームとして最低限コミュニケーションが取れるレベルまで行ってくれれば良いんだけどな」
「アイツらのことッスから、勝負して勝ったら入部させて下さいとか言いそうっスよね!」
「まさか、そんなこと」
「「失礼シヤッス!!」」
体育館の扉が開かれ、件の二人が入ってくる。
「反省したか? ならこれからはお互いーー」
……せーのっ
「「俺たちと勝負して、勝ったら入部を許して下さい!!」」
「ギャハハハ!! こいつらマジで言いやがった!!」
「……」
非常に残念なことに、予想通りバカ二人はそんな事を言い出した。
頭を抱える俺と澤村先輩。爆笑している田中先輩と菅先輩。
その後、澤村先輩によってその勝負が了承された事で、二人は体育館から出ていく。
「……本当に良かったんスか?」
「ああでもしないとアイツら協調性とか見せないだろうしな」
「何か、すまんせん」
中学からの親友が入部初日から先輩に迷惑をかけている現状がちょっと耐えられない。
「それなら、土曜にやる四対四のミニゲーム、影山日向ペアと一緒に風見も入ってくれ」
「え゛」
「おっ、それ面白そうじゃん」
「……わかりました」
「ん゛ん゛っ、そういえば、明日の朝練も七時からですよねーっ?!」
「えっ、うんそうだけど、どうしたんだ急に」
「えっ?! いやぁ、ハハ! あっ! 教頭のズラは無事だったんスかね?!」
「おい?! その話題はヤメロよ?!」
まだ外に居る二人を見つけ、不自然に声を上げる田中先輩の意図を理解した。
四体四か……。ゲーム練が出来るのは嬉しいのだが、如何せん状況が面倒くさ過ぎる。ただでさえ問題児が二人いるのに、そこにまた面倒な条件まで付けられた。
あまり気乗りはしないが、やれる事はやろう。
「田中先輩!」
「おう、風見。お前まだ帰ってなかったのか」
下校する際、鍵の管理を申し出たことで一人になった田中先輩を探し声をかける。
「さっきのアレ、外にいる二人に向けて言ったんスよね」
「まぁな。多分五時半くらいには来るだろ」
「……いや多分五時には体育館前に居ると思いますよ」
「……マジかよ」
若干引いている先輩に心の中で再度謝りながら、俺も言葉を続ける。
「明日、俺も参加するんでよろしくお願いします」
「おう、来い来い。やる気のあるやつは歓迎だ!」
「初日からいきなり迷惑かけてすんません……」
「いいってことよ! それじゃあ明日朝五時、遅刻すんなよ!」
「了解ッス、お疲れ様です」
すっかり暗くなった山道をチャリで走り抜けていく。かなりの距離があるが、これはこれでいいトレーニングになる。
初日からだいぶ濃い一日だったが、こうして俺の高校バレー生活が始まった。
まだ書き方が定まって無いですが何とか頑張ります。漫画みたいにキャラの紹介入れるか迷ったのですが、主人公の一人称視点が多めなのでなかなか難しいですね。