「おい、風見」
「んぁ? 影山か、何か用か?」
木曜の昼休み、他クラスであったはずの影山が何故か俺の机の前に居た。
「土曜の四対四、お前と田中さんにトスを集める」
「……翔陽はどうすんだよ」
「俺はアイツが勝つために必要だとは思わない」
「まだそんなこと言ってんのかよ」
「……」
お互いの視線が交錯するも、どちらも引くつもりは無いらしい。
「バレーは一人じゃ出来ねぇんだぞ」
「そんなことーー」
「分かってねぇよ」
「っ!!」
「俺らは、お前を倒すためにこの学校に来たんだ、最強の敵であるお前をな。それが何の因果か同じ高校に入学して同じチームになっちまった」
「だったら俺らはもう仲間だろ。仲間を簡単に切り捨ててどうする」
「……」
「それに、やると決めた翔陽はしぶてぇぞ?」
もうこれ以上話すことは無い。
影山が変わらなかったらそれまでだが、コイツなら俺の言いたい事が分かっただろう。中学最後の試合で、俺らと戦ったコイツなら。
喧嘩かと、ヒソヒソと周りから声が聞こえてくる。序盤からクラス内の印象が最悪になりつつある事実に、俺の心中は既にボロボロであった。何かを考えながら教室を出ていく影山を見て、これからどうやって挽回していこうかという思考を頭の中で働かせることしか出来なかった。
そして今は土曜日。
あの出来事の翌日、日向は何とか影山を認めさせ、ようやくトスを上げてもらった後嘔吐してダウン。とりあえず最低限の連携が取れそうということで迎えた四対四当日。朝練の1時間前だと言うのに、部員のほとんどが集まっていた。
「はい、これ」
「お、清水先輩アザス」
マネージャーからビブスを受け取り、ゲームに向けてアップを始める。
「風見クンは向こうのチームなんだね」
「月島達が相手か、よろしく頼むぜ」
「あの人たちにも言ったけど、そっちは入部がかかってるけど僕達勝敗に拘りないからさ、手抜いてあげよっか?」
「……んなつまんねぇことすんなよ? こちとらいつでも本気だ、テキトーにやってっと怪我すんぞ」
「……あっそ」
最初会った時とは随分様子が違うな、こっちが素か。
「よーし、じゃあ始めるぞ! 月島達の方には俺とスガが入るからーー」
「えぇっ?! キャプテン達がっ?!」
「ははは、大丈夫。攻撃力なら田中や風見の方が上だから! でも手は抜かないぞ!」
「あー……オホン」
相手チームに澤村先輩が入るということで翔陽が動揺するも、帰ってきた返事にひとまず安心したらしい。だが、それを見た月島はわざとらしく声を出す。
「小さい方と田中さん、あと風見クン、誰を先に潰……抑えましょうかぁ?」
「あっそうそう! 王様の負けるところも見てみたいですよねぇ?」
「特に、家来たちに見放されて一人ぼっちになった王様が見物ですよね」
何かと言い出すのかと思えば、思いっきり煽られた。どうやらこちらの冷静さを欠かせようとしているらしい、月島は慌てる山口を意に介さず、そんな二人を見て澤村先輩は苦笑いしている。
こんな事でいちいち目くじらを立てていたらキリが無いだろう。特に田中さんは二年生、こんな事まったく気にせずゲームに集中ーー
「ねぇねぇっ、今の聞いたァ?? あ〜んなこと言っちゃって。月島クンってばもうホント」
集……中。
「擂り潰す!!」
……どうやら効果はテキメンだったらしい。
四対四 試合開始
「そぉぉぉらぁぁぁ!!!」
ドガガッ!
「ナイスキーッス! 田中先輩!」
おぉ!! あのデカい一年吹っ飛ばした!
(……練習の時よりパワー上がってないか?)
開始直後一点を決めた田中先輩はテンションがオーバーフローしたからか、練習着を脱いでブンブンと振り回している。煽りに反応した時はどうしたものかと思ったが、彼にとってはそれもパワーを出すための原動力に過ぎないらしい。
観戦している先輩からのヤジを聞きながら、次のボールへと意識を向ける。
「オーライ!」
「日向!!」
フワッ
キュ キュッ グワッ
小さな身長からは想像できないほど高く跳躍する翔陽。俺らは見慣れているが、初めて見る人にとってはかなりの驚きだろう。
このままスパイクを決めてくれれば言うことは無いのだが。
バヂィッ!!
高い打点から放たれた翔陽のスパイクは、同じく高い壁に阻まれることになる。
「昨日もビックリしたけど、君良く跳ぶねぇ! あとほんの30cmくらい身長があればスターになれてたかもね」
「もっ、もう一本!!」
いくら影山のトスが上手くても、今は四対四という状況。オープントスしか合わせていない俺らは必ずブロックと対峙しなくてはならない。
ブロック対面での経験が圧倒的に足りていない日向にとって、それは中学の苦い思い出を繰り返す結果になる。
あー、またブロックか
あらら……
田中と風見の方はけっこう決まってるんだけどな
月島のブロックが想像以上に上手い。
ウイングスパイカーとしての経験がある俺や田中先輩は、一枚ブロックならば決めることはそう難しくない。ただしっかりとコースを切りつつ、なおかつ高さのあるブロックのためやり辛さを感じる場面もある。
そんな壁に日向のスパイクは、為す術なく地面へと叩き落とされる。
「ほらほら、ブロックにかかりっぱなしだよ? 〝王様のトス〟やればいいじゃん、敵もろとも味方も置き去りにしちゃうヤツ」
月島の言葉に影山は俯く。サーブをミスった山口に舌打ちで返す月島に、影山は声をかけた。
「早い攻撃なんか使わなくても……勝ってやるよ」
「いけーっ殺人サーブ!!」
「……ナイッサー」
確かに影山のジャンプサーブは強力だ。中学時代はアイツのサーブを取れるヤツはそうそう居なかっただろう。でもそれは、あくまで中学バレーでの話。
キュキュッ ボッ!
「っ?!」
ドッ フワッ
「山口」
「任せろツッキー!」
ドドッ!
かなりの速度で打ち出された影山のサーブは、澤村先輩の方へと向かっていった。コースは悪くない、決まったと思った瞬間。素早く足を動かしサーブの落下点へと潜り込んだ澤村先輩は、影山のサーブを難なくレシーブした。
「何点か稼げると思ったか?」
返しのスパイクも決められ、呆気に取られている影山に先輩は言った。
「……突出した才能は無くとも、二年分お前らより長く身体に刷り込んで来たレシーブだ」
その先輩の顔は、今までに培ってきた経験による自信で満ち溢れていた。
「……やっぱ、先輩ってヤツはすげぇな」
落ちた強豪と揶揄され、どれだけ悔しい思いをしてきたのだろうか。それでもこの人は諦めず、日々努力をし続けていたのだろう。
悲痛な表情を浮かべている影山の横で、俺は改めて先輩というモノの存在に対して畏敬の念を抱く。
「そう簡単に、崩せると思うなよ」
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