目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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だって誰も濁スカのSS書かないから!


※最終的に胴体着陸します


第一話

 

 

ザバーン。

 

水の音が聞こえる。

 

ザバーン。

 

岩を打っては引いて、飛沫を弾いては引いて、また打つ。

 

どこか心安らぐような、原始的な音。

単調に繰り返される、大自然の大合唱。

 

ザバーン、ザバーン。

 

はて。

なぜ海の音がするのだろうか。

 

ザバーン、ザバーン。

 

顔にかかる水しぶきはしょっぱい。

僅かな磯の匂いが鼻をついて、少しだけ息が詰まる。

 

全身がやけに痛む。

 

「……ぐぇ」

 

冷てぇ。

 

目を開くと、俺の顔はゴツゴツとした岩に密着していることに気が付いた。

濡れた岩に手をついて体を起こそうとしたが、苔に滑って突っ伏す。顔面を強打して痛いし、体の節々もやけに痛い。

 

ザバーン。

 

「ぶはっ」

 

一際大きな波がやってきて、全力で俺の顔をぶっ叩いていった。

 

目覚めろと言われているかのような海の洗礼を受けて、しぶしぶ起き上がることにする。

塩分多めだが洗顔代わりだ。冷えた海水が俺の眠気をごっそり洗い流していったから、今度は滑らないようにしつつ体を起こす。

 

「……海だ」

 

一面の海だ。

 

黒々とした水が押し寄せて、そして引いていく。

俺が座る岩場にぶつかった波が砕けて飛沫になって、それが俺の顔にかかる水の正体だった。

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

全身が痛んで仕方ないのは、俺が岩場で寝ていたからだろうか?

確かに、うっかりアスファルトの上で眠りこけてしまったときと同じような感覚だ。

 

全身を解すように体を捻ると、各所からバキバキと快音が聞こえてきた。

 

 

一面の海。

どうにも人の手が入っていない岩場。

 

ぐるりと地平線を見回すが、船や人影はおろかブイすら浮いていない。

海岸線沿いには砂浜が続いているように見えるが、少なくとも海水浴場ではないのは確かだろう。

 

「……どこだよ、ここ」

 

タチの悪いドッキリかな?

 

そう思うが、どうにも記憶が定まらない。

ここに来る前に俺は何をしていたんだっけ?

 

最後の記憶を思い出そうとして、ズキズキと頭が痛むから止めておいた。

ちなみに物理的な痛みだ。たぶん岩を枕にして寝ていたのが良くなかったんだと思う。

 

 

ふと、光が差す。

空を見上げると、雲が流れていた。

 

どうやら今は夜のようで、月明かりが見えているらしい。

 

そうして雲がどかされた先には、()()()()()()()

 

「???????」

 

これは……どういうことだ?

 

俺が知っている月が分裂したのか?

それとも元から二つだったのを俺が知らなかっただけか?

隠されていた本来の姿が顕になったのか?

 

赤い月ですか? 儀式の秘匿が破られちゃったんですか?

獣狩りの夜でも始まるんです?

 

馬鹿みたいに口を開いて呆然と空を見上げる俺の顔は、なかなか阿呆なものだったと思う。

 

ザバーン。

冷静になれと言わんばかりに、大きな波がやってきて俺の顔をぶっ叩いていった。

 

「……は?」

 

訳が分からん。

 

俺はどこにいるんだ。

俺は誰だ。

あなたは今どこで何をしているんだ。

 

「知らない天井()だ……」

 

幸いなことに、冗談を言えるだけの精神的余地は残されていたらしい。

 

 

「〜♪」

 

 

そうやって突っ立っていたら、ふと後ろの方から聞こえる声があった。

 

歌声、だろうか。

ハミングのような、それでいて意味を持つ言葉が聞こえてくるような、不思議な音。

 

低くゆったりとしたメロディーは、ひどく落ち着いていた。

 

 

慌てて振り向く。

 

そこにいるのがあわよくば仕掛け人であって欲しいと、壮大なドッキリのネタバラシをして欲しいと、そんな願望を込めて。

 

 

「〜〜♪」

 

 

赤い女がいた。

 

足元まで届く長い銀髪。

踊り子のようにも見える、絢爛な赤い衣装。

 

手に持った琴からは、やけに心の奥底に響く音色が聞こえてくる。

 

 

俺はこの女の名前を知っていた。

 

 

「濁心スカジ……」

 

 

血のように赤い瞳が、俺を射抜く。

 

 

 

 

 

 

 

アークナイツというゲームがある。

 

不治かつ致死性の疾患である鉱石病(オリパシー)

死後病巣になることから差別対象となる鉱石病感染者。

鉱石病感染者が組織化されたレユニオン・ムーブメント。

鉱石病の治療を目指してより多くの命を救おうとするロドス・アイランド。

主人公にして記憶喪失、そしてキーマンのドクター。『魔王』のアーミヤ。年増のケルシー。

そんなの関係ねぇと言わんばかりに巻き起こる戦争。

 

舞台となるテラの大地にはとにかく陰鬱で悲惨な事ばかりで、そんな中でも刹那的な輝きのために人々が懸命に生きている世界。

 

 

このテラの世界は、おおまかに二つに分けられる。

 

陸の世界はロクなことがない。

感染者は差別するし弱者は蹴り落とされるし命は軽いし戦争を画策する国がそこかしこで跋扈していて、とてもじゃないけれどこんな世界で生きたくはないと切に思う。

 

かといってもうひとつはどうかと言えば──『海』もまた、ロクでもない場所だ。

 

海の底にはエーギルという国があり、それ以外の国は存在しないから戦争がない。

比喩抜きでエーギルの科学力は世界一ィだし、各人がその能力に応じた仕事を与えられ、生きていける。

 

ここだけ切り取って見れば素晴らしい楽園のように思えるが、ところがどっこい、エーギル──というより海の中には、恐ろしい怪物が存在するのだ。

 

 

恐魚とかシーボーンとか『神』とかアレとかソレとか言われる連中は、全部ひっくるめて海の怪物と呼ばれている。

 

陸の種族が人同士で争っている中、エーギルはこの怪物どもと熾烈な戦争を繰り広げているのだ。

 

ちなみに、最終的にエーギルは事実上の敗北を喫するようだ。

そしてこの海の怪物は、海を制圧したら今度は陸に上がり、地上を蹂躙するとされている。

 

地上にも海の怪物と同じように得体の知れない化け物が多数眠っているが、どちらが勝つのかは分からない。ただまぁ、どっちみち生き残る者はいないだろう。どうせ全員死んでるし。

 

ほんとにクソだなこの世界!

 

 

 

アビサルハンターとは、エーギルが海の怪物に対抗するために生み出した部隊のことだ。

もちろんマトモな出自ではなく、敵である海の怪物の力を利用することで生み出された超人集団である。

 

テラの多くの種族よりも遥かに強力で頑丈な身体能力を誇る彼ら彼女らは、その代償として力を使いすぎると海の怪物に成り果てる。

 

 

そしてスカジという女は、このアビサルハンターの一員である。

紆余曲折あってアビサルハンターは壊滅と引き換えに怪物共の頂点である『神』を殺すのだが、なんとも愉快なことに次の『神』がスカジの内に宿ってしまったのだ。

 

スカジの意識が勝っているうちは、スカジは大剣使いのコミュ障パワー系ゴリラの超人ガールでいられる。しかし一度内に宿る『神』が目覚めれば、スカジの心は濁り果てて海の尖兵になる。そうなれば後は陸への侵攻が待つのみだ。

 

ロクでもないことこの上ない。

 

 

 

そして俺の前で歌うこの女は、闇堕ちしたスカジ──すなわち濁心スカジのような格好をしていた。

 

「えっと……スカジ、でいいのか」

 

恐る恐る声をかける。

 

なんで俺がこんな訳の分からない環境に身を置いているのかとか考えるよりも先に、本能的に危機を察知した肉体が勝手に動いていた。

 

対して、対面の女。

 

「……あなたは、私のことを、そう呼ぶの?」

 

濁心だ!!!

 

本物スカジが小首を傾げてこんな電波天然発言するはずがない!!

まず間違いない!! この女はIshar-mlaだかなんだか分からないがシーボーンの怪物だ!!

 

 

思わず頭を抱える。

 

天を仰いだら二つの月がお出迎えしてきてめちゃくちゃ嫌な気持ちになったので足元に視線をやったら、いつの間にやら近付いてきたスカジ(仮)が下から俺のことを覗き込んできたので変な悲鳴が出た。

 

というかびっくりして転んだ。

 

「あなたは……同胞では、ないのね。でも、あなたはここにいる。どうしてかしら?」

 

知らないよ!!!

 

引き攣った喉は叫びを出力しなかったので、心の中で吐き捨てた。

 

あまりに訳が分からなくて泣きそうだ。

転けた拍子に尻を強かに強打してとても痛い。青タンになりそう。

 

 

……というか、濁心スカジがいるということはテラの世界もう滅びてない?

 

確か、濁心スカジが出現する世界線ではロドスは滅び、ケルシーとアーミヤは死んで、生き残ったのはドクターだけだったはず。

このドクターを篭絡しようとしているのが濁心スカジであり、テラの世界でも有数の救いようのないクソみたいなバッドエンドだ。

 

ドクター、黒フードの不審者は、少なくとも周りにはいない。

まさか俺がドクター……なわけないか。なぜここにいるのかは分からないが、記憶はある。

 

 

しかし、もし仮に世界が滅びているのだとしたら、俺の未来もお先真っ暗である。

 

「……まったく」

 

おもむろに歌い始めた濁心──まぁ、スカジでいいか。

スカジを半ば睨むように眺めつつ、思わず嘆息をひとつ。

 

 

周囲を眺める。

 

相も変わらず海は凪いでいて、波が足元の岩に押し寄せ、砕けている。

四方を見渡してみても人工物の痕跡はなし、だけど争いの跡もなし。

 

そういえば、恐魚もシーボーンもいないようだ。

恐らく俺なんかペロッと食べられちゃうだろうから助かるけど、いつ出てくるか分からないからそれはそれで不気味。

 

 

……とりあえず、人を探そう。

 

雨風を凌げる場所を見つけないといけないし、状況を知る必要もある。

というかここどこだよ、イベリアか? 俺はテラの世界の地理には明るくない。困った困った。

 

ともかく、目下の問題は……

 

「コイツをどうするか、だな……」

 

「〜♪」

 

呑気に歌ってやがる。

 

先程はさりげなくコミュニケーションが成立したから、言葉は通じるものとみて良いだろう。

しかし、海の怪物、シーボーン相手にまともな会話が成立するのだろうか。ドクターの記述曰く、血も流れていなけりゃ首を絞めても殺せるか分からない相手だ。

 

人間を相手にしている気持ちを完全に捨て去らないといけないんだろうが……

 

「人間以外とコミュニケーションなんかしたこと無いんだが」

 

しいて言えば犬とか、猫とかぐらいなもんで。

シーボーンが犬猫と同程度に友好的なんてことは……ないですか、そうですか……

 

願わくば、ご機嫌に歌っているスカジが、某カヲルくんみたくリリンの文化に理解を示してくれる寛容で協調的な性格をしてくれていたら助かるんだが。

 

「〜〜♪」

 

もっとも、テラのあらゆる他種族に敵対的な怪物どもの頂点にいる存在なんだから、多分無理なんだろうなぁ……

 

「……詰んだわ、俺」

 

もう一度天を仰ぐと、やっぱり二つの月が俺を見下ろしていた。

 

とてもつらい。

 

 

 

 

それと、スカジの歌を聴いていたら、尻や全身の痛みが引いていくのを感じた。

そういえばパッシブスキルでリジェネ持ってましたね……

 

 

 

 




またなんか胡散臭いことやってんな……(イベ)
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