目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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第十二話

 

 

 

 

「ランディングスポットまではかなりあるわ。移動しましょう」

 

シャチはそう言って、勢いよく立ち上がる。

疲労は見受けられず、この僅かな時間で回復したようだ。

 

羨ましい。

俺も……そんなに疲れていないな。

 

 

結局、シャチは俺たちがロドスに行くことを受け入れた。というかたぶん俺と同じくケルシーに丸投げすることにしたような気がする。

そして、ロドスへの帰還に同行することも認めてくれた。ちょっと嫌そうだったけど。

 

後は話が早い。

 

持ち込んでいた通信装置でロドスに連絡を取り、迎えに来てもらったらすぐだ。

 

 

火の始末をしていると、シャチはさっさと歩き出してしまう。

 

あー、ちょっと待ってくれよ。

バイクがあるんだよー。

 

……スカジとシャチを二人とも乗せるのは無理だな。

もしかして、タンデムする二人の横を俺が走ってついていかないといけないのか?

 

「──ガァ!」

 

お前の席ねぇから!

 

 

 

 

スカジはここまでロドスの飛行機で来たらしい。バッドガイ号かグッドボーイ号かな?

 

しかし、ここら一帯は岩場だし、天災の影響で各地が穴ボコの不整地だ。おまけに風も吹く。

四輪車でさえ道を選びそうなものだが、繊細な飛行機が着陸できる場所はあるのだろうか。

 

「飛び降りたわ」

「飛び降りたのか……」

 

ブレイズかな。

 

着陸の余地を考慮しなかった結果、行きはかなり近くまで空輸してもらったらしい。

そのまま後部ハッチから飛び降りて、ラテラーノ領へダイナミックエントリーしたとのこと。

 

さすがはアビサルハンターだ。シンプルにパワーが怖い。

 

 

しかし、帰りは輸送機に乗り込まないといけないため、適した場所まで向かわないといけないそう。

 

そういうわけで移動中。

俺がバイクを運転し、シャチが後ろに乗った。

 

スカジは近くを浮きながら着いてきている。

 

宙に浮く本人は些か不満げな顔をしているが、冷静に考えれば浮くことが出来るのならバイクに載せる必要もないってワケだ。

 

「浮いている訳じゃないわ。泳いでいるの」

「……陸の空気にここまで適応しているなんて。カジキが見たらなんて言うかしらね」

 

たぶん殺しに来ると思います(絶望)

 

残りのアビサルハンター二人は別の任務で出払っているらしいけど、どうしたものかな。

グレイディーアに関してはミヅキにすら殺意を抱いているようだから、スカジもアウトだろう。

 

「大丈夫よ。私が彼我の境界を越えたとき、蕩けた世界は混ざりあってひとつになるから」

 

そりゃあ結構だ!

 

「……もう一人の私が海の怪物かそれ以上の脅威になったと感じたら、私は容赦なく剣を抜くわよ」

「あいわかった、留意しておくよ」

 

シャチが俺の後ろで鋭い眼光を向けてくるのを感じて、反射的に返事を口に出す。

 

何を見てどう思ったのか知らないが、シャチは今のスカジを殺さずに生かしておくことに価値を感じているようだ。それはつまり殺すべきと感じたら剣を抜くということであり、回り回ってスカジに付き纏われている俺まで殺されるということである。

 

…………俺、スカジを抑えてられるかなぁ?

 

俺の心に翳る不安を如実に表しているのか、空には暗雲が立ち込めている。

目覚めた時のイベリアの空模様みたいだ。一雨来そうな天気に、俺の気持ちも沈んでしまう。

 

 

ちなみにシャチも横座りで後ろに座っている。

そういうところはスカジと同じなんだなと思ったが、剣を手放さないあたり俺が不審な行動をしたら速攻で斬り捨てられるのだろう。

 

仮に普通の座り方をされて胴に腕を回された場合、いつ鯖折りにされるのかと恐怖で運転に集中出来ないので、こちらの方がありがたい。

 

 

……ロドスに着いたら、どうしようか?

ケルシーならなんとかしてくれる! という願望じみた信用があるが、まさかイベリアに強制引渡しなんてことはないよな。

 

俺が戦闘オペレーターとして働くなんてとてもとても、出来たもんじゃない。

その点、スカジは補助オペレーターとしてレギュラーだな。シャチと組み合わせて深海コンビも悪くない。

 

俺は内勤として後方支援部で事務仕事。

シャチとスカジで前線オペレーター。ううむ、悪くない布陣じゃないか?

 

「……? それは無理よ、私はここにいることしか出来ないもの」

「分かっているさ」

 

……そうだよな、根っこがシーボーンのスカジを下手に人類と共闘させられないよな。

言ってしまえば深き者どもを人間と並べて一緒に頑張ってねって言ってるようなもんだし。

 

どうにか……どうにかなるのか?

 

ガタン、前輪が跳ねる。

 

「運転に集中しなさい」

「あぁ、すまない」

 

シャチに怒られたが、どうにも意識が散ってしまう。

 

ロドスを目標に頑張って進んできたが、ロドスに辿り着いたらどうすれば良いのやら……悩ましい限りだ。

見ろ、地平線の果てから俺の心境をそのまま切り取って貼り付けたかのように、もうもうとどす黒い雲が広がっている。凄まじい勢いで拡散し、天を覆い尽くし、バチバチと恐ろしい雷鳴が轟いているではないか。

 

「……あ」

 

シャチが何か呟くと、モゾモゾと動き始めた。

こいつはバイクから落っこちてもなんら問題は無いんだろうが、俺は無事で済まない可能性があるから動かないで欲しい。バランスが崩れる。

 

情報端末を取り出すのが見えた。……地図か何かを見ている?

 

「…………良いニュースと、悪いニュースがあるわ」

「良いニュースを」

「最短距離を進んでいるわ。合流地点まであと少しよ」

「悪いニュースは?」

 

バキバキバキ、とんでもない雷鳴が頭上から響いた。

なにかとんでもない積乱雲でも引き当てたかと空を見て、愕然とする。

 

黒々とした雲が、渦を巻いて蠢いている。

雷が分かりやすく弾けて空を駆け巡り、見るからにヤバい光が迸って、それからとんでもない爆音が駆け巡った。

 

「……はて?」

 

視界の端に、黒い影が写る。

 

ドゴン!

とんでもない音を立てて着弾したそれは、黒い鉱石のような物体。

 

空から振ってきたそれは、俺の顔のすぐ横を掠めて地面に落ち、小さなクレーターを作っていった。

 

シャチが、重々しく口を開く。

 

「ここ、天災の予報地点のど真ん中ね」

「そういうことはもっと早く言え!!」

 

 

直感が脳内を駆け巡って、咄嗟にハンドルを限界まで切る。

バギンと心臓に悪い破砕音が聞こえたのは、つい一秒前まで俺たちがいたところ。

 

突き立つ鉱石は……バイクに当たったら即廃車、運転手に当たっても良くて病院送り、最悪はここが墓場かな。

 

 

……シャレにならねぇ!!

 

「ハンドルそのまま、真っ直ぐ走り抜けなさい」

 

そう行ったシャチは、悪路に跳ね回るバイクをものともせず、不安定な足場で立ち上がる。

曲芸みたいなことしやがって……俺がバランス崩してコケそうなんでじっとしていてくださいお願いします

 

「事故したら殺すわ」

「無茶を言う!」

 

事故したらその時点で死んでますぅぅぅ!

 

そんなことを言う余裕もないまま、とにかく必死でハンドルを捌く。

不整地だからケツが痛い! テラの世界はツーリングに優しくない!

 

 

シャチには見えていないことを願って涙目で走る俺は、真正面45°上方からまっすぐ飛んでくる隕石を見つけて漏らしそうになった。

 

ブリュン!

 

触手は漏れた。

 

咄嗟にハンドルを切ろうとした瞬間に、ガタンと一際大きな衝撃。

不幸にも黒塗りの大岩に乗り上げたバイクは天高く跳ね上がり、もはや方向制御など効かなくなる。

 

おいおい、死んだわ俺……

 

ハラハラと涙を流す俺をよそに、シャチは不安定な足場で剣を握り、全力で腰を捻る。

 

「──フッ!」

 

バキャン!

 

あんまりに軽い調子で振るわれた大剣は、なんとも恐ろしいことに俺の頭の上すぐを掠め、ついでに髪の何本かを持っていきながら、鼻先まで迫る隕石を()()()()()()のだ。

 

シャチのスカジさんのホームランダービー

 

そんな言葉が頭をよぎった。

 

「よし、まだまだ行けるわね」

 

なにやらとんでもないことを成し遂げた様子のシャチは、着地の衝撃を膝のみで受け止めながらなんともない顔で素振りをしている。

 

 

バイクは荒野を進み、天から降り注ぐ鉱石は未だ止まず。

 

嵐――天災は、まだまだ続く。

 

 

 

 

天災が源石の媒介者であり、テラの世界で人々が移動都市を作り上げることになった元凶であり、頻発するクソofクソの自然災害であることは言及されて久しい。

 

そして俺が今確かにテラの世界にいる以上、天災に遭遇することだってあるだろう。

しかしよもや、天災のど真ん中を突っ切ることになるとは夢にも思わなんだ。

 

「えいっ」

 

バギン!

 

鼓膜を震わせる金属音が頭上で鳴り響いて肩をすくめたくなるが、そんなことしていたら事故のもとだから我慢。

 

「手が足りないわ。あなたも手伝いなさい」

「運転中だ!」

「余ってるじゃない」

 

確かに(触手)はブラブラと遊んでいるが、本当に無茶を言ってくれる!

 

「押し留められた人型に心を囚われないで……私たちは何にでも、どのようにでもなれるわ」

 

スカジはふわふわ浮きながら追従するだけだから気楽でいいなぁ!

 

しかしまぁ、ここで何もしなければシャチに怒られそうなので、必死に触手を振るう。

 

 

叩いて、弾いて、逸らして。

 

最近ますます習熟度が増してきた触手を使ってみて気付いたのだが、これがなかなか頑丈かつしなやかで、迫る源石隕石を弾き飛ばせるのだ。

もしかして天災の対処法を見つけてしまったかもしれない。つまりは迫り来る隕石を弾き飛ばせばいいのだ。

 

「そうよ。私たちには源石の束縛なんて意味が無いの。彼らを避けることも出来るし、その場に留まって弾き続けることも出来る。私たちが宙に飛び立つのを阻止する方法は無いわ。だって、進化の可能性は無限だもの」

「喋っている暇があるならあなたも手伝いなさい」

「それは無理よ、もう一人の私。あなたが私の居場所を奪っているから」

「……海の怪物に屁理屈を仕込んだのは、どこの誰なのかしら」

 

黙らっしゃい!

 

雨まで降ってきた! 嵐のような暴風まで!

そうだよな、天災だからそうなるよな。

 

……鉱石病が怖い。

これ、確実に源石粒子を多分に含んだ雨だよな。そして降ってきてる隕石って源石だよな。

 

ロドスに到着したら絶対に検査を受けよ。

 

「怖がらないで、星のあなた。何者も私たちを阻むことは出来ないのだから」

 

スカジの声は、轟音が響き渡る中でも不思議と耳に届く。

 

そして心地良い。

焦りと恐怖に戸惑う心が鎮められて、どうにかやれそうな──

 

「ハッ!」

 

バゴン!!

 

やっぱり無理だわ!

 

「飛ばすぞ、落ちるなよ」

「舐めないでちょうだい」

 

唸れ源石エンジン、俺に鉱石病を感染させない程度に!

 

安寧の地(ロドス)は、すぐそこだ!

 

 

 

「勢いが弱くなったな。ようやく乗り切ったか」

「そうね。第一波はこれで終わりかしら」

「…………?」

「予報によると、あと二回はこれが続くわよ」

「ミ゚ッ」

 

 

 

 




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