目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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Operation Deepness
ダブルクォーテーション内は全部歌詞でした


第十五話

 

 

 

俺は悲しかった。

 

なんたって、だいぶ長い時間をかけてこの地(ロドス)へと辿り着いたのに。

どうしてテラでいちばん安全だと思っていた場所で、テラでも有数のやべー奴に襲われなきゃならないのか。

 

「アハハッ、見た目よりもやるのね!」

「そりゃどうも」

 

ローレンティーナ──いやもうスペクターでいいや。

ロドスの甲板をガリガリ削りながら鋸を振り回すスペクターは、何が楽しいのやらニコニコ笑いながら斬りかかってくる。

 

本当に怖いからやめて欲しい。

 

頑張って触手を振り回して弾いているが、正直言ってどうして俺がまだ五体満足なのか分かったモンではない。

 

「あなた……触手なんて振り回すから深海教徒のエーギルかと思えば、そうでもないみたいね。うふふ」

 

ヒェッ、何かの破片が頬を掠めた!

 

マジで泣きそう。

俺が何をしたってんだ。

 

「荒事は、好かんなッ!」

「あら危ない」

 

振り抜いた触手は俺の想定を遥かに超えた膂力を発揮して頑丈な足場を深く打ち抜いたが、スペクターはそれを軽くいなす。

そのまま踊るようなステップで接近してくるのを、残った触手でどうにか迎撃。

 

軽やかに動き回るものだから、見逃さないように目で追いかけるだけで必死だ。

なんでそう軽装で身軽なところまで某ヤーナムの狩人さんに似せてしまったのかと小一時間説教したい。

 

 

ちなみに俺が使える触手は三本だけだ。

本当はもっといっぱい生えてくるんだけど、なんせ腕みたいなものだから思考が追いつかない。

 

「つまらないわね。本気でやってくれないの?」

「本気も本気さ。必死過ぎて泣きそうなぐらいだよ」

 

なので、今の俺は棒立ちである。

持て余した大量の触手をウネウネさせたまま、三本だけブンブン振り回している。

 

傍から見れば余裕綽々の舐めプ野郎に見えるかもしれないが、その実ホントに泣きそうになりながらやっていることを理解して欲しい。料理とかで頑張って訓練したんだ。むしろ腕三本を上手に扱えていることを褒められてしかるべきである。

 

しかしまぁ、俺って料理だけじゃなくて結構戦えてるじゃないか。どうしてこんなに巧みに……あぁ、そっか……ここに来る前に遭遇した天災で迫る源石隕石を撃ち落とした経験が生きてるんだ……

 

ギュインギュインと爆音を轟かせながら向かってくる刃をどうにかこうにか叩きながら、俺はいつぞやの不幸に感謝した。

 

……いややっぱ感謝することじゃないな。天災もアビサルハンターもどっちも不幸だよ!

 

 

そしてケルシーは……

 

「やめろ、グレイディーア、スペクター! これは君たちが――」

「あら、いいじゃないケルシー。あの二人は言葉で止められるほど素直じゃないわ。殴られてはじめて分かることもあるんだから」

「……しかし」

 

 

止めてよ!!

なんで「まぁいいか……」みたいな雰囲気出してるんだよ! シャチは何を吹き込んでるんだよ!

 

叫びたかったが、そんな余裕どこにもない。

ほうれ見ろ、今にも鋸が襲い掛かってくる……大振りな上段──に見せかけた二連!

 

あまりに華麗な読みでスペクターの攻撃を見切り、見事に弾き(パリィ)を成功させ続ける俺は、しかし時間が経つにつれどんどんやる気が無くなっている。

だって戦う必要ないし……シャチがなんかいい感じに許してくれたっぽいからこの二人もなんかいい感じにならないかなって……

 

 

……シャチ。そうだ、シャチだ。

 

「どうして、シャチが眺めているだけか気にならないか?」

 

大きく後退し、先程まで俺の頭があった場所を通り過ぎる刃を恐怖の目で見送る。

 

「さて、どうしてかしらね? 生憎と戦っている時に色々と考え事をするのは苦手なの」

 

辛い! 会話が始まってもなお一切ブレずに攻撃してくるスペクターが怖い!!

この女、確実に説得とか命乞いを真正面から叩き潰すタイプだ! ラップランドと仲良くやれそうだな!

 

大きく触手を振り回してやれば後退することは分かったので、それでどうにか時間稼ぎだ。

 

「彼女はアビサルハンターの行く末を知ったのさ。だからこそ、ケルシーに託すと決めた」

 

実際に何を見て何を知ったのか、俺はちっとも知らないけれど。

 

スペクターの猛攻をどうにかこうにか凌ぎつつもシャチの様子を盗み見ると、ドクターと並んで観戦してやがる。あっMon3trまで……クソッ呑気にしやがって。

 

「よそ見なんて、余裕ね」

 

あっぶね!!

今掠めたぞ!!

 

「悪いけど、私はスカジがどうしようが関係ないのよ。アビサルハンターの仕事を全うするだけ」

「責任感なんてあってないようなものだろうに!」

 

疲れる。俺は平和主義なんだ。

喧嘩だってしたくないのに、なんでまた、こんな殺し合いなんてしなくちゃならないんだろう。

 

俺のロドス安住計画がぁ……

 

「ガァ(どんまい)!」

「ッ! シーボーン……!」

 

スカジのシーボーンが現れ、スペクターの気が逸れる。

 

初めて見せた明白な隙。間違いない、チャンスだ。

咄嗟に触手を放ち、いつぞやにスカジにやったように簀巻きを試みる。

 

少しでも制圧出来れば万々歳だ。

頼むからこの暴走アビサルハンターを止めて欲しい。

 

「捕らえた」

 

触手がスペクターに絡みつく。

一気に締め付けて拘束し────そこには、一(・)切(・)の(・)感(・)触(・)が(・)な(・)い(・)。

 

 

「ざぁんねん」

 

 

 

声が後ろから聞こえ、咄嗟に振り向き際に腕を振るう。

 

ギチギチと刃が震えて、俺の顔を抉ろうと迫ってきて──接触の瞬間、どうにか間に合った俺の拳が鋸を横合いからぶん殴り、どうにか回避に成功する。

 

「あら、残念」

「……痛いじゃないか」

 

…………痛ってぇぇぇぇぇぇ!!!

 

めちゃくちゃ手が痛い!

どんな状態になってるか見たくもない!!

 

チェーンソーに触れるとこうなるんだな!! まったくもって知りたくなかったぜ!! だから触手使ってたのに!!

 

「仕留めたと思ったのだけれど」

「身代わりか。忍者みたいなことをする」

 

忘れていた。

 

スペクターとローレンティーナ、その二面性。

眼前の女は決して脳筋バカゴリラなだけではないのだ。とても辛い。

 

「グォッ」

 

シーボーンが慰めのニュアンスの鳴き声を出す。

 

スカジのバフパワーだろうか。

若干痛みがマシになっていくような気がして、プラシーボだとしてもありがたい。

 

「そのシーボーンは、あっちにいるスカジのそっくりさんの分け身かしら?」

 

……そういえば、スカジはどうなったのだろう。

スペクターがこっちに来た以上、グレイディーアはあちらにいるのだろうけど。

 

 

スペクターの一挙一動を見逃さないように細心の注意を払った上で、そっとスカジのいた方を盗み見る。

 

「…………うわ」

 

見(・)え(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

スカジがまるで踊っているかのようにくるくると回りながら滑るように動き、その周囲に黒い影みたいなのが飛び回っている。

もしかしなくても、あの影がグレイディーアだよな。速すぎて目で追えていないけど、未だ無傷のスカジは全部躱しているのか?

 

スカジの赤い派手な格好が踊り子のようにも見えるので、超絶技巧の舞踊でも見ている気分だ。実際は舞踏というより武闘だけど。

 

やっぱり海の連中ってやべぇわ。

 

「水中でなくともあの速さか。末恐ろしいことこの上ない」

「あなたは私や隊長のことをよく知っているようね」

 

スペクターで良かった……のか?

相対的に自分が幸運なように思えてきて困る。

 

実際はまるでそんなことは無いのだが、どうもとんでもない光景を見てしまって落ち込んだ気分がリセットされてしまったようだ。

スカジは……どうしてアレを捌き続けられるの? 俺もうお前のことを今までのようには見ることが出来ないよ。

 

「……まったく。仕切り直そうか」

「ええ、そうね」

 

スペクターが鋸を構え、俺が触手をしならせる。

 

「これで、終わらせましょうか」

 

 

 

──俺の敗因は、まったくもって情けないことに、思いっきり油断していたことだろう。

 

スペクターと幾度と打ち合って、めちゃくちゃ怖いながらも少しずつ慣れてきた。

なんとなくやれそうな根拠の無い自信が湧き出していたし、実際にそれは事実だったと思う。

 

しかしながら、これは決して一体一の果たし合いなどでは無いのだ。

アビサルハンターはいつだって狩人で、獲物を殺すためなら手段なんて選ばない。

 

そして俺は、客観的に見れば敵地(ロドス)に乗り込んだ愚か者。

 

つまるところ、俺は全てを警戒して然るべきだったのだ。……もっとも、警戒してどうにかなったとは思えないけど。

 

 

「そうね──これで終わりでしてよ」

 

 

咄嗟に身を捩ったのは、戦闘に身を置いていたが故に勘が研ぎ澄まされていたからか。

 

 

元より、俺は戦闘のせの字も知らないペーペーである。

よくもまぁここまでやったと褒めてもらいたいところであるが──つまるところ、俺はこの瞬間、真後ろから弾丸の如く飛んできたグレイディーアにぶち抜かれた。

 

 

そういうことしちゃう?

俺は、頭の片隅でそう思った。

 

あんた今スカジの方にいたじゃん。急に標的変えて挟み撃ちって、それは殺意高すぎない?

そもそもどうやってスペクターとタイミング合わせたんだよ、やっぱり海の連中って怖すぎる。

 

 

文句と不満を内心でタラタラ垂れ流しつつ、胴体ど真ん中を貫こうとしていた一撃は俺の必死の抵抗でどうにかこうにか腕の一本を肩から盛大に持っていくのみに終わった。

 

が、俺はエーギルでもなんでもなく、そもそもやけに頑丈な先民ですらないただの人間だから、耐えられる訳がない。当然ながら致命傷である。

 

 

衝撃に吹き飛び、体が宙でくるくると回る。トラックに轢かれたかのような動きは、グレイディーアのヤバ加減をよく教えてくれた。

その最中でもどこか冷静な頭が負傷を認識し、ヤベぇよヤベぇよこれ死んだわと脳が激烈に警告を発し、迸る青ざめた血の向こうにグレイディーアとスペクターの冷たく鋭利な赤い瞳を認めて──

 

 

「はははっ、やってくれる」

 

 

いつかに手に入れてからずっと懐に忍ばせていた『小さなグランファーロ』が、視界全てを照らし出す眩い極光を作り出す。

 

人は思考回路がオーバーフローした時、本当に笑いが漏れてしまうらしい。

俺はただ、痛みを感じることもなく、乾いた笑いを溢すことしかできなかった。

 

 

 

かのイベリアの眼を模倣したそれは、僅かと言えどもアビサルハンターの動きを止めることが出来た。一瞬で致命傷を負った俺が、それでもまだ痛みすら感じない、そんな刹那的な時間。

 

そして、グレイディーアの猛攻を躱し続けていたスカジが、その微睡みから『目覚める』のにもまた、十分な瞬間であったようで。

 

 

衝撃に震える俺の耳に、聞き慣れた声音が聞こえた。

 

 

 

「ねぇ、ケルシー。あなたが言ったことでしょう?」

 

 

 

――"水底で声が鳴動する"私は闇の奥底で目覚めたの♪

 

 

 

「あらゆる命は、その全てが海を起源に持つのよ」

 

 

 

――"本当の私を見せてあげる"今、私はここにいるわ♪

 

 

 

「ならば、私たちは皆が同族でしょう?」

 

 

 

――"私は鎖を解き放つ"私は何者にも縛られない♪

 

 

 

「そして私は、『海』を回遊する者よ」

 

 

 

――"こっちへおいで"さぁ、側に寄って?♪

 

 

 

「永遠の故郷に、還りましょう」

 

 

 

緋色の『神』が、海に揺蕩う。

 

 

 

 

これもしかしなくてもやっべー進化をさせてしまったのかな?

 

 

 

 

 

 

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