目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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それではここで第一話前書きをご覧下さい


エピローグ

 

 

 

ロドスには人が多い。

 

戦闘オペレーター、エンジニア、事務仕事、外部提携、トランスポーター、要人、危険人物。たまにいてはならない人物がいるような気もするし、国の長として名高い人もいる気がする。おまけに新しく雇われたオペレーターは日々増える始末。

 

人事部が発狂しそうな有り様だ。

 

ロドスは在籍する職員数もさることながら、出入りする人物がひたすらに多すぎる為に、とにかくどこで何をしていた誰かがどうしてロドスにやってきたのかという情報が錯綜する。

 

おかげでかの傭兵Wがオペレーターとしてロドスにやってきた時には一悶着あったし、シルバーアッシュを見たイェラグ出身の人間は失神し、ラップランドの名を見たシラクーザの人間は仕事を投げ出した。

 

 

最近であれば、こんな噂が流れたことがある。

 

曰く、どこかで見たことのある綺麗な女性が、当然のような顔で宿舎をうろついている。

ニコニコ笑顔で挨拶してくれる元気で愛想の良い女性だけど、アレは誰だろうか? ドクターやケルシー先生が何も言わないからオペレーターの人なんだろうけど、あんな人いたっけ?

 

目ざといオペレーターが言うには、あの人スペクターさんに似てない? え? あの何言ってるかちょっと分からない修道女さん?

でもこの間甲板で空を見上げながら何かブツブツ呟いてるの見たよ、ほなスペクターさんとは別人かぁ。

 

そんなこんなで組み合わさった話は「彼女はスペクターさんの親類の女性」という形になり、ドクターから実はあの女性はスペクターの本来の人格で、だけどたまに修道女モードになっているだけなんですよーと種明かしされるまでは別人だと思われていたのだ。

 

 

そんなだから、『彼女』の来訪もそれと同じものだと見なされていた。

 

赤い服を着た彼女。長い銀髪の彼女。

 

同時期にロドスにやってきた男は、彼女を親しげに『スカジ』と呼ぶ。

そう、あの厄星系バウンティーハンターと同じ名前である。

 

おまけに物静かなところも変わらず、深夜になるとロドス甲板でご機嫌に歌っている様子も同じ。

 

勇気を出して話しかけたとあるオペレーターの所感では、いつものスカジより少し柔らかめだけどいつもより何を言っているのか分からないという評価が得られたという。

 

 

誰もが思った。

あ、スカジさんイメチェンしたんだ、と。

 

なんだかんだ言ってここ最近はドクター他の献身的な説得で多少はコミュ力の身についてきたスカジであるし、多少は話のタネになるかな、と善良なロドスの人たちは考えたのだ。

 

 

だからこそ、ある日に見られたその光景に、ロドスの面々はビックリ仰天したわけで。

 

「あなた、深夜まで延々と歌ってるでしょ。私が医療部の人たちに怒られたからやめなさい」

「どうして? 私たちには睡眠なんて必要ないのよ。それに私の歌声は乾いた空気に染み込んで、かつての同胞たちをしるべに導いてくれるわ」

「それとこれとは話が別よ。どうして私が『夜はしっかり寝なさい』なんて説教されなければならないのかしら」

「安心して、睡眠の必要性は彼が教えてくれたから。あなたも微睡みの時間を大切にするのよ、もう一人の私」

「私はしっかり寝てるわよ」

 

スカジとスカジが言い争いをしている!

 

宿舎で二人のスカジを見つけた瞬間、誰もが幻覚のアーツを疑ったし、正体不明の敵からの攻撃を予想して臨戦態勢に入った。

ブレイズは思わず飛び上がって毛を逆立て、スルトはアイスを落っことし、エリジウムはソーンズが実験中にうっかり揮発させてしまった神経毒を吸引したかと疑った。

 

「それと突然出たり消えたりするのもやめなさい。なぜか苦情が私のところに来るから」

「あなたは他者からの評価を気にしないって聞いたわ、もう一人の私」

「……人付き合いを学んだ方がいいと教えられたのよ」

「あなたも学習するのね、もう一人の私。それはとても素晴らしいことよ」

「どうも。それはそうと話を逸らさないでくれるかしら」

「なんのこと? 私はいつだって対話を軽んじたことはないわ。だってあなたたちがそれを必要とするもの」

「………………私ってこんな風に見られていたのかしら」

「怖がらないで、もう一人の私。私たちはいつだって間違えないわ」

 

紆余曲折あって、ドクターの「彼女はスカジのそっくりさんです」という発言で多少は混乱が収まったはいいものの、今度はその呼び名が問題になる。

 

なんせ名前が分からない。

 

得体の知れない男は赤い方のスカジを『スカジ』と呼び、黒い方のスカジを『シャチ』と呼ぶ。

赤い方のスカジは黒い方のスカジを『もう一人の私』と呼び、黒い方のスカジは嫌そうにしながらもそれを受け入れているように見える。

 

 

本人に聞いてみよう。

 

「個体名に意味はないわ、やがてひとつになるんだもの。あの人がこの名で呼んだから、私はこの姿を取っているだけ」

 

うーん、分からん!

 

 

まったく同じ姿の二人が同じ名前をしているようでは、作戦行動はおろか日常生活ですら支障がある。困ったオペレーターたちはケルシー先生に助言を請うたが、なんとも投げやりな言葉で「奴に聞け」と投げ出される始末。

 

仕方なくどうも怪しい男の元へ行くと、男は困ったように笑った。

 

「呼び名の区別を付けたい?」

 

触手をウネウネ揺らし、膝に少なくともオリジムシではない生命体を乗せて、実は赤い方のスカジともどもアーミヤCEOとの接触禁止令を出されている男は答える。

 

「それなら『濁心スカジ』とかでいいんじゃない?」

 

かくして赤い方のスカジは濁心スカジ改めて濁スカと呼ばれるようになり、それに対応するように黒い方のスカジは『清純スカジ』とかなんとか呼ばれるようになった。

 

スカジはキレた。

 

 

 

 

 

 

正直に言おう。

 

ぶっちゃけた話、俺は事の推移をほとんど把握しちゃいなかった。

ロドスに向かおうと思ったのは俺だ。ただ俺がしたのはそれだけで、後はスカジがやらかすか、シャチがやらかすか、グレイディーアかスペクターがやらかしただけなのだ。

 

あいつらマジでさぁ……

 

 

だから、ケルシーがどうやって凶暴な人喰いサメと殺人カジキを説得したのか、まったくもって知らない。

 

「…………………………………………屈辱ですわね」

「うふふ……海、海の果てに繋がる道が見えますわ……海を従える者はやがてひとつ……」

 

だから、めちゃくちゃ苦ぁぁぁぁい顔で露骨に眉間に皺を寄せながら、なっがぁぁぁぁぁぁい沈黙の後に一言だけ吐き捨てたグレイディーアや、何やら修道女モードに入ってしまったスペクターが何を見たのかも、何を知ったのかも知らないのだ。

 

スペクターは……大丈夫かこれ? 抜け出せてないの?

いくら俺を全力で殺そうとしてきたとはいえ、さすがにこの有様は……まぁシャチが平気そうにしてたからいいか。

 

 

そんな感じだから、グレイディーア立ち会いの元で行われたケルシー直々の聴取でさえ俺はのほほんと座っていただけ。

 

質問を受け、答える。また別の質問が来て、答える。さらに別の質問が来て、答えようとするとスカジが出てきて、代わりに何やら色々喋っている。そうするとグレイディーアが神妙な顔をしてケルシーに何かを囁き、ケルシーは真剣極まりない表情で頷く。その繰り返し。

 

ケルシーがあれやこれやとケルケルと語るんだけど、結局俺は最後まで完璧に事態を把握することは出来なかった。

 

 

以下抜粋。

 

ケルシー「つまり君は、彼の心血に宿った者だと?」

グレイディーア「それがどうすれば、核を得てここまで肥大化するのかしらね」

スカジ「夢現の区別に意味は無いのよ。私はそれを知っていたけれど、今はその本当の意味を知ってるわ」

 

スカジ「私は彼の元を離れないし、彼も私の元を離れられないわ。だって、たった一つの青ざめた血を分かったんだもの」

グレイディーア「シャチの証言が正しければ、この男を基準にして自身を再構築した、ということですわね」

ケルシー「未だ羽ばたかず、解き放たれないのは彼が引き留めているからか……? しかしかつて見せたその能力の片鱗は、明らかに突然変異に他ならないものだ。そしてその原因は火を見るよりも明らかであり、単純に抑制作用のみに着目して判断を下すことは明らかに早計だ……」

 

たまに俺にも質問が飛んでくるけど、当然のことながらいまいち理解してない。

というか後ろで控えてガンを飛ばしてくるMon3trが怖すぎてそっちに気を取られてしまい、適当にウンウン頷いてた気がする。

 

グレイディーア「シャチ、サメ、そして私。あなたに呑まれた後、怪物どもの汚らわしい血の昂ぶりが抑え込まれていますわ。何か心当たりはあって?」

スカジ「私たちの進化は競争よ。いくつかの過程を経て、もっとも強力で有望な一柱が残るわ。そして私が進化するためには、相容れない私たちの全てと同化して、ひとつになる必要があるの」

ケルシー「……君と同じように、いわゆる『神』と呼ばれる類の血を内に宿した存在は、複数確認されている。海の怪物はそれらを総意の代弁者に仕立て上げ、同種内での非対称進化的軍拡競争を経て進化の方向性を決定するというのが私たちの見解だ。そしてそれが正しいと仮定するのならば、君の目的は進化に競り勝つために同種の海の怪物を取り込み、その血を統合することか? アビサルハンターはエーギルの改造によって君たちの血を宿し、それ故に君たちにとって『同胞』であると数えられる。ならば、彼女らから青ざめた血を強奪するという手法が君の目的を達成するための第一歩になると――」

 

ケルシー「君たちの見解は概ね理解した。君の現時点での最終的な目的は我々のそれとはおおよそ相容れることはないが、そこに至るまでの過程は共通しているように思える。さらに言えば君をテラの世界に解き放つことは悪手と言っても過言ではなく、ロドスに収監しておくことが最善手であるようだ。……私個人としてはあまりに楽観的すぎるこの選択は好まないが、君が我々と共にあってより深い『学習』を経ること、そして君が拘る彼の、その鎖としての能力に期待するとしよう」

グレイディーア「私たちがあなた方を害するに足る能力を手に入れた場合、わざわざ明るみに出てきた害虫を駆除することを躊躇う理由は無くなるということを忘れてもらっては困りますわ」

スカジ「えぇ、もちろんよ。だってあなたたちがそれを為すことは決してないのだから」

 

 

ね? 分からないでしょう?

 

結局俺が把握しているのは、あくまで海の怪物に属する俺たちを、要注意観察対象処分として拘留することになったってぐらい。

どうもどこぞのミヅキくんと同じような、あるいはそれより上位の危険人物扱いみたいで、タルラのごとく監視装置付きの監獄みてぇな部屋を用意された。おまけに危険すぎるのでアーミヤはじめ感応系能力持ち、あとミヅキくんをはじめとする『海』に関連する人物との接触禁止だとか。

 

外出制限まで課せられちゃって、嫌になっちゃうよね。

 

 

おまけにスカジは――ほぼ奴のせいでこんな危険因子扱いされているのに、精神体になって監獄部屋から抜け出しやがる。

どうもシャチのフリをして医療部に研究部にデータベースにと好き放題ちょっかいをかけに行っているらしく、その度にロドスの偉い人が飛び込んできて怒られるのだ。俺が。

 

曰く、手綱はしっかり握っておけ! とのこと。

そんなこと言われてもなぁ、と思いつつシーボーンをペチペチと叩くと、なんだかんだでスカジが戻ってくる。

 

そんなこんなでスカジの歌声を聞いて、ロドスの日々はそんな感じ。

一回だけMon3trが飛んできた時は本当に死んだかと思ったし、怒り心頭のMon3trに触手の先っちょを少し齧られてすごい哀しかったけど、あれはイレギュラーだ。

 

 

まるで監獄みたいと思うかもしれないけれど、これがなかなかどうして心地良いんだよな。

 

 

まず、食事が美味い。

グムかマッターホルンか他の人か、誰が作っているのか分からないが温かい食事は届けられる。とても良いので、例の触手筆でお礼の手紙を書いて食器と一緒に返却したらケルシーにめちゃくちゃ怒られた。海に由来する力を使うのは止めろとかなんとか。

 

次に、布団が柔らかい。

備え付けのベッドはふかふかのマットレスで、空調の効いた部屋は暖かく、海藻を敷いて布団の代わりにする必要はもうないのだ。よく眠れるし、目覚めも快適。おまけに起きてもやるべきことはない。とても良い。ただ触手を抱き枕にして寝てたら部屋に突っ込んできたグレイディーアに「落ち着かないからそれを出すのは止めて下さると助かりますわ(意訳)」って言われたのは残念。

 

更に、娯楽もある。

流石の俺も部屋に押し込められて何もやることが無ければ退屈で脱走のひとつやふたつも企てるが、聡明なケルシー先生様はそれを見越していくつかの娯楽や暇潰しの提供を確約してくれた。テラで流通する雑誌や書籍、ロドスでの研究を纏めた論文などを電子データで見られるようにしてくれたのだ。

 

特に源石に関する研究論文はスカジも興味津々で、二人して色々と読み漁っている。

全て閲覧し終えるまでは俺たちに退屈の二文字は無い。ロドス、なんて素晴らしい世界だろうか。

 

窓から星空を見上げることが出来るし、最近やってきたのに部屋に閉じこもっている奇妙な新参の姿を拝んでやろうと、封鎖をかいくぐって会いに来てくれるオペレーターもいる。

 

 

素晴らしいじゃないか。

イベリアの片隅で半分ぐらい絶望していた頃とは比べ物にならない。

 

 

 

毎朝、日が上り始めると同時に目を覚ます。

寝ぼけ眼で空を見上げて、遥かに続く荒野と眩い太陽を見つめて、そういえばここはテラだったと思い出す。

 

 

──目が覚めるとテラで

 

 

ふと、気配を感じて前を向くと、いつの間にかスカジが目の前に佇んでいた。

 

ビックリしてちょっとした悲鳴が出たが、どうにか取り直す。

こいつはいつだって神出鬼没で、だけどいつまで経っても慣れることはない。心臓に悪いことこの上ない。

 

グォー(いい目覚ましじゃん)

 

お前は寝るときに俺の上に乗るな。

 

 

そして赤い服の女は、まるで歌うかのように口を開く。

 

「同胞を迎えに行きましょう?」

「……………………?」

 

 

――目の前に濁心スカジがいた

 

 

俺たちが信頼を得たのか彼らが対策を編み出したのかはともかく、しばらくして俺がある程度自由にロドスを移動できるようになってから知ったことなのだが、どうやらスカジはかつての同胞である海の怪物どもとの戦線に赴くことを望み、そしてケルシーはそれを認めたのだという。あるいは、それがロドスへの滞在を許した条件なんだとも。

 

同胞を迎えに行くんだか血を受け入れるんだか大群を導くんだか知らないが、俺は別に構わなかった。

 

 

問題は、どうもスカジが()()()()()()()()()()()()らしいこと。

 

 

「あくまでこれは君たちの状態を観察、調査、そして分析した末に私たちが考えた仮定であるという前置きは必要になるが、君は何処かで、いわゆるファーストシーボーンと呼ばれる個体の血をその身に取り込んだのだろう。……これは、君が君自身の来歴を黙して語らない故になんら確証を持てない予想でしかないが、ともかく君は経緯はともあれかの青ざめた血を内に取り込み、しかし多くの怪物のように呑み込まれて変異することはなく、また自我も同様に保っていた。ファーストシーボーンの意思が彼女という形で具現化しても尚、だ。そして君が何処からかファーストシーボーンの核を手に入れ、彼女がそれを元に擬似的な肉体を得た後であろうとも、宿主と寄生者の関係は決して変化するものでは無いのだろう。彼女の肉体がどれだけ肥大化しようと彼女の青ざめた血は君から供給されており、それはつまり彼女の行動範囲は君によって大幅に制限されるということだ。君が彼女を慰留している、と言い換えても良い。……君がドクターのように記憶喪失で無いと言うのであれば、君が自身の素性を素直に語り、シーボーンの核という危険極まりない物体を何処で入手したのかを供述し、そしてどういった意図で恐魚やシーボーンを取り込むというあまりに不安定で不確実で大きなリスクを背負わざるを得ない手段を選択して彼女をあそこまで成長させたのかを語ってもらいたいところだがな。検査の結果では、多少の変異が認められるものの君は依然として人間だ。尤も、ドクターと同じく君も些か特殊な存在のようではあるが────」

 

以下ケルケル。

 

 

わけのわからないことだが、つまりスカジが海に取り残してきた同胞たちとの邂逅を望み、同化するためには、スカジと共に俺まで危険な化け物との戦いに駆り出されるということ、らしい。

 

 

 

つまり、どういうことかって?

 

 

 

「進化の時は、すぐそこよ」

 

 

 

せっかくロドスまで来たのに、また海に戻らなければならないってことだよ!

 

「……おいおい」

 

 

 

 

詰んだわ、俺

 

 

 

 

 




ガァッ(どんまい!)
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