目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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第二話

 

 

 

岩場を巡り、浜を駆け、たまに海に潜りながら人を探すことしばらく。

気が付いたら夜が明けていたみたいで、心なしか空が明るくなった気がする。

 

気がする、というのは、空が地平線の果てまで曇天続きで、妙に圧迫感と閉塞感を感じさせる薄暗さを感じさせるからだ。

 

そして、明るくなって多少は視野が広がったけれど、相変わらず俺の視界には人の姿は映らない。

 

悲しい。

 

 

あ、でもいくつか収穫はあったぞ。

 

まずはこちら、ボロ布です。

岩場で寝ていたからかもともと着ていた服はボロボロで、おまけに千切れている箇所もあった。だから上着の代わりに羽織ることにした。

 

これで俺も一端の浮浪者だぜと喜びたいところだが、あそこで倒れる前の俺は何をしていたんだろうな……?

 

 

そして次に見つけたのは、こちら、漂着してきたと思われる金属片。

 

元は槍か何かだったんだろうけど、柄の半ばで折れてしまっている。

それでも鋭利な切っ先は健在で、柄の部分に布を巻き付けてみれば包丁のように見えなくもない。

 

「包丁さばきには自信があるぜ」

 

槍は使えないけど、三枚おろしは得意だ。

 

……たぶんこれ、アビサルハンターの武器の欠片だよな。

試しにそこら辺の石を斬ってみたら綺麗に割れたし。すげぇ切れ味、さすがは陸の技術で解析できないだけあるぜ。となるとやっぱりここはイベリアの海岸なのだろうか。

 

しかし武器を手に入れた今の俺は無敵、恐魚シーボーン何する者ぞ!

かかってこいや海の怪物ども! 片っ端からなますぎりにしてくれらぁ!

 

「僚友の匂いがするわね。潮の香りよ」

 

うわでた

 

「なんでついてくるんだよ……」

「おかしなことを言うのね。私はずっとここにいるだけなのに」

 

……そして、どういう訳か分からないが、濁心スカジは俺の後ろをつけ回してくる。

岩場を走る俺の横にふよふよと浮かびながら併走し、砂浜でこの包丁(仮)を見つけた時は興味深そうにしていた。本当に興味を抱いているのか、それともそのフリをしているだけなのかは分からん。

 

なにか食べられるものが無いかと海に潜ったら水中からこちらを覗き込んできていた時は、さすがの俺も死んだと思ったね。というか溺れて死にかけたし。

 

 

かと言って今のところは俺のことを害する様子もないし、何も語り掛けてこない。

血族がーとか同胞がーとか言ってきたら勧誘活動の一環としてかろうじて納得も出来るのだが、こうも何もされないとむしろ不気味だ。

 

何が目的なのかと問いかけても要領を得ない返答しか出てこないので諦めた。

 

親鳥の尻を追いかけるヒヨコのようなものだと無理やり自分を説得させて、そういうものだと思っている。海の怪物にそんなまっとうな生物じみた機能が備わっているのかは知らないが、そう思わないとやっていけない。

 

 

 

そう言えば、ちょっとした洞穴のようになっている場所で火を起こした跡があった。

干からびた海藻や布切れを組み合わせた浄水器らしきものもあって、しかも割と最近のもののように思える。

 

つまり、誰かがいたということだ。これは希望が持てる。

 

「問題は、なんでこんな海辺で野営をしていたということだな……」

 

やっぱり人類滅びてんじゃねぇの?

うぅむ、そう思うと生き残った人類が恐魚に侵略された世界でポストアポカリプスしているように思えてきた……

 

「スカジ、なんか歌って」

「いいわよ」

 

気分が落ち込んできたので歌を聴く。

なぜかは知らないが、このスカジは歌ってくれる。

 

本物スカジも一人で歌っていることがあるらしいけど、こっちのスカジと似たような歌を奏でるんだろうか。

 

スカジの歌を聞いていると、焦りや不安の感情が沈静化されるのを感じる。

そこに洞穴に落ちていた木で火を焚いてやれば、あっという間に焚き火セラピーだ。

 

 

……なんだかやけに早く火を起こせたな。

摩擦法で火を起こそうと思ったら相当の時間と力と根気が必要なハズなんだけど、ラッキー。

 

火の揺らぎは心地よい。これが1/fの力……スカジもアレクサみたいなものだと思えば、なかなか快適じゃないか?

 

「〜♪」

 

琴に腰掛けてふよふよと浮かぶスカジは、目を閉じてご機嫌に歌っている。

 

うん。

うーん。

 

これは、なかなか。

 

 

 

 

「腹減ったな」

 

歌じゃ空腹は満たせねぇや。

スカジの歌声を聞いていると妙に頭がふわふわとして眠気のようなものを覚えたけど、腹の虫が騒ぐもんで眠れない。

 

名剣包丁丸をひっつかみ、穏やかな波がさざめく浜辺に出る。

カニとか貝とか、そういったものはいないだろうか。飲水も作りたいので、鍋か何かが漂着していれば嬉しい。

 

 

砂を蹴って屹立し、どれどれ俺の獲物はいずこと目を凝らすと──

 

「ガァ!」

 

なんかいた。

 

なにこの……簡単に言うと、足が生えた鯛? みたいなの。

尾びれのあたりから触手が生えていて、それで砂の上に自立している。

 

あとなんか鳴いた。ガァって鳴いた。

 

えなに?

テラの世界の鱗獣()ってこんなに存在感あるの?

 

ジェイはこんなのを魚団子にしてるの?

 

「あら……怖がらないで、小さな同胞。私がここにいるわ」

「ガァ?」

 

恐魚じゃねぇか!!

 

そりゃそうだよな!

触手の足が生えた魚がいるはずないもんな!

 

 

何やらスカジは恐魚と親しげにコミュニケーションを取っているが、俺は知っている。

 

恐魚は、人を食う。

 

深海教会だかなんだか忘れたが、海の怪物を崇める邪教徒どもは生贄を捧げていた。

ここは、俺の知る人間が生態系の頂点に立つ世界では無い。捕食者はそこら辺に溢れていて、それが辛く厳しいテラの大地なのだ。

 

「……」

 

気持ち程度に包丁を構える。

 

見た目だけは一丁前に小奇麗なスカジのせいで騙されそうになるが、海の連中は等しく敵なのである。俺がなぜか殺されていないのは奇跡に過ぎず、今の俺は人喰い熊とにらめっこをしているような状況にあることを忘れてはならないのだ。

 

「……そう。あなたは一人なのね。でも大丈夫よ」

「ガァ!」

 

逃げよう。

 

恐魚は一匹しかいない。走って振り切ろう。

それが無理なら、やられる前にやるしかない。

 

大丈夫、俺には武器(包丁)がある。

 

「包丁……」

 

うん、包丁。

 

「ガァッ!」

「魚……」

 

恐魚。

 

否、魚。

触手の生えた鯛。

 

「……腹減ったな」

 

「ガァッ!?」

 

腹が減った。

そう、とにかく腹が減ったのだ。

 

腹の虫がぐうぐうとやかましくて、寝ようにも寝れやしない。

そして俺の前にいるのは恐魚、つまりは魚だ。例え触手が生えていても魚だ。

 

「むしろ鯛と蛸のあいのこか? ならばお前の名前はタイコだ」

「ガァ……」

「どうだ、俺に食われてみないか」

「ガ、グァ…………」

 

こらこら、そんな「えぇ……」みたいな空気を出すんじゃない。

お前恐魚のくせにやけに感情豊かじゃないか、脂が乗っていて美味そうだ。

 

なぁタイコ、俺ならお前を立派なお造りにしてやれるぞ。俺は腕利きの板前なんだ。誰がなんと言おうと立派な包丁を手にした料理人なんだ。

 

 

……恐魚って生食は良くないんだったな。

確か火を通したら大丈夫で、干物はアウトだってとある船長が言ってた気がする。

 

「よし、お前は焼き魚だ。もしくは焼きダコだ」

「……ガッ」

 

もう我慢ならん、とにかく腹が減った。

 

ミヅキやアルフォンソみたく、なんかこう、いい感じに適応するかもしれない。

仮に適応出来なくて海の怪物の仲間入りを果たしてしまったとしても、濁心スカジがここにいる以上は世界が滅びかけの可能性が高いんだ。こんな訳の分からない場所で空腹に喘いで死ぬよりも腹を満たしたい。

 

「どうだ?」

「…………ガァ」

 

なんと、言葉を介さないはずの恐魚が俺の言葉に反応しておずおずと頭を差し出してきた!

 

大将、痛くねぇように頼んますわ。

 

そんな声なき声を聞き、俺は溢れる涙を抑えられない。

任せろ。魚を釣って〆て食べるのには慣れてるんだ。苦しませずに俺の血肉に変えてやる。

 

もはやお腹と背中がくっついてしまっている。

涙ながらに包丁を強く握り締めた俺は、本能に従ってそのまま──

 

 

「あなたも、殺すの?」

 

 

うるせぇ黙ってろ!!

 

 

……と叫ぶワケにもいかず、黙って包丁を下ろす。

 

スカジは俺のことを見つめていた。

俺とタイコのことをじっと見つめていた。

 

「あなたも、かつての僚友のように私たちを殺そうとするの?」

 

やめろやめろやめろ、そんな目で俺を見るんじゃねぇ。

俺とタイコはもはや心で通じあった仲なんだ。それを今更どうこうしようなんて、そりゃねぇぜ。

 

「ガァッ」

 

どうにかしてくだせぇよ大将、というタイコの視線を受けて、仕方なく手ではなく口を動かす。

 

「いいかスカジ、俺は決してタイコを殺したいわけじゃない。食べるんだ」

「……あなたはまだ完全な血族じゃないわ。捕食による同化は出来ないのよ」

 

何言ってんだこいつ。

 

「同化とか進化とかじゃないのさ。俺はタイコを食う、タイコは俺の血肉になる。『生きる』ってのはそういうものさ」

「生きる……?」

 

モスティマさんのセリフを引用して言いくるめる。

スカジは何やら小難しい顔をして考え出したので、これ幸いと再び包丁を握った。

 

サラバだタイコ、お前は俺の中で永遠に生き続けるんだよ。

 

ガァッ(光栄です)

 

えいっ

 

 

 

 

タイコは、よく脂の乗った立派な鯛であり、引き締まった蛸であった。

 

もし仮にコイツが人肉を食べていた場合はプリオン病が怖かったが、捌いてみるとエビやカニを捕食した痕跡があったので大丈夫だろう。というか今さらそんなこと気にしたくない。

 

火を通せばイけるというアルフォンソ船長の言葉を信じて、あとは念の為寄生虫などを警戒してタイコを火に通せば、推定テラでの俺の初料理の完成である。

 

 

いざ実食。

 

「うまっ!!」

 

なんとジューシーな旨味か! よく熱された脂が口の中を跳ね、するりと喉を流れ落ちる赤身は蕩けるかのように解れていく! 火を通したら赤くなった触手を口に含めば、弾力のある筋繊維が食べ応えがあって抜群に美味しい! 10点中100点!

 

米が欲しくなるな。

テラの世界にも極東あたりなら米があるだろう。もしくは醤油……せめて醤が欲しい。

 

「………………」

「……えっと、いるか?」

 

……スカジがじっと俺の食事風景を見つめてくるのが、とにかく気になって仕方がない。

もしかして腹が減ったのかと聞くだけ聞いてみたが、ふるふると首を横に振るだけで何も言ってこない。

 

怖い。

なんでついてくるんだよ。

 

 

しかし空腹とは不思議なもので、スカジのことはほどほどに警戒しつつもあっという間にタイコを食べ尽くしてしまった。

内臓は捨てたが骨と皮が残っている。捨てるのも忍びないし、まだ何かに使えるかもしれないので海水で洗って干しておくことにした。

 

これで名実ともに俺とタイコは一心同体だ。

ありがとう、タイコ……ひとつの生命体よ……そなたが俺の命を繋いだのだ……

 

「…………」

 

スカジはずっと黙っている。

今まではご機嫌に歌っていたもんだから、黙られると怖くて仕方がない。

 

もしかして同族を食べられて怒ってるのか?

 

うーん気まずい。

こういうときは歌を歌うに限る。

 

せっかく暫定イベリアにいるんだし、場に適した歌にしよう。

 

「"黄金時代が帰ってくる"!」

 

急に大声を出したからスカジがビックリしていた。

 

歌い終わったら、喉が渇いてきたタイミングでちょうど雨が降った。

ラッキーだ、これでしばらく水に困らない。

 

 

 

 




最後のは皆大好きThe golden age~です
歌詞利用のガイドライン? どれどれ→アークナイツのアプリ版楽曲ほぼ無いじゃん!(情弱)

Operation Bladeとかはあるのに……
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