目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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たくさんの感想・評価ありがとうございます。
家訓により感想欄への返信はあまり出来ないのですが、嬉しくて何回も見てます。十回ぐらい。

あとこの作品は終始ほのぼのです


第五話

 

 

 

そりゃあもうめちゃくちゃビックリしたが、辛くも渾身の絶叫が響き渡ることはなかった。

 

頑張って抑え込んだからだ。

突然の遭遇に驚きすぎて、声すら出なかったというのもまた、正しい。

 

ズリュン!

 

そしてその代わりに、()()()()()

 

「おや、もしかして同郷か?」

 

なにこれ知らない!

 

内心では白目を剥いてパニックに陥っていたが、その一方で俺の口はスムーズに動いた。

触手も俺のパニックに反して極めて穏やかかつ理知的に動いた。まじでなにこれ。

 

「もはや漁など行われなくなって久しい。入れ食いの限りだよ、ミスター」

「顔に覚えはないが、俺のお客様かね? ならば、こんな辺境の滅びた土地での出会いを祝そうじゃないか」

 

キャノット。Mr.グッドイナフ。

まぁ明らかに偽名だわな。テラの世界で力を持つ存在はたいてい偽名を名乗るものだし。

 

荒野のならず者もとい師団クラスの戦闘集団、錆槌(ラスティハンマー)と深い関係にあると思われる怪しい商人。

 

俺にはその危険度が測り切れないが、『海』が陸への侵攻を開始してもなお商いを続ける存在だ。

少なくとも、まともな先民だとは思わない方がいいんだろうな。

 

 

…………というか濁心スカジの存在は非常によろしくないのでは?

 

10人に聞いたら10人が間違えようのない人類の敵って答える、エイリアンとかプレデターみたいな類の怪獣だぞ。半分ぐらいウルトラマン案件だぞ。

 

 

スカジは……おぅふ、当たり前のように俺の横でふよふよしてやがる。せめて……せめて地に足つけてさえいれば!! 普通のエーギルですと誤魔化せたのに!!! 浮くな!! 歩け!! テラの世界の普通の住民は安心院(あんしんいん)さんでもなけりゃ飛ばないんだよ!!

 

「しかしまぁ、なんとも……()()()()()で、しかもよりによってイベリアで釣りとは、新手の自殺志願者かと思って焦ったぜ」

「……一人?」

「違ったか? 連れ立ちは見えないようだが」

 

…………あれ。

これは、もしかして助かったのか?

 

キャノットの視線は──俺ばかりを見ていて、曖昧で読めない表情のスカジへは一瞥もくれない。

まさか、見えていないのか? こんなに存在感が溢れているのに? あーやめろやめろ出てくるなシーボーン! 今はダメだ! なんか良い感じの雰囲気になってるのにお前のせいで場が乱れる! ……よし、海に帰ったな。一安心。

 

それにしてもますます俺の横を浮かぶ電波女のことが分からなくなっていくが、そんなことは関係なく俺の黄金の脳細胞が勝手に状況を推察して、絶え間なく活動信号を送り始めた。勝手に口が動く。

 

「すまない、気のせいだ」

「そりゃあ良かった。こんな果ての大地にたくさん人がいちゃあ、あっという間にバケモノどもの餌行きだからな」

 

俺だって、ここ数週間だか数ヶ月だかをムダにしてきたわけではないのだ。

 

もし仮に人と出会ったら何を聞こうかとか、俺自身のことをなんて説明しようかとかずっと考えることで時間を潰してきたのだ。やることがなさすぎて練りに練られた脳内シミュレーション(商人と遭遇ver)は、次の言葉を淀みなく導く。

 

「俺は旅人なんだが、偶然この滅んだ村を見つけてな。ここは恐魚も少ないし、存外に居心地がいいんだ」

「そりゃあ結構だ。この世界で一人旅とは珍しい。どうだ、せっかくだから買い物していかないか?」

 

同類のよしみで安くしておくぜ、とキャノット。

 

キャノットの種族はエーギルなのだろうか。触手が見えるからたぶんそうだろう。

ならば、キャノットは俺のことをエーギルだと思っているようだ。

 

 

……まぁ、なんか触手生えてきたしな。

今もウネウネ動いている。試しに曲がれ! って念じてみたら曲がった。伸ばそうとしたら伸びた。

 

まじでナニコレ!?

 

おもむろにスカジを見やる。

 

「捕食は同化で、消化は適応よ。あなたが受け入れた血は私たちをより高尚へと導き、それはやがて廻ってあなたの血肉になるの。" The Awakening swirls(進化は廻り、そして) and churns unending(終わらないものだろう)" よ?」

 

お前か!

 

恐らくスカジの言葉も聞こえていないであろうキャノットの手前、そう叫ぶわけにもいかなかった。俺の意思を反映して触手が地面を叩き、ペチンと湿った音が鳴る。

 

「……龍門幣は使えるか」

「勿論だ」

 

お客様に寄り添うキャノット旅商店、ここにあり。電子決済には未対応。

 

コートを開く。

ドクターお馴染み、お買い物の時間だ。

 

……おっ、ミチビキリンジュウあるじゃねぇか! こりゃ嬉しい、おいくらで……5万龍門幣? 高いのか安いのか分かんねぇ……

夜陽花に、燐火オリジムシも……うわ、シラクーザ人の憤怒だ。食い物はあればあるほど嬉しいので買っておこう。味は知らん。

 

コイン式おもちゃは……源石錐が無いから意味ないか。

深海の支配者の彫刻? なんでこんな趣味の悪いもの売ってるんだコイツ(キャノット)。もちろん買っとこう。

 

「おい、待て……なんでこんなものを売っている」

Got something that might interest ya, Haha(いいシロモノだろう? ハハハ)

 

やかましい!

 

そこにあったのは、()()()()

厄ネタもいいところじゃねぇか!! どこから仕入れたんだよコレ……え? 海辺で拾った? 商魂逞しいなぁ。

 

「それでどうする? お買い得だぜ?」

「もちろん買うが?」

 

なんとなく素手で持つのは嫌だったので、触手に握らせる。

ギュッと保持させてみれば、なかなかの固定力だ。触手って意外と便利だね。

 

「他にもいくつかあるぜ。見ていくだろう?」

 

 

 

 

……徹底的に搾られた!

 

廃村で見つけたヘソクリがほぼ残っちゃいねぇ!

 

「公平な買い物、公正な取引。素晴らしいもんだな」

 

相場が分からないからぼったくられているかどうかも分からない。

かといって下手にあれこれ聞いてボロを出すことも頂けない。

 

まぁそもそも元が俺の金じゃないからな!

存在しないものを無くしても痛む懐なんてないぜ。

 

 

そして、楽しい買い物はこれで終わりだ。

ほどよく金を落として会話を重ね、慎重に言葉を選びながら本題に入る。

 

「──そうだ、キャノット。君はロドス・アイランドを知っているか?」

 

俺が知りたいのは、一貫して人類の生存の是非。

しいては、テラで数少ない信用できる組織の存続。あるいは、海の脅威を正しく認識する集団への接触方法。

 

キャノットは劇団にも海にも現れる商人だが、それはそれとして世界の世情にも明るい様子がある。

 

最初は面食らったが、キャノットとの接触はまさしく渡りに船なのだ。

 

「情報ひとつも俺にとっちゃ商品なんだが、お前は良客のようだからな。ひとつサービスしてやろうか」

 

なぜか楽しげな声音でキャノットが語る。

 

「ロドス、もちろん知ってるぜ。あそこのドクターは切れ者だし、何よりお得意様だ」

「ロドス・アイランド号がどこにいるかは?」

「おいおい、それ以上は本当に金を取るぜ? ……ちなみに場所は知らないな。そういうのはトランスポーターにでも聞いてくれ」

 

ラテラーノの腕利きを紹介してやろうかと言われて、俺は思わず感嘆の溜息を零す。

 

確信した。

 

ロドスは、健在だ。

キャノットが虚言を吐いていないのなら、ラテラーノという国家もまた、同様だ。

 

つまり、大いなる静謐以降に海の侵攻は起こっていない。

テラの世界は、未だに逞しく生き続けている。

 

じわじわと俺を苛んでいた孤独感が一気に取り払われたような気がして、安堵感からその場に座り込みたくなってきた。

 

「おいおい、そんな顔をしてどうした? ロドスに会いたい人でもいるのか」

 

会いたい人。

思わず、キャノットには見えていないことを忘れて、スカジを見た。

 

何やら紺碧の心を指先で突いている。

やめろやめろやめろ! 危険物が危険物に近付くんじゃない!!

 

触手を繰って引き離すと、少し悲しそうな表情を見せた気がした。

 

……ロドスが健在なら、そして海の侵攻が起こっていないなら、スカジはどうなっているのだろうか。俺の眼前に浮かぶこの女の正体を含めて、スカジや他のアビサルハンターと出会って確かめたいことは数多い。

 

「……そうだな。焦がれている人がいる……かも、しれない」

「そりゃいい。人の出会いは一期一会で、繋がった関係は千金だ」

 

キャノットはいそいそと店仕舞いを始めた。

 

俺も行こう。

勇気とやる気と元気と希望が湧いてきた。心に宿った灯火は消えていない。

 

…………あ、そうだ。

 

「地図は売っているか。海に流されてしまってな」

 

そんなものハナから持ってないけど、地図もなしに彷徨う旅人なんていないからな。

 

キャノットは少し考えるような素振りを見せた後、「やれやれだぜ」と言いたげな仕草をしつつこう言った。

 

「本当は貴重品なんだが、良き友人との出会いを祝してサービスしてやるよ」

 

ほれ、と丸められた紙を投げ渡される。

ありがたいが、貴重品を投げて寄越すんじゃない。

 

広げると、大雑把で古びた年代物の地図が広がっていた。

 

地名は……読めるな。ここがイベリアの国境で、こっちがラテラーノ。

東にあるのがレム・ビリトン。ウルサスは相変わらず大きいな。

 

「俺たちが今いるのは、イベリアのココ。当然だが多くの国は移動都市だから、具体的な場所はトランスポーターでも捕まえることだな」

「感謝するよ」

 

キャノットは、今度こそ荷物を纏めて背を向けた。

 

「お前が買い、俺が売る。今後ともよろしく頼むぜ、お得意様(兄弟)

 

消えた。

 

比喩でもなんでもなく、瞬きする間に、俺の眼前からいなくなっていた。

 

何者なんだろうな、あの男。

疑問に思いながらスカジを見やると、彼女も不思議そうに首を傾げていた。

 

 

まぁいいや。

買い物の成果を触手に持たせ、廃村の拠点に向かって歩き出す。

 

ラテラーノへ向かおう。あそこはテラの世界では比較的平和で友好的な国だ。サルカズを除くが。

 

そこでどうにかロドスの行方を辿り、合流する。

後はどうにでもなれー、だな。ケルシー先生がどうにかしてくれることだろう。

 

 

地図を開く。

 

どうやらラテラーノまでの道のりには、いくつかの村や町が点在するようだ。

全ての箇所にバツ印が付けられているのは……全部滅んでいるからか? よく見るとガリアの記載もあるが、やはりバツ印がある。

 

少し寂しいが、素性不明の得体の知れない自称旅人である以上、ことイベリアではその方が都合がいいかもしれない。

 

「……これは、何かしら?」

 

スカジが何かに気付く。

どうやら地図の裏側に何か書いてあるようだ。

 

どれどれ……

そこには、汚い走り書きで短い文章が刻まれていた。

 

 

ロドスにはアビサルハンターがいるぜ。

気をつけろよ、『同郷』から来たお得意様

 

 

ひょわぁ……

 

 

 

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