目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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第六話

 

 

 

村を巡って三千里。

恐魚を食べて五千匹。

 

最近気付いたんだが、たまにカタコトで喋る恐魚がいるんだが、もしかしてシーボーンか?

 

やけに会話が成立するなぁとは思ったけど、どこで言葉を学んできたのやら。

まぁ全部食っちまうから関係ないや。よく喋る奴ほど身に脂が乗っていて美味しい。

 

そしてもう一つ気がついたのだが、前まで頑なに接触できなかったスカジに触れるようになった。

 

キッカケは食事中である。

キャノットの元で購入したシラクーザの憤怒を食べ、なんともまぁ絶妙な味に顔を歪めながら食べていたら、スカジが興味を持ったような表情で俺を見つめていたんだ。

 

あれやこれやと色々教えていたからスカジも人類の料理に興味を持ったのかと思って、ふと「食べるか」って聞いてみた。

そうしたら頷いたものだから、口に放り込んでみたんだよ。元が海の怪物だからか、存外にこのチョコレートパスタを気に入ったらしい。やはり海の怪物と人類は相容れないようだ。ガリアの民なら別かもしれない。もう滅んでるけど。

 

食後、スカジの頬にチョコのソースが付いていた。

彼女は色白だから、黒いチョコソースは酷く目立つ。

 

なんとなしに頬を拭ってやって、その時はそれで終わり。

 

 

気付いたのは、もう少しあとだ。

スカジが頬に手を添え、やけにぼうっとしている。

 

紺碧の心を弄り回していた俺は、その様子が気になった。

 

呼びかけても反応しない。眼前で手を叩いても答えない。

シーボーンが出ていたので一緒に踊ってみたが、やはり無反応。

 

The golden age will return again でもやはりダメ。

 

どうしたものかと困り果て、スカジの顔を眺める。

 

無視すんなこのヤロー、とやわっこい頬を突っついて──

 

 

パシッと掴まれた指に感じる冷たさに、思わず変な声が出た。

先程まで呆然としていたスカジは俺の手を掴み、真正面からこちらを見つめてきている。

 

普段は所在なさげに漂う腕の力は存外に強く、手を引き剥がせない。

 

「……そう。あなたは暖かいのね。深く昏い海の底でも、あなたは変わらずに灯火を抱き続けるのね」

 

心底ビビったが、それはそれとしてスカジに触れるのはこれが初めてだと思った。

彼女の肌は見かけ通りにひんやりとしているが、海の怪物のくせして湿っぽさはない。少しだけ暖かい気がする。

 

「私も連れて行ってちょうだい? 私も、かつて取りこぼしたものを、取り戻したいの。惜しいと思ってしまったから」

 

こ、怖ぇぇぇぇ……!!

 

ガチ恋距離にビビり倒していると、空いている方の手に触れる感触があった。

眼前のスカジから逃げるようにそちらを見ると、シーボーンが何かを俺の手元まで押し出している。

 

紺碧の心?

いらないよ! 今それ役に立たないでしょ!

 

ペチペチとシーボーンの頭を叩く。

鉱石みたいにひんやりしていて、だけど硬さの中に弾力があって、ほんのりと生物であることを感じさせる質感がした。

 

 

 

それ以来、スカジを触れるようになった。

 

俺が火に当たっているとスカジも傍によるようになり、反対側にはシーボーンが来る。

歌を歌って、キャンプファイヤーだ。焚き火セラピーの効能を理解する感情が海の怪物にも目覚めたようで、なんとも嬉しいかな。

 

 

……もしかすると、キャノットがスカジの姿を認められなかったのは俺がスカジに触れなかったことと同じなのかもしれない。

つまり、スカジに触れるようになった今では……これは要検証だ。今後の身の振り方にも関係してくるから慎重に行こう。

 

 

 

それからは、廃村を巡って物資を回収し、少し休んでまた次の村へ進む日々だ。

 

キャノットからのメッセージと思わしき文章を見てようやく気付いたのだが、世界が健在の場合はアビサルハンターの生き残りがいるということになる。

スカジ……はよく分からないが、スペクターやグレイディーア、それにウルピアヌスもいるかもしれない。

 

よく考えてみると、彼ら彼女らの状況次第では俺にピンチが訪れるわけで。

スペクターが深海教会に捕らわれているうちはともかく、ローレンティーナが表に出てきたら立派なアビサルハンターだ。ミヅキのことを容赦なくぶっ殺そうとするグレイディーアは言わずもがな。ウルピアヌスも同上。

 

というかロシナンテに跨る例の騎士も良くないな。

アイツはもう海の怪物絶対殺すマンだとでも思った方がいい。

 

 

 

ある日のことである。

 

「〜♪」

Yes I'm on fire. (俺こそが)Ignited by a burning desire(炎、燃え滾る欲望)!」

 

スカジとご機嫌に歌っていたら、シーボーンがゲシゲシと俺に頭突きをしてきた。

なんだなんだと思っていたら、俺の服の裾を口で引っ張って窓際まで連れていかれる。

 

外を見ろと顎で指示されたので、仕方なく外を見る。

相も変わらず廃墟の景色で、おまけにその町は恐魚どもの攻勢が激しかったらしく、他よりも損耗の様子が酷い。

 

ほとんどの建物は崩れており、俺が仮拠点にした建物もヒビだらけ穴だらけの有様だ。

 

 

そんな街並みを見て、ひでぇ有様だと首を振って──咄嗟に、窓枠に身を隠した。

 

「怖がらないで。私がいるわ」

「いいから隠れろって!」

 

ついてきたスカジを触手で掴み、強引にしゃがませる。

最近は触手の扱いも上手になってきた。腕が一本か二本か三本ぐらい多くなったようなものなので、料理にも釣りにも使える。

 

ちなみに釣竿は捨ててきたので触手を釣竿代わりにしている。とても便利だ。

 

 

いやいやそうではなくてと首を振り、慎重に目だけを出して様子を伺う。

そこにいたのは、一人のリーベリだ。

 

ハンドキャノンとランタン。

機動力を重視したであろう軽装は、対多数を想定したものか。どこぞのヤーナムにでもいそうな格好は、物々しい雰囲気で歩いている。

 

「審問官、か」

 

海の脅威に晒されるイベリアの、法治機関。すなわち裁判所の人間。

 

なるほど確かに、陸の国々が健在なら、滅びかけとてイベリアも未だに健在だ。

ならば裁判所は確かに機能していて、わざわざこんな滅びた町まで来たのは巡視だろうか? ご苦労様です。

 

 

キャノットに続く二人目のテラ人との遭遇ではあるが、俺には飛び出す気も無ければ、見つけてもらおうという気持ちすらなかった。

 

だって当然だろう?

なんか触手が生えてきたことも相まって、俺は自身をエーギルと偽ることにした。そしてエーギルは深海教会と繋がっていた者が多く、イベリアの裁判所からすれば猜疑の対象だ。

 

あの審問官に見つかって、誰何され、エーギルと答える。

当然、こんな廃墟で何をしているのかと問われ、旅人だという言葉は信用されずに裁判所へドナドナだろう。

 

そうなったらもう終わりだ。

 

なんせ俺はエーギルじゃない。

触手の正体は分からない。そして海の怪物の最上級、高級シーボーンの濁心スカジまでついて来る。

 

 

その場で処刑されるわ!

 

「どうして隠れるの? ダーっと行って、ドンッと倒して、パパッと片付けたらいいじゃない」

「そこが人間の社会の面倒くさいところだ。短慮は巡り巡って自身の不利になる」

「そう……やっぱり陸の仕来りは面倒ね」

 

スカジの全身を触手で簀巻きにしておく。

 

なんだかんだ言って、こいつは人類の敵なのだ。

放置しておいたらペロッと平らげてしまうかもしれない。そして俺は人類の敵になるつもりはない。

 

……スカジが本気を出したら、この拘束にも意味が無い気がするなぁ。

 

 

 

兎にも角にも、あの審問官は見なかったことにしよう。そう思った。

 

イベリアは危ない。

いつ海の怪物が押し寄せてくるか分からないし、いつアビサルハンターの生き残りが押し寄せてくるか分からないし、いつ審問官に見つかるか分からない。

 

こんな寂れた国、とっととおサラバだ!

 

 

 

最後に立ち寄った比較的大きな街で、幸運なことにバイクを発見した。

かなり錆びて年季が入っていたが、奇跡的にエンジンがかかったのだ。

 

燃料は当然ながら源石燃料。

テラの世界ではこれが一般的なのだろうが、俺がどんな渋面を浮かべたのかは想像に難くあるまい。

 

この源石のおかげでテラの世界は大いに繁栄し、源石のせいでテラの世界には数多くの悲劇が撒き散らされた。ちょっとやそっとの使用では問題ないだろうが、俺は鉱石病に罹患しないだろうかと不安になってしまう。

 

グァ?(今更では?)

「確かに」

 

たまたま現れたペリカンみたいな恐魚に言われて、確かに今更かと思い直す。

『海』も源石も似たようなものか。『海』産物は美味で、源石は便利。そう考えるとなんだか許容できる気がした。

 

「気が楽になったよ。お礼にお前は刺身にしてやる」

グァオ(醤がお勧めでっせ)!」

 

バイクでトコトコ、(ほぼ)一人旅だ。

イベリアへの滞在の間に作っておいて恐魚の保存食もたくさんあり、この世界で最初に目覚めたあの日のひもじさはどこにもない。

 

あぁ、タイコ。

君の繋いだ命はここで輝いているよ。

 

 

ちなみにスカジはタンデムしてる。横座りで。

 

それ自転車の乗り方じゃないの?

果たしてこの世界には「自転車の2人乗りで横座りする女の子」という概念が存在するのだろうか。仮に存在するとして、スカジはどこでそんなものを学習してきたというのか。

 

「……? この乗り物に乗る時は、こうするんじゃないの?」

 

もしかして俺の記憶から学習してる?

 

 

そんなこんなで、バイクを荒野に走らせる。

 

目指すはラテラーノ、テラ文明の光を求めて。

 

 

 

 

 




紺碧の心

生まれた場所を呑み込んだ後に絶命した「ファーストボーン」が残した核心となる器官。これと同化できるのはシーボーンだけだが、そこにある感情を理解できるのは人間だけ。ああ、どんなに進化を続けようとも、双方の苦しみは変わらず存在し続けるのだ。


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