目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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感想くれたそこのあなた、正解です


第七話

 

 

 

私は流浪のイベリア人です。

種族はエーギルですが、生まれはイベリアの辺境です。

 

大いなる静謐でイベリアが被災して出身の町が滅びて以来、各地を旅しています。

最近はイベリアに里帰りしていたのですが、やはりエーギルというだけあって厳しい目で見られたのが辛くてすぐに出てきました。

 

そんな時に、不幸にも野盗に襲われ、身ぐるみを剥がされてしまったのです。

 

残ったのは服とバイクと幾ばくかの財とこの体だけ。

身分を証明するものは何も残っていません、およよよよ。

 

 

そういうことにした。

 

 

荒野でたまたま遭遇したキャンプ中のトランスポーターに少しばかり『誠意』を渡し、ラテラーノの移動都市が停泊している場所を教えてもらった。

それから入国検査で身の上(仮)を説明する。

 

入国審査官が某堅物みたく公正な人間であったら『誠意』も示せないなーと思ったが、むしろ審査官は役人にしてえらく気さくで、俺の身ぐるみ剥がされたという嘘を聞いて受け取ることを拒否したぐらいだ。

 

「一文無しからチップを受け取るほど貧窮はしてないよ! ようこそラテラーノへ、ゆっくりしていってね!」

 

おまけに安い宿まで教えてもらう始末。

やはり豊かな国ではおおらかな民が生きるのだろうか。

 

つい先日まで極限サバイバルをしていた俺からすれば、若干の拍子抜けである。

 

愛用の包丁丸も、街中で抜かなければ携帯していいらしい。

下手に武器を抜くと捕まるし国外追放と言われたが、さすがは銃と天使の国だ。

 

 

入国の際に鉱石病の感染者では無いことを確認するための血液検査を受けさせられたのは、やはり鉱石病患者の苦境を感じさせたがね。

ちなみに検査の結果は血液中源石密度が驚異の0.00u/Lを記録したため機材の故障を疑われるトラブルがあったが、まぁ些事だろう。

 

「エーギルですので!」の一言で乗り切ったが、例の気のいい役人にロドスのラテラーノ支部で検査を受けることをオススメされた。思わぬところでロドスの存在を知ることが出来て嬉しかったし、何より当面の目標もここで定まった。

 

 

 

ちなみに、スカジはどうしたかというと、これがなかなか奇天烈なことになっていた。

 

どこで何をどう学習してきたのか知らないが、何やら珍妙な進化を迎えていたのだ。

具体的に言うと、実体と精神体(仮称)を使い分けられるようになっていた。

 

実体を持つときは触れるし他の人にも見える。精神体(仮称)のときは俺にしか見えないし触れない。野営していたトランスポーターで試したら分かった。ちなみにその能力を教えてくれたのはシーボーンである。

 

お前、濁心の時でも言葉足らずなんだな。

 

精神体(仮称)のときは魚みたいな謎のエフェクトが周囲を浮遊しているから一目で分かる。これもシーボーンが教えてくれた。

 

ともかく、この能力で俺にひっついてラテラーノへの入国を果たしたのである。

 

「君はおもしれー女だな」

「面白い……これが『面白い』という感情なの? よく分からないわ」

 

ちゃうねん。

 

 

 

入国してからは実体に移行し、俺の後ろをついてくる。

浮くなと言ったらしっかり歩いてくれるから助かるところだ。擬態の必要性を教え込んだだけある。

 

しかしまぁ、困ったのは、いつものように休憩しようと椅子に座り、そのままいつものように歌っていたら投げ銭がどんどんと飛んできたことか。

 

確かにスカジの声はよく澄んでいるが、これはまったくの想定外。

文明の外で暮らしていた弊害がこんなところに現れてしまい、まったく反省するばかりだ。

 

 

案の定、公証人役場の職員がやってきて「無許可でのストリートライブはおやめください」と怒られる始末。入国審査を通していないスカジの存在はよろしくないので、投げ銭だけ回収して華麗に逃げた。その際にスカジを抱え上げて橋から飛び降りるように華麗に逃げたので、拍手喝采を受けた。役場の人間にはもっと怒られた。

 

許可を取ってやれと言われたので、どうやら許可を取ればストリートライブだろうが大道芸だろうが紐なしバンジーだろうが爆破だろうがなんでもやっていいらしい。

さすがのラテラーノだ、興奮してきたな……

 

 

ちなみに赤い服に長い銀髪のスカジはそりゃあもう目立つことこの上ないので、精神体(仮称)への変化能力は非常に役に立っている。

 

「……ところで、その能力はどうやって手に入れたんだ。君たちの『進化』にそのような発想は無さそうだが」

「あなたに教えてもらったのよ。幻覚と現実を渡り歩く超常、認識を往く者、世界を呑み干す赤い鳥。あかしけ、やなげ――」

「それ以上はいけない」

 

い、一刻も早くロドスに行かねば!

ただでさえタチの悪い海の怪物がさらに手に負えなくなる!

 

いや、そんな! あの赤い鳥はなんだ! あぁ、空に! 空に!

 

……冷静に考えたら突然触手が生えてきた俺が言っても説得力はないか。

それにこの世界、クソトカゲぐらいなら普通にいそうだしなぁ。むしろ人類まとめて焼き尽くしてしまった方がいいのかもしれない。

 

 

「……お、着いた」

 

そんなこんなで見えてきたのは、美しい街並みの一角にある一つの建物。

他と同様に景色と調和したそこは、しかしひとつのシンボルマークを掲げ、その存在感を遺憾なく発揮している。

 

菱形の枠に、ルークの駒。

製薬会社でありながら、強力な軍事力も備える一大勢力。

 

この世界の行く末を握る、まさしく鍵となる存在。

 

「鍵……私は、あなたの言う彼らが銀の鍵であることを望むわ」

「そして、君は『鍵』をどうするつもりだい?」

「鍵は同化するものではないわ、使うものよ。そしてその成果は、担い手の進化が決めるもの」

 

よくわからないが、まぁラテラーノなどという人と人が集まって形成された大規模な社会国家の中で大人しくしてくれているのだから、大丈夫なのだろう。

 

 

 

――ロドス・アイランド。

 

正確に言うと、ロドス・アイランド、そのラテラーノ支部。

 

 

本艦と比べればあまりにもちっぽけであろうその建物の前に立つと、なんとも感慨深い気持ちで胸がいっぱいになる。

かつては人類の生存を願っていたたった一人の小さな男が、どうにかこうにかここまでやってこれたのだ。傍にいる赤い女の力の影響がどれほどあるのか知ったことではないが、それでも俺は辿り着いた。

 

 

手紙を取り出す。

ラテラーノに入国してすぐ、急いで認めた。

 

文字を読むことはできても、しっかりと書けているかは不安だが……まぁ、ダメならそのときだろう。紙はイベリアで用立てた。インクがなかったのだが、そういえば以前食べた恐魚の中に蛸のように墨を吐き出す奴がいたのを思い出し、試しに触手を力ませてみたら墨が出てきた。

 

なるほどこれが『進化』かと思いつつ、触手筆で書き上げた渾身の一筆である。

 

 

支部と本艦の間で、何らかの物資のやり取りがあるはずだ。

俺は本艦の場所も分からないし、確実に仕事をこなしてくれそうなトランスポーターの伝手もない。ならば、当人たちに任せてしまうのがいいだろう。

 

 

扉を開く。

 

「すいません。ロドス本艦にいる知人に、届けてほしい手紙があるんですけど」

 

思いの丈は綴った。

返事があったらうれしいなぁ。

 

気分は恋文を送る乙女だが、あいにくと俺は返事を待ち続ける甲斐性があるんだ。

ケルシー先生もロドスの皆もクソ忙しいだろうし、暇になってふと思い出した時にでも返事を寄こしてほしいものだよ。

 

……今って時系列はいつごろなんだろうか。ラテラーノはもうサミットを開催したのかな?

 

 

しばらくは、役場で許可を取ってストリートライブやら大道芸をやって生計を立てるとしよう。

支部にいたロドスの人たちもいい人だったから、せっかくだし仲良く出来たらいいな。

 

よし、行こうかスカジ。

 

 

 

 




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