目が覚めたらテラで目の前に濁心スカジがいた   作:ぺとら

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※ほのぼのです


第九話

 

 

 

「手紙届いたかな!?」

 

やぁ、俺だよ。

 

横着と金を惜しまずに、自家製インクじゃなくて店でちゃんとしたインクを買ってくれば良かったかなって思ったよ。

あと分かりやすい名前の方が良いかなって思ってスカジの名前を勝手に使ったけど、冷静に考えたら良くなかったかな。

 

まぁいいや、シーボーンは名前の使い方とか気にしないだろ。

 

「あぁ、感じるわ。半身が来ている。ようやく取り戻せるのね」

 

スカジは相も変わらずフワフワだ。

ポロロンとハープを掻き鳴らしてはなんか言ってる。

 

 

ラテラーノの観光名所はもうだいたい回ってしまった。

教皇庁はどれもデカくて綺麗だったし、公証人役場もデカくて綺麗だったし、ランデン修道院はパン屋だった。ワインは美味かった。

 

鐘は鳴らせなかったな。

俺には不死の勇者になる資格はないようだ。

 

ロドスの人たちとも結構仲良くなれたし、その過程で血液中源石密度を測定して本艦に行けって言われた。

 

この世界で文明に触れ、実際に人々と話してみて思ったけど、やはり鉱石病や巨獣みたいな影の部分が介在しない世界は明るくていい。

その分、平和な面に比べて大きすぎる戦争やら差別やらで辛く悲しい陰惨なことばかりが目立って見える。シーボーンが築き上げるみんな等しく怪物な社会でも、そういった格差は生まれるんだろうなぁ。

 

 

まぁ、今は目先のことだけ考えて生きていこうか。

 

最近は投げ銭の稼ぎもいまいち伸びなくなってきたし、そろそろ次の国に行こうかな……

カジミエーシュ……はやっぱりやめておこう。イェラグ……お家騒動が終わってるなら行ってみる価値は十分あるなぁ。

 

うーん……おっスカジ、どうした?

 

「来たわ。行きましょう。さぁ、私と一緒に」

「おい待て、手を引くな。どこに行く気だ?」

 

ラテラーノを横切って移動都市の端の方へと……待ってこれ出国しようとしてない?

待て! スカジ待て! ステイ! バイク回収するから! 宿の荷物回収するから!

 

あぁもう力強い、実体化出来るようになってから妙にアクティブになりやがって!

 

バカ野郎お前俺が勝つぞお前!(触手) あぁもう逃れられない!!(シーボーン)

あと出国するときは消えておけよ! 揉めるの嫌だからな!

 

あぁぁぁぁロドスの人達への挨拶がぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

◆

 

 

 

スカジは荒野を進んでいた。

 

近くまではロドスの飛行機が送ってくれたから、後は停泊するラテラーノの移動都市まで行くだけだ。

 

ロドスは本当に良くしてくれる。

往復の迎えを約束してくれたし、十分な食糧や費用を与えてくれた。天災トランスポーターをあてがってくれたし、エンジニア部が装備の整備も万全にしてくれた。

 

愛想が無ければ可愛げもない自分には勿体ない人たちだと、スカジは思う。

 

 

スカジの内に渦巻く感情は非常に複雑だ。

それは勇気でもあるし、怒りでもある。恐れでもあれば、焦りでもある。

 

スカジがアビサルハンター足りうる情念は、幾重にも重なって重なって、彼女の体を突き動かす。

 

 

この世界は残酷だ。

 

かつて、スカジの大切な人たちは皆、殺された。

そして、ただ一人、スカジだけが生き残った。

 

悲しい思いをたくさんして、後悔もしてきた。

それでもと諦めずに歩み続けて、ようやく辿り着いた新天地(ロドス・アイランド)。

 

かつての、もはや死んだと思っていた僚友と再会を果たし、そして新たな友ができた。

守りたい、この人たちと歩んでいきたいと、心の底からそう思ったのだ。

 

 

だからこそ、スカジは己の領域を侵す怪物を許さない。

 

ようやく、長い時間をかけて、ロドスを家だと認識できるようになったのに。

ドクターに「気を付けて帰ってこい」と言われて、何も考えることなく頷けるようになったのに。

 

 

あの手紙は、スカジにとっての宣戦布告だ。

内容なんてどうでもいい。『海』の怪物が今度はどんな進化を遂げたのか知ったことではないが、いつかのシーボーンのように滅ぼしてやるだけなのだ。

 

 

そう思うと、大地を踏みしめる足も力強くなる。

 

硬い岩石を踏み砕き、深い足跡を刻み付けていくスカジは、いっそ殺気立っていた。

野生の獣がこぞって逃げ出していく。乾いた風の音だけが響く中、ただ一人、スカジだけが往く。

 

ラテラーノは、もうすぐだ。

 

 

 

 

――ふと、懐かしい匂いがした。

 

 

潮の香り。

 

波のさざめき。

 

湿った空気。

 

 

~♪

 

アビサルハンターは溺れない。

アビサルハンターは波を友とする。

誰よりも怨敵に近しいアビサルハンターは、海に抱擁されて眠る。

 

 

〜~♪

 

 

夜の月明かりを返す凪いだ水面が、スカジの脳裏によぎる。

 

歌が聞こえた。

スカジの知らない歌が。妙に魂に響く歌が。

 

 

──Look to the sky, way up on high(空高く、天を仰げ)♪

――There in the night stars are now right(今宵、星辰は揃うだろう)♪

 

 

知っている。

それは、知っている声。

 

夢(・)で(・)聴(・)い(・)た(・)歌。

 

誰もが――そう、誰もが、何者にも縛られず、思うままに泳いでいた。

海を、地を、空を。全てが海になり、海面と夜空は溶け合い、ひとつに。

 

自由。穏やかな平和。誰も苦しまない、誰も争わない、全てが同胞の夢の世界。

 

 

──Up from the sea, from underground.(海から来る。地から来る。)♪

――Down from the sky, they're all around(空から来る。そこにいる)♪

 

 

ふらふらと引き寄せられるかのように足を運ぶ。

 

そうだ。

あの時語り掛けてきた、赤い少女。

 

自身(スカジ)に瓜二つの、歌う少女。

 

 

スカジはようやく理解した。

 

夢の意味。

誰もが憧れる楽園。

 

ただ唄う赤き少女は、『進化』に打ち勝った者。

 

スカジ自身の現身でありながら、ソ(・)レ(・)はスカジとは異なるものなのだ。

 

 

――Scary scary scary scary solstice(究極の恐怖が出で来たる)♪

――Very very very scary solstice(絶望呼ぶ恐怖がやってくる)♪

 

 

歌声はふたつ。

奏でる音はひとつ。

 

静かな、しかし荘厳な曲は、岩場に拵えられた簡易的なキャンプから聞こえていた。

 

 

二つの月が夜空に浮かび、星空を照らしている。

 

火が揺れ、煙が立つ。

そこには、匂い立つものがある。

 

 

――They will returnやぁ、おかえりなさい

 

 

スカジが勢い良く踏み込み、そして靴が土を蹴って音を鳴らしたとき、背を向けていた男はゆっくりと振り向いた。

 

 

ち(・)ぐ(・)は(・)ぐ(・)だ(・)、という印象を受けた。

 

それはただ一人の人間のように呑気な顔をしていて、なのに身に纏う濃厚な潮の香りがスカジの脳にまるで異なる情景を叩き付けてくる。

夜風に凪ぐ海。新月の夜の浜辺。水面に浮かんだ星空。陸の、乾いた大地の上で、なおも磯に立っているかのような気分にさせられる。……だからこそ、朗らかな笑みを浮かべる男が、どうにも恐ろしい。

 

「驚いた。まさか、こんなところで君に出会うとは」

「…………私を、知っているのかしら」

「勿論だとも、アビサルハンターのスカジ。会えて光栄だ」

 

たっぷり逡巡してから、スカジは辛くも剣を抜くのではなく返事をすることに成功した。

元来アビサルハンターは海の怪物を殺すことしか考えておらず、たとえシーボーンが会話を試みても構わず踏み潰してきた。

 

そのあり方がここでねじ曲げられたのは、どうにも男の芯の部分がスカジと同じ人間にしか見えなかったから。

 

「あなたは、何者かしら。そしてあの手紙は、どういう意味なの?」

「何者……俺にも分からないな。しかしまぁ、手紙の意思は、書いた通りさ」

 

男は飄々と笑った。

 

シーボーンはこんな風には笑わない。もっと悍ましく、気味の悪い音で笑う。

ならば……男はただの人間? まさか、エーギルよりももっと色濃いものがそれを否定しているではないか。

 

ますます男のことが分からなくなる。

剣を抜けばいいのか。男を斬り捨てればいいのか。

 

思わず柄を握った手は、しかしそれ以上は動かない。

 

「おや、物騒だ」

 

スカジは自身の腕を疑わない。

スカジは自身の直感を信じている。

 

だからこそ、明白に白とも黒とも判断を下せない眼前の男を前に、迷う。

 

 

しばらく睨み合って、ふと思った。

 

疑わしきは罰せよ。

とりあえず拘束してから尋問するのも悪くないんじゃないか。

 

脳筋コミュ障などと揶揄されるスカジは、対人戦の経験にいまいち欠けていた。

 

「あなたが何者か、なんてどうでもいいわ。ここで叩きのめして、話を聞くのはそれからよ」

「ふむ……何か勘違いがあるようだ」

 

残念だよ、などとのたまう男は、言葉にするほど残念そうな様子を見せない。

それがどうにもスカジの神経を逆撫でする。

 

もとより怨敵たる『海』の気配をまき散らされて、スカジは気が立っているのだ。

 

陸の人間も存外に頑丈で、多少ぶん殴っても死にはしない。

それをロドスに来てから学んだスカジは、やはりそれまでのように峰打ちを叩き込んでやろうとした。

 

 

剣を抜く。

波濤を切り伏せるもの、『神』を堕としたもの。

 

簡単な話だ。ダーッっと行って、ドンッと倒して、パパッと片付ける。それで終わり。

面倒なあれこれはなし、怪物は皆殺し、ロドスに帰ったら晩御飯はピザと洒落込もう。

 

さっさと終わらせる。

一歩を踏み出すために構えたスカジは、そして、気付く。

 

「…………これは」

 

 

赤(・)が舞う。

空を掻き分け、重力を手放し、赤が舞う。

 

彼らはやがて海を超え、陸地に適応するのだろう。

 

夢は、やがて現実になる。

 

「君たちには堪え性というものが無いのか?」

 

男が笑う。

数多の恐魚を引き連れ、大量のシーボーンを従え、そしてソ(・)レ(・)を侍らせる男は、静かに笑う。

 

 

 

ひやり。

 

頬に冷たい感触が走った時、スカジはようやく自身に触れる白い手の存在に気が付いた。

 

「生物濃縮、という概念を知っているかしら」

 

振り払うように身を捩り、バックステップで後退。

手の主は、先程までスカジがいた場所に立っている。

 

「あなた、は……」

「同胞の肉を食べ、血を啜り……それは彼の中で濾され、濃縮し、そして私へと還元されるわ」

 

赤い服の女。

銀の髪の女。

 

スカジに瓜二つの女。

 

「お互いを完全に同化し合い、取り込んでしまう私たちだけでは成し得ない『進化』……これが食物連鎖の恩寵なのね」

 

かつて夢で見た姿、いつかの未来でスカジが至るはずだった象徴。

 

根源を同じくし、決して交わることのない二つの存在は、しかし今ここに、確かに地に足つけて向かい合って立っていた。

 

「私たちはもっと高みを目指せるの」

 

男が笑い、女も微笑む。

 

濁心と呼ばれたもう一人のスカジ(シーボーン)は、歌うように囀った。

 

 

 




元となるCarol of the bellsはパブリックドメインです。
が、何か問題がある場合は修正します。

あと私事ですが同時に投稿してるもうひとつの小説も日間ランキング入りしててウレシイウレシイね
オリジナルファンタジーモノで作風も全然違うけど気が向いたら読んでね、真ん中の方にあるから
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